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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第四章

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第十七話 トラブルメーカー

 帰りのホームルームが終わり、部活動へと行こうとしていた早喜に電話がかかってきた。

相手を確認した早喜は嫌な予感がしたが仕方なく電話に出る。


「………今度は何やらかしたんだ」

『いやー。それがポゼレンが一体行方不明になってさ』


 最初から電話の相手が何かやらかしたと決めつけていた早喜だったがその予想は当たっていたようだ。


「はぁ!? おいそれってお前のペットの事だよな!? 逃げられたのか!?」

『逃げたというより、朝の散歩に行った時に迷子になったんじゃないかと』

「朝!? 何で今頃言うんだよ!? いや、そもそもお前のペットを外に出すなよ!」

『ペットの散歩っていうのをやってみたくてさ』

「そんな理由で出すなよ!」


 早喜は電話の相手に対しての怒りを抑えて何とか声を荒げずに続ける。


「朝言わなかったのはちゃんとした理由があるんだよな?」

『そりゃあ勿論あるさ。朝の時は………気づかなかったんだよ』

「…………はあ!? ふざけんな! このバカ!」


 早喜は周りに残っている生徒に怪しまれない様に器用に小さい声で怒鳴った。


『少し落ち着いたらどうだい?』


 一体誰のせいだと思っているのか。

 叫びたい衝動にかられたが深呼吸をして落ち着かせ何とか心の中で留める。


『それで一時間位前に気づいて探してるんだけど見つからなくてさ』

「それはマズイだろ! 誰かに見られたら騒ぎになるぞ!」

『それは大丈夫。この時間なら寝てる筈だし、寝てる間は全く動かないから。騒ぎにはならないよ』

「だったら起きる前に見つければいいのか。…いや、本当に寝てるのか? 大丈夫なのか?」


 早喜は心配になり何度も確認するが電話の相手はいたって平静であった。


『情報収集用の首輪からはそういう情報がきてたよ』

「それなら居場所は分かったりしないのか?」

『途中で情報送信が途切れたから無理。多分壊れたかバッテリー切れだと』

「あー、もういい。分かった。手伝えばいいんだな? 今は何処にいるんだ?」

『助かるよ。最後に情報の送信があったのは新陽公園ってところで今はその辺り。写真も送っておくよ』

「そうか、すぐ行く」


 早喜は電話を切るとため息をついた。

 全く何故こんな事をしなければいけないのか。

 気は進まないが探すのを手伝うしかない。

 部活も休まなければならない。

 早喜は再びため息をつくと急いで教室を出ようとする。

 そこにニヤニヤと笑う市乃が近づいてきた。


「なにかお困り~?」

「いや、別に何でも……」


 この忙しい時に面倒臭い奴に絡まれてしまった。

 早喜は適当にあしらおうとして、途中で止めた。

 情報通の市乃なら何か知っているかもしれないと思ったのだ。あまり人に知られるのは困るが早く終わるのならそれにこした事はない。


「あ、いや知り合いが落とし物をしてな。お前なら何か知ってるか?」

「ん~、どれどれ~?」


 携帯電話に送られてきた写真はデフォルメされたぬいぐるみのようだ。これなら知らない人に見せても問題ないだろう。

 早喜は携帯電話を見せたが市乃は首を横に振った。


「う~ん。残念。これは知らないかな」

「あー、そうか。ならいい」

「でも落とした場所に心当たりがあるならその辺りに住んでる人は教えられるかもよ?」


 確かに市乃なら住所を知っていてもおかしくはない。

 早喜はそう思っている時点で何かが間違っているような気もしたが深く考えるのは止めた。


「落としたのは新陽公園ってところらしいな」

