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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第十一章

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第七十一話 罪と罰と謝罪と反省

 その光景を目撃した透人は少なからず動揺し、戻ってきたリングを危うく掴み損ねそうになる。協力していた金悟と早喜もそれぞれ感情がはっきり分かる反応を見せた。

 

 それらの原因となった光景とは、金悟の斬撃の軌道に割り込んで虫型のモンスターを庇ったマコトの姿だ。

 彼の意図は不明だが、何やら剣呑な雰囲気を纏っているところからするとそれなりの理由があるらしい。


 そんなマコトの不可解な行動によりシンと静まった空気の中、真っ先に動きを見せたのは金悟。

 猛々しい気配を発する彼は、弾かれた黒剣を構え直しつつ問いかける。


「何の真似だ? タコ野郎」


 するとマコトは濃厚な敵意にも怯まず、初めて見るキリッとした顔で自らの主張を言い放った。


「それは自分の台詞だよ君達! さっきから見てたらよってたかって生き物をいじめて! 酷いとは思わないのかい!?」

「あぁ? ふざけんな! んな理由で邪魔すんじゃねえよ!」

「お前な、今はそんな事言ってる場合じゃないんだよ!」

「うぅん、まぁ……成程?」


 思いがけない悪者扱いを受け、金悟と早喜は目を吊り上げて言い返す。

 しかし透人は一応の理由を聞けたので、首をかしげながらもとりあえず納得していた。


 弱いものいじめ。端から見ると確かにそうかもしれない。

 数も大きさもこちらが上、向こうの方が明らかに不利だ。

 とはいえ透人は相手が相手なのでそれが卑怯だとは思わない。そのまま放置しておく訳にもいかない。

 という事でマコトの説得を試みる。


「あー、マコトさん。だからですね、あれは危険なんで倒さないといけないんですよ」

「危険? だからって別に倒す必要はないだろう。いいかい? こんなに興味深い生物は初めてなんだ。退治なんてとんでもない。是非とも捕獲して研究してみるべきじゃないかい!?」

