エンカウント
校長先生が何やら演説をする。いつもきこえない。巧は聞いているふりをして、静かに机に座っていね。そして、小説の続きを構想する。
夏休みの残りは、ぼんやりとしているうちに過ぎた。具体的な小説という形にはならなかった。
演説が終わり、ホームルームが終わり、掃除が終わる。放課後の時間が始まる。とたんに騒がしくなって、しばらくすると静かになる。その静けさが好きだ。何も聞かなくていい静けさが好きだ。空っぽになった教室をながめながら、想像の世界を歩くのは楽しい。
「なあ。」
不意に後ろから、声をかけられた。背が低くて、目が鋭い短髪の少年。妄想が中断された反動で、巧は身をすくめた。「気の強い男子生徒」なんて天敵以外の何者でもない。
「いやいやいや、何でこわがる。」
防御姿勢をとる巧に笑いながら、近寄ってくる。そしてかまわず、ぱんぱんと背中をたたく。猫実さん以外の人に触れられたのは久しぶりだ。
「何......ですか?」
先輩の可能性もあるので、敬語できく。
「見たでぇ。」
「でぇ……?」
「お前も小説書いてるだろ?」
耳元で言われると、変な気分になる。巧はうんともすんとも言えなくなる。
「休み時間にせっせせっせと書いてただろ……。あれ、小説?」
「うん…。」
巧は教室で小説を書いていた。誰にも話しかけられないし、思いついたらすぐ書きたいからだ。
よく見ると彼は、同じクラスの勝浦だった。声が大きかったので、自己紹介の時に、唯一、ききとれた人だ。
『勝浦勝です。よろしく』
とハキハキとさけぶように言っていたのを憶えている。その時は「勝浦勝、小説に使えそうな名前だ」としか思わなかったが。
「んで、俺も小説書いてるんだぜ。」
といいながら、勝浦はバッグからビンク色の小冊子をとり出した。表紙に桜のイラストが散りばめられている。そして、金色の文字で『夜桜ファン』と印刷されていた。