「それなら近くに住んでるのは明海君と麻生君だね。窓際の席のあの二人」

「……アタシが聞いといてなんだけど、個人情報あっさり言うんだな」


 早喜は複雑な目で市乃を見たが聞いたのは自分なのでそれ以上は何も言わなかった。

 悪いとは思ったが緊急事態だから仕方ないと自分に言い聞かせる。

 そして早速話を聞きに行こうとしたのだが、市乃がニヤニヤ笑いを深くして身を乗り出してきた。


「ところでさっきのって例の人からのプレゼント?」

「はあ!? 何でそうなるんだよ!?」

「だって早喜はこんなの集める趣味じゃないでしょ?」

「アタシじゃなくて知り合いの物だって言っただろ」

「隠さなくていいのに~」

「話聞かねえな! だから違う! もういい加減離れろ!」


 イライラした早喜は怒鳴りつけた。

 その怒りには先程の電話の分も含まれていたかもしれない。

 ところが市乃はショックを受けたように顔色を変え、早喜の制服の裾を掴んだ。


「そんな! 用が済んだら私はもういらないの!?」

「だからいい加減にしろ! お前の遊びに付き合ってる暇は無いんだよ!!」

「そんな……! 私はただの遊びだったの!?」

「これ以上ふざけるな! というか演技が無駄に細かいな!」


 その後、市乃が「飽きた」と言って教室を出ていくまで早喜は怒鳴り続けていた。前々から思っていたがとことんふざけている奴だ。

 何故こうも人をイライラさせる奴ばかりなのか。無駄に時間を使ってしまった。

 早喜はもう一度ため息をつくと落ち着いて息を整えた。

 それから早喜は教わった二人に話を聞こうとした。その二人はまだ教室に残って話をしている。運が良ければ手がかりが見つかるかもしれない。


 そうして話した結果手がかりどころか預かっているという人が見つかった。

 早喜はこれで何事も無く終わりそうだと安心していた。

 ところが、早喜の苦労はまだまだこれからなのだった。



  *



 透人は朝に落とし物を家の前で見つけてそのまま預かっていると話し、その結果、早喜が透人の家まで受け取りに来るという事になった。

 そういう訳で透人は早喜を家まで案内する為に二人で帰っていた。早喜は徒歩で通学しているというので透人は自転車を押しながら歩いている。

 その途中、後ろを歩く早喜に謎の生き物について聞いてみた。


「で? 何なのあれ?」

「…………いや、何なのっていわれてもな……ただのぬいぐるみだって」


 早喜は言いにくそうに答えた。

 どうやら隠したままでいようとしているらしい。

 それは当然の対応かもしれない。

 だが透人にとってそれは困る。笑亜が教えてくれない以上、答えを知るには早喜に教えてもらうしかないのだ。


「いや、よく解んないけど生き物だったよ?」

「……は? いや…………あんな生き物いる訳ないだろ。何でそう思ったんだ?」


 早喜は戸惑いつつ否定した。

 それは普通なら正論だろう。

 ただし、透人は普通ではない世界が存在する事を知っている。

 とはいえ、生き物だと確信した理由は言えない。のでその事はスルーした。


「うん。普通いないから聞いてるんだけど」

「……あれはアタシのじゃないから詳しい事は知らないな」


 早喜は困ったようにそう答えた後、黙りこんでしまった。まだまだ教えてくれそうにない。

 それから透人は歩きながらどうやって聞き出そうかと考えていた。が、結局良いアイディアが出ないまま家の前まで着いてしまった。


「着いたけど、どうする?」

「持ってきてくれれば、あとはこっちで………………チッ」


 早喜は透人への返事を途中で切り、舌打ちをした。何かを見つけた様で透人の背後を恐い顔で凝視している。

 透人は早喜の視線に何があるのか確認しようと振り返った。

 そこにはヘラヘラと笑いながら透人達に向かって手を振るジャージ姿の男がいた。


「サキー。やっと来たかー」


 名前を呼ばれた早喜は露骨に嫌そうな顔をしていた。


「こんなところで大声出すなよ……!」