「あぁ、成程」


 マコトは瞳をキラキラと輝かせ、虫を腕(?)で指し示し、その見逃すべき根拠を堂々とアピールした。

 どうやら動物愛護の精神などではなく、単に自らの欲求に従っていただけらしい。機械より生物が専門といっていただけの事はある。

 透人は今度こそ納得し、深く頷いた。

 そして他の二人はというと。


「お前なぁ……!」

「チッ。何なんだこのタコは……」


 早喜は呆れと怒りを顔ににじませ、金悟は舌打ちで不快感を顕にした。

 自分勝手な輩には当然の反応だろう。


 ただ、二人はそんな怒りをすぐに収め、気を引き締め直したように表情に緊張感を帯びさせた。

 余計な事をやっている内に動くだけの力を取り戻しでもしたのか、件の虫が飛行し始めていたからだ。


 ただしその前では、邪魔な存在が二人と真逆の反応を示していた。


「おー、よしよし。もう大丈夫だよー」


 マコトは三人に背を向けて、嬉しそうな雰囲気の弾んだ声を出す。それからモンスターを迎え入れるようなポーズで近寄っていき、そして。


「ムアップァァァ!」


 庇っていた虫に勢い良く突進され、奇妙な悲鳴をあげながら金悟の横を通り過ぎ後ろに吹っ飛んでいった。

 なにやら既視感を覚える光景だった。


「……いや、学習しろよ」


 ボソッとツッコミを入れる早喜。その顔には呆れの色がハッキリと浮かんでいる。マコトを心配している様子は皆無だ。


 彼には悪いが透人も似たような心境だった。自業自得だと片付け、敵を見据える。

 虫はマコトに体当たりした後、一度上昇していた。それから反転し、急降下突撃を仕掛けてくる。

 金悟は反応して前に進み出ようと足をピクリと動かすも、それを押しとめて悔しそうな顔で後退する。


「チッ! そこの女任せたぞ!」

「その言い方何とかしろよな!」


 そう喧嘩腰で言った早喜だが、協力はするらしく金悟が空けたスペースに駆け込んだ。

 虫の飛行する軌道に合わせて立ち位置を調整し、例の装置を起動する。


 結果、虫がバチンと弾かれた。体勢を崩しふらふらと下降してゆく。

 そこを透人がリングで追撃した。薄い羽を狙って何度も攻め立て、更に魔法も発動、体勢を立て直す暇を与えずに墜落させた。

 再び訪れた絶好の機会。連携の最後を担って貰うのは金悟だ。


「っし、今度こそっ!」


 気合い充分。黒い大剣を構えて突き進む。

 あとはとどめを刺すだけ。


 しかし同じ行動には、やはり同じ結果が伴うようで。

 金悟の背後には彼を妨害しようと忍び寄る影があった。


「待つんだ君、はやまるんじゃない!」


 当然の如く、復活したマコトである。

 彼の手(?)は何かしらの機械を操作している。本気で妨害するつもりらしい。


 仕方ないと考え、透人はリングをマコトに向けようとした。

 その時、強くハッキリした凛々しい声が響く。


「だからお前はっ!」


 声の主はマコトの真横に高速で走り込んだ早喜。

 宇宙製の機械を使用した人間離れした速度で近づき、その速度でもってマコトの妨害を妨害する。


「邪魔すんなっ!」


 様々な思いが込められた叫びと共に放たれたのは、猛然と空気を切り裂く回し蹴り。

 直前まで金悟に何かをしようとしていたせいか、バリアによる干渉はなかった。

 横っ面を蹴飛ばされたマコトは「ムギョフッッ!」という悲鳴を残し宙に放物線を描いていく。


 これでもう邪魔者はいない。

 気合いを入れ直した金悟は存分にその力を振るう。


「オッラァッ!」


 獰猛に吼えると、最後の攻撃を繰り出した。単純な、けれど尋常でない力を秘めた降り下ろしだ。

 甲高い金属音と足元を揺らす衝撃が周囲に広がる。

 金悟が降り下ろした黒剣を退けると、既にひび割れていた虫の殻は粉々に砕けていた。

 それから数秒経過すると、虫は塵となり跡形もなく消滅。


 こうして白と黒の異世界から現れたモンスターは倒され、ついでに無駄に場をかき乱した宇宙人もまた成敗されたのだった。



  *



 色々と複雑な経緯の末に、よく分からない別の世界(透人談)から現れたという虫は倒された。


 だが、早喜にはまだやらなければならない事が残っている。

 だから一段落着いた後、彼女は二人の男子に正座で相対していた。


「すまん、悪かったな。アタシが勘違いで余計な事したせいで事態をややこしくしちまった」


 両手を合わせつつ、申し訳なさそうに頭を下げる。

 知り合いがかけた分の迷惑も含め、事件を複雑にしてしまった謝罪だ。


 場所は未だに宇宙人の技術により造られた別空間の中。一面にタコ型宇宙人の姿が表示されているのでどうしても目についてしまい、非常に居心地が悪い。


 なのにそこにいる理由は、人に聞かせられない話をする為。というよりも謎技術の操作方法を(全てではないが)知るマコトが完全にのびており、起き上がる気配がなかったから。目を覚ますまで脱出出来ないからだ。

