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ヒーロー達と黒幕と  作者: 右中桂示
第四章

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第十六話 新種発見

「行ってきまーす」

「行ってらっしゃーい」


 ある平日の朝。

 透人は自宅の居間で学校に行く妹の光を見送った。

 父親は既に仕事に行っていて、母親は洗濯物を干しているため居間には透人しかいない。

 透人の方が自宅を出るまで時間に余裕がある。

 時間まで今日は何をしていようかと透人が考えていると扉を開ける音と光の声が聞こえてきた。


「ただいまー。誰か来てー」


 どうやら何か困った事が起きたらしい。誰かと言っているがここには今透人しかいない。それに今の声は母親には届いていないだろう。

 透人は思考を中断して玄関まで行き、光に声をかけた。


「何があったの?」

「うん。何かぬいぐるみが家の前に落ちてたの」


 光が指し示したところには白くて丸みがかった胴体に線のように細い目と口がついたものが転がっていた。耳や尻尾等はなく短い四本足だけが胴体から飛び出ている。顔は胴体とそのまま繋がっていて首が無いように見えるが位置からして首輪のような物が巻かれている。大きさは三十センチ程度。元の動物が解らない程デフォルメしてあるのか何かのキャラクターなのかは透人には解らなかった。

 透人は外に出て光と共にぬいぐるみを観察しながら対応を話し合った。


「カリー、これいる?」

「うーん。あんまり可愛くないよね、これ」

「別にいらないか。やっぱり交番に届けた方がいいかな」

「でもこんなの落としたら普通気づくよねー」

「そうだねぇ。落とし物じゃなくて捨てたのかもしれないかな」

「だからってこのまま放っておくのも邪魔だしね」

「じゃあ交番か。でもどこにあったっけ?」

「うーん。見た覚えはあるんだけど用は無かったからなー」

「まあ、適当に探せばいいか」

「私にはそんな時間ないなー。というわけであとはうどんに任せた」

「あぁ、うん。しょうがないね」


 そこで話し合いは終わり光は学校へ向かった。

 内容はいい加減な気もするがこの二人にはこれでいいらしい。第三者がいたらどう思うかは分からないが。

 とりあえず場所を動かそうと透人はぬいぐるみを持ち上げる。


「ん?」


 その時、透人は違和感を感じた。

 そのぬいぐるみは透人の予想よりも重量があり、それに妙に温かかったのだ。

 違和感をそのままにしてはおけず、透人はぬいぐるみを詳しく観察してみた。

 重いのは何かが詰まっているからだとも思ったが開くような箇所は無かった。タグも見つからない。それになにより顔の部分がリアルで、まるで生き物が眠っているかのようだった。