「ん? この人何なの?」


 早喜は透人の問いには答えず、歩み寄ってくるジャージの男に向かって叫んだ。


「もうお前はいらんから帰れ!」

「いらんって何だよ。二人で探した方が早く見つかるだろう?」

「もう見つかったんだよ!」

「だったら尚更自分がいないと駄目なんじゃないかい?」


 ジャージの男は早喜の言葉を受け流し、ヘラヘラとした顔つきのまま二人の元にたどり着いた。

 すると、さっきからジャージの男を観察していた透人と目が合った。初めて見る相手を見定めようとしているかのような目つきだ。

 そして、しばらくすると二人はほぼ同じタイミングで早喜に尋ねた。


「見つけてくれたのはその人かい?」

「日村さん、この人は?」

「あー、こんなんどうでもいいからさっさと持ってきてくれ。時間がかかるとこいつは何するか分からんから」


 しかし、早喜は二つの質問を両方ともスルーした。

 ジャージの男は早喜によっぽど嫌われているらしい。今もこいつと一緒にいたくない、という雰囲気を出している。


「まあ、庭の物置に入れといたからすぐに持ってこれるよ」

「待て。あれを生き物だと思ってるんじゃなかったのか」

「ん? なるべく人目につかないようにしようと思って」

「……そうか。じゃあさっさと持ってきてくれ」


 早喜は呆れたような顔で透人に指摘してきたが透人の理由を聞いて一応納得したようだ。やはり一般人は関わらない方がいい存在らしい。

 透人は庭に行き、自転車を止めると物置の扉を開けた。


「ん?」


 中には朝拾った謎の生き物が入っていた。ところが、その生き物は朝と様子が違っていた。

 まず、朝は線のようだった目が開いている。そして、何故だか小刻みに震えていた。

 嫌な予感がしたが、自分ではどうしようもないので謎の生き物を抱えて家の前で待っている二人のところへと運んだ。


「何か様子がおかしいんだけど」

「ちょっと見せてくれ」


 ジャージの男は謎の生き物を受けとるとへらへらしていた顔を引き締め、真剣な目つきで観察し始めた。

 しばらくすると、その前で謎の生き物の震えはどんどん大きくなっていった。


「やっぱりそうか」


 ジャージの男はそう呟くと身を屈め、謎の生き物を地面に下ろす。


「てい」


 そして、転がした。

 そのままゴロゴロと転がっていき壁にぶつかって止まる。


「おい、一体何してんだよ!」

「ちょっとマズイ事になっててさ」


 ジャージの男は立ち上がると早喜に答えながら腕時計を操作した。

 その次の瞬間、周りの景色が一変した。


 現れたのは真っ白な世界。


 透人の家だけでなく他の家も道路も全てが消え去った何も無い空間。どちらを向いても地平線まで白一色で染められている。

 そこには透人と早喜とジャージの男、それに謎の生き物だけが存在していた。


「って、関係無いのまで連れてくるなよ!」

「しょうがないじゃないか。時間もないし細かい調整は難しいんだから。そもそも操作方法がよく解んないんだよ、コレ」

「いつもいつも適当過ぎるんだよ!」


 そう言い合う二人の横で透人は考えこんでいた。

 一体何が起こったのかは解らない。

 だが誰が起こしたのかはわかっている。

 これだけの事をしたら誤魔化す事はできないだろう。

 透人はジャージ姿の人物に問いかける。


「あなたは何者なんですか?」


 透人の問いかけにジャージの男はヘラヘラしたままあっさり答える。


「簡単に言うなら宇宙人さ」

「簡単にバラすなよ!」


 正体を明かした自称宇宙人を早喜が叱っている。

 宇宙人と早喜の関係も気になったが、とりあえずこれで疑問は解けた。

 今回の一件は宇宙に関わるものだったのだ。


「ん~、そうか。宇宙人ときたか」

「何で簡単に受け入れてんだよ!」


 早喜のツッコミの矛先は透人にも向けられた。

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