 端的に言えば早喜がやり過ぎたせいである。


 それでも早喜の謝罪を聞いた透人は、本気で何も気にしていない様な口振りで返答する。


「いやぁ、別にいいよ。今日は日村さんとマコトさんにも助けられたし。だよね、玄堂君」

「……俺に振るな」


 しかしもう一人の金悟は、透人と違って憮然とした態度をとっていた。


 普段の教室で見かける時もいつもそんな様子ではあるが、眉間の皺や目付きを見ると不機嫌さが増しているように思える。


 やはり閉じ込められたと怒っているのか。

 そう思ったものの、早喜は自身へと向けられる敵意や怒りを感じない。

 だったら原因は何かと気にはなったものの、余計な詮索はトラブルの元にもなりうる。触れずにおくべきだろう。


 だがしかし、そんな事を気にしない人物がすぐ傍にいた。


「んー。玄堂君、なんか機嫌悪いね。マコトさんのせい?」


 率直に尋ねたのは相変わらず無表情な透人だ。

 あのマコトと気が合うくらい適当な男だということを忘れていた。


 金悟は今にも手を出しそうな荒々しい雰囲気を纏っている。

 透人は大丈夫かと早喜が心配しながら見守る中、金悟は苦々しげに歪めた表情で口を開く。


「……違えよ。俺が未熟なせいで、テメエだけじゃなく部外者にまで借りを作っちまったせいだ」

「あ、言ってくれるんだ。無視すると思ってた」


 金悟がしたのは己を戒める真面目な発言。

 それを茶化した透人は彼に迫力のある眼光でギロリと睨まれたが文句は言えないだろう。

 ただそれも透人はものともせず、呑気に話を続けた。


「でも別にそれぐらいいいんじゃないの? 相性とかあるし。部外者でも一般人じゃないし」

「いい訳ねぇだろうが。あれの管理は俺達の責任で、仕事で、使命だ。部外者に任せてたまるかよ」


 金悟は思いの他真剣な眼差しで語った。

 責任感に使命感。それらを抱え、覚悟した、強い気持ちがこもる表情だ。


 早喜も一人で厄介な事情を抱えてきたがそれとは全然違う。

 決して成り行きではなく、仕方なくでもない、自分の意志で選んだ道。

 それを他の誰にも譲れない、譲りたくないという思い。

 要するに自尊心、プライドだ。

 先程の発言は彼の揺るぎない信念というものなのだろう。

 知り合いが起こす面倒事を、成り行き上仕方なく解決していただけの早喜にはなかっものだ。


 あまり良い噂を聞かない粗暴な不良。

 今まで金悟にはそんなイメージを持っていたが、実際は決してそんな事はなかった。人の為に自分を犠牲に出来る、頼りがいのある男だ。

 だったら早喜は、認めるしかない。


 のだが、空気を読まない透人はまたも茶々を入れる。


「……玄堂君て見た目によらず結構真面目だよね」

「黙れ」


 金悟は真剣な顔を恐ろしいものに変えてきつく睨んでいる。

 何故わざわざ怒らせるのか理解出来ない。


 空気が悪くなりそうなので早喜は話題を変える事にする。

 丁度確認したかった事があるのだ。

 二人の間に割り込むように早口でまくしたてる。


「というかアンナが隠してたのってこれだったんだよな。下手に誤魔化さずに一緒に連れてこれば良かったんだな。そうしとけばもっと早く済んだのに」

「……アンナ?」


 だが、金悟には通じなかったらしく、困惑の様相を見せた。とぼけているというより、本気で話が通じていない顔だ。

 何かがおかしいと早喜は戸惑いつつも、もう一度尋ねる。


「……え? いや、だから、仲間なんだろ?」

「あー、違うよ日村さん。観鳥さんはまた別件。玄堂君とは無関係だよ」

「…………は?」


 そこに透人が重要な内容をあっけらかんと言ってきた。

 そのせいかはともかく、意味を呑み込むのにたっぷりの時間を要してしまう。


 早喜としては困惑せざるをえない。

 そして同時に恥ずかしさも感じた。


 先程の金悟の信念。

 それを聞いて大丈夫だと判断し、心配せずにアンナを任せられると思ったのに。

 むしろアンナは足手まといになっていそうで、金悟には悪いと思っていたのに。

 全て早とちりだったらしい。

 早喜は頭を抱え、前の二人からは見らえように顔を伏せた。


「待てテメエ。それは何の話だ」

「んー。まあ、プライバシーの話? だから気にしなくていいと思うよ」

「だから誰のプライバシーだ。まさか他にも俺の事を知ってる奴がいるのか?」

「それは問題ないよ。さっきのは日村さんの勘違いで玄堂君とは一切無関係だから」


 早喜と同様に困惑した様相の金悟を、透人はのらりくらりと受け流している。

 この様子ではアンナの秘密について聞いてもはぐらかされるだけだろう。


 だから早喜は頭を抱えたまま、一人で思考を巡らせていた。


 金悟の事情とはまた別の危険な秘密。

 だとしたらアンナは一体何を抱えているのか。

 というか透人はどれだけ他人の事情に精通しているのか。

 無理矢理話させた方がいいのか。

 本当に心配するような危険はないのか。


 答えの出ない自問を続けた末、早喜は一つの結論を下す。


「……ま、流石にこれ以上変なもんはでてこないか」


 堂々巡りに疲れた彼女は、そんな独り言でお節介な思考を放棄した。

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