 ここで透人は、今抱えているこれがもしかしたら裏の世界に関係するもの、もしかしたら生き物かもしれないと思った。

 まだ決まってはいないが、これで安全を確認するまで交番に届ける訳にはいかなくなった。

 透人はどうにかして確認する手段はないかと考え、一つある事を試してみる事にした。


 それは、笑亜に言われてから少しずつ練習している霊視だ。

 もし生き物なら魂を感じとる事が出来る筈だ。

 笑亜は妖怪やUMAもいると言っていた。そういう存在にも魂があるのかは解らないが無駄になってもやってみて損は無いと判断した。

 透人の霊視はまだ時間はかかるが、近くにいる人間なら目を閉じていても魂を感じとる事が出来るようにはなっていた。

 魂を感じとるというのは、そこにいる人間の形のイメージが頭に浮かぶ、といった感覚に近い。曖昧だが気配等よりも確実に存在していると分かる。

 透人は目を閉じ、意識を集中させ、まず自分の魂を感じとる。それから抱えているぬいぐるみにもその感覚を広げていく。

 その結果、目の前の物体にもぬいぐるみの形の魂を感じとる事ができた。


 ピクリとも動かない上にどういう存在かも全く解らないが、とにかく生き物であるのは間違いなかった。


「どうするかなぁ。これ」


 透人はぬいぐるみ改め、謎の生き物を抱えてその対応を悩んでいた。

 透人は今回、何に巻き込まれたのだろうか。



  *



 とりあえず透人は謎の生き物を人目に触れないように家においていつもより少し早めに登校した。人畜無害そうだった為、そのまま放っておいてもいいだろうと判断したのだ。

 早めに家を出た理由は笑亜に相談したかったからだ。笑亜ならあの生き物が何なのか確実に知っているだろう。

 始業まで時間はあるが教室には笑亜がいた。いつも通り教室に一番最初に来ていたようだ。他にも人はいるが問題無いだろう。

 透人は自分の席に着き、笑亜に話しかける。


「今朝のあれ、どうすればいいかな」

「……いきなり何の話かしら?」


 笑亜は怪訝な表情で答えた。

 今までの話の中で何かを隠している事はあったが、その時とは様子が違う。演技ではなく本当に何の事か解らないようだ。


「ん? 俺は監視されてるんじゃないの?」

「二十四時間監視している訳ではないわ。人手も足りないし"主人公"の監視もあるもの」

「あー、成程」


 そもそも透人の存在は計画に無かったのだ。その分優先的に監視されていたのだろうが、本来の計画を放っておく訳にもいかないのだろう。


「それより貴方、監視されてる人の態度じゃないわよ。私が言うことでもないけれど、プライバシーはどうでもいいのかしら」

「そんなの今更じゃない?」

「……フフフ、まあ貴方自身の事はいいとして、本題に入りましょうか。一体何に巻き込まれたのかしら」


 一瞬の間を置いてから笑亜は愉しそうに笑って話を促した。

 透人は内心監視されてた方が説明する手間が省けて楽だと思っていた。そのため、面倒臭そうに今朝の出来事を説明し始めた。


「……と、いう訳なんだけど。どうすればいいかな」

「事情は解ったのだけど、その前に一ついいかしら」

「ん? 何?」

「話に出てきたカリーというのは誰のことかしら?」


 再び笑亜は透人に尋ねた。

 話が本題から外れてしまうが仕方がない。透人は説明している間も当たり前のように妹をあだ名で呼んでいたのだ。


「あぁ、うん。妹だけど」

「妹……確か光、だったかしら」

「それで合ってるけど、知らなかったの?」


 笑亜が光という名前を出した事に透人は驚かなかった。前に情報を集めていると聞いていたからだ。

 だからといって平然としているのはおかしいが。


「あだ名で呼んでるなんて情報まではなかったわね」

「んー、まあそんなもんか」

「フフフ、やっぱり個人情報が漏れてる事はどうでもいいのね」


 透人はいつも通りの様子で何でもないようだった。本当にどうでもいいと思っているのかもしれない。

 ここで笑亜は今までよりも面白そうな微笑みへ表情を変えた。


「それじゃあ本題に入りましょうか。といってもまあ、その生き物については貴方からは何もしなくていいと思うわよ」

「ん? それでいいの?」

「ええ、その内担当の"主人公"から接触してくるでしょうからそれまで待っていればいいのよ。その後からでも二人で解決すれば何の問題も無いわ」

「確かに急がなくてもよさそうだったけど。…まあ、いいならいいか」


 透人はそれで納得して誰かは解らないがとにかく人を待つ事にした。

 それであっさり相談は終わった。本題について話す時間の方が短かったかもしれないがほとんど透人のせいである。


「それにしても貴方から連絡できないのはやっぱり不便ね。携帯で連絡できるようにした方がいいかしら」

「ん? テレパシーがあるのに?」

「私のテレパシーは伝える方に特化していると言ったでしょう? 色々と制限があるのよ。普通に使えたとしても使い過ぎれば問題があるし」

「んー。まあ、そういうもんか」


 笑亜の言葉に透人はとりあえずは納得した。

 それは、使い過ぎれば問題があるというのは紅輝からも言われていたからだ。それに、サイコキネシスの実験をしていて頭痛がしたり怠くなったりというのも既に経験済みだ。


「貴方も超能力が使えるようになったのだから、私からテレパシーを使えば会話できると思うわよ。少し練習してみましょうか」

「練習しないとできないもんなの?」

「普通はそうなのだけれど貴方ならすぐにできるわよ。霊視だって形にはなったんでしょう?」


 そして、人が多くなるまで透人は笑亜からテレパシーについて教わったり、会話する練習をしていた。

 それから連絡先を交換したが、それを知ったある人物が騒ぎ立てたりして面倒な事になった。

 もしかしたらテレパシーの話は人が増えるまでの時間稼ぎだったのかもしれない。




 その後は普通の学校生活を送っていたが、誰からも謎の生き物に関する接触のないまま放課後になってしまった。

 今日ははもう無いかもしれないと思い、透人は充と帰りにどこかに寄ろうかと話していた。

 そこに大声が聞こえてきた。どうも二人の少女が言い争っているようだ。

 それでも透人は自分達には関係無いと思い、充との話を続けようとする。

 しかし、その予想は外れていた。大声が聞こえなくなった時、言い争っていた内の一人が近づいてきたのだ。


「ちょっと聞きたい事があるんだがいいか」

「うん、別にいいけど。何?」


 声をかけてきたのは短めの髪で勝ち気そうな顔をしたアスリート体型の少女。

 透人はその少女とはあまり親しくない。ただ、日村早喜という名前くらいは知っていた。

 その早喜の言葉に透人はあっさりと承諾した。充も別に構わないようだ。


「知り合いが落とし物をしたみたいなんだ。それで明海と麻生がそれを落とした心当たりがある辺りに住んでるって聞いてな」


 落とした場所はともかく、住所は何故知られているのか。

 それを疑問に思ったが、透人は落とし物と聞いて心当たりがあったので放置した。


「このぬいぐるみに見覚えはないか?」

「……いや、俺はないな。というか何だこれ? お前は知ってるか?」


 早喜は充に携帯電話を見せる。知り合いの落とし物の写真があるのだろう。

 充は眉を寄せた後、透人にも見るように促した。

 充には見覚えは無いようだが透人はもう写真を見なくても確信していた。ぬいぐるみといったらあれの事だろう。


「あー、うん。知ってる」

「本当か!」


 確認してみたらやはり、今朝見た謎の生き物の姿が携帯電話に写っていた。

 あの謎の生き物を担当するのはどうやら透人の目の前の少女、日村早喜のようだ。

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