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クリエイト!(その3)  作者: 大塚
夏が始まる
24/118

「もやもや」してもいいんですよ

 巧は、少し喉を鳴らして違和感を確かめる。いつもの何倍も話をした日だった。結局気がついたら夕方になっていた。巧は、猫実さんと話しながらラジオの原稿を練っていた。最後は喉と頭が限界に達して、巧が音をあげたのだ。猫実さんは、巧に合わせて今日の練習を切り上げた。

 「頭って疲れるんですね」

 巧は、生まれて初めて知る事実のように言った。

 猫実さんは、少し答えに戸惑うように笑った。巧は、何がおかしいのかわからなくて、微笑む。いつの間にか、わからない時は微笑みが勝手に浮かぶようになった。それが正しいことなのかどうかはわからない。

 夕方の帰り道は、いつも見ているはずだったが、この日は特別に思えた。夏休みで、本来なら学校にいかないはずの自分がこの道を歩いていること。そして、道から見える景色が自分がいないはずの日にもこうして同じ景色をしていること、それが不思議だった。

 「あの。巧さん」

 猫実さんの声が聞き取れずに、巧は気がつくのに時間がかかった。急いで、彼女の方をみて言葉を取り戻そうとする。猫実さんは、変わらずに言葉を続けた。

 「巧さんって、遊ぶの苦手なんですか。」

 巧は、そう言った猫実さんの顔を見た。

 とっさに何か言葉を返そうとしたが、頭が熱くなって何も言葉が出ない。先程の自分が、思いっきり叫んでいる様が頭の中にフラッシュパックしてくる。

 「いや、なんか、なんとなく苦手だなって」

 巧は、意味のない言葉を口ごもるが、猫実さんは真面目に聞いている。まるで人生相談のカウンセラーのようだ。何気ないところでも、彼女には手を抜くところがない。

 「どうして、ですか」

 猫実さんは、柔らかく問いかける。

 「どうして、か。考えたことなかったです。」

 巧は、少し落ち着いて気を取り直す。相変わらず、心臓は早鐘を打っているが。会話だけは、なんとか取り持とうとする。

 どうして、と聞かれて巧は自分の過去を思い出す。まず何より、休日に誰かと遊んだ記憶がない。猫実さんと、夜桜先輩と出かけた思い出以外がないのだ。

 「まず、誰かと遊びに行くことがないんですね」

 「ああ、、、」

 猫実さんは、それを聞いて重々しくため息をついた。ついでに巧も暗い気持ちになった。

 「かわいそうにとか、思わなくていいですからね。それが逆にプレッシャーですから。」

 巧は、うなだれる猫実さんのうなじに声をかけた。

 「そ、そうですね!」

 猫実さんも、ポニーテールを振り上げながら何かを閃いたように笑う。

 「巧さんは、別に誰とも無理やり遊ばなくていいのです!そのままで!!」

 「そのまま、、、」

 巧は、口にした途端に違和感が体を駆け巡るのを感じた。

 「でも、多分、今の自分を変えたいのだと思います。」

 「そうですか」

 猫実さんは、受け止めてから腕を組んで考えこむ。さっきから歩きながらするには、重たくて巧は腰を据えて話したくなってきた。駅が近づいてくるに従って心がそわそわしだす。別れるまでに結論がつくのだろうか。

 「でも、それもそのままでいいと思います。」

 巧は、意外な答えに少し驚く。なんとなく猫実さんなら解決策を出してくれるかと思っていた。

 「今のままだとダメだとか、今のままでいいのかなって私もずっと思ってます。」

 「そうですか」

 「ええ」

 猫実さんはきっぱりとうなずいた。

 「いつも、もやもやしてて、でも時々少しだけすっきりするんです。でもしばらくするとまた『もやもや』が!」

 猫実さんは、胸の前で指をぐちゃぐちゃに動かす。まるでお化けを発見した子供のように、目は見開かれている。そして、手を握り締めて言葉を探す。まるで、そこにある『もやもや』対話するかのように。

 「でも、その『もやもや』って多分、前のとは違う『もやもや』なんですね。きっとレベルアップした『もやもや』なんです。もやもやしててよくわからないんですけど、、、」

 巧は、猫実さんの話に強くうなずく。

 「わかります。」

 「ホントですか!」

 猫実さんは、話が通じたのが嬉しくてぴょんと飛び跳ねる。

 「この話、なかなか通じないんですよ。もやもやしますよね。」

 「えーと、僕の中では当たり前だと思ってたんですけど」

 それでも、猫実さんは興奮冷めやらぬ様子で目をキラキラせている。猫実さんは、巧の胸の前で、手の平をワタワタさせる。どうやらハイタッチしたいみたいだ。巧は、嬉しいような戸惑うような気持ちになって喜んでいる猫実さんに合わせて、ハイタッチする。その途端に、スイッチが入ったように暖かい気持ちになった。久しぶりに、猫実さんの手を触った気がする。

 「やっぱり『もやもや』はいるんです!」

 「居ますよ、きっと。多分、僕の胸の中にも。」

 巧は、なんとなく自分の胸に手を当てた。何も起こらない。

 「『もやもや』と一緒に自分も成長するんですね。」

 「はい。だから、『もやもや』してもいいんですよ」

 猫実さんは、一件落着というように、すっきりと微笑んだ。

 巧は、どこかで『もやもや』が消える音を聞いた、、、ような気がした。


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