第十五話 力の使い方
「三つ目の能力獲得おめでとう」
透人が紅輝と一緒に超能力者と闘ったり、超能力者の組織でその件について事情聴取されたり、新しく超能力者になった者として個人情報を記録されたりした翌日。
放課後になり理事長室の扉を開けた透人をその言葉が迎えた。
それを言った笑亜は妖しく微笑んでいる。
透人は笑亜の向かいのソファに座ってから口を開く。
「とりあえずありがとう?」
「何で疑問形なのよ」
「んー、何というか実感ないからかな。あと、違和感があって」
「フフ、使いこなしておいて何言ってるのよ」
透人は魔法に続いて超能力までも身に付けてすぐに使いこなしていた。
それを笑亜が知っているというのは透人は今更気にしない。
それよりも透人には確かめておきたい事があったので、笑亜に尋ねる。
「まあ、そうなんだけど。……それより"主人公"達に強くなってもらうってこういう事なの? 皆に他の力も使えるようにするっていう」
「あら、それは無理よ。能力は一人一つだもの」
「ん?」
その言葉は笑亜が先程自分で言った内容と矛盾している。
しかし、透人がそれを疑問に思ったのは短い時間だった。すぐに自分で答えを出したのだ。
「あぁ成程。色々できるのはイレギュラーだけなのか」
「フフフ。正解よ。それがイレギュラーと運命を狂わされた者との違いね」
イレギュラーというのはやはり特別な存在のようだ。
普通はイレギュラーと関わって他の裏の存在を知り、それと戦う事になっても自分が元々身に付けていた能力しか使えない、という事だろう。
その点、透人はいざとなれば複数の選択肢があるのである。
ひとまず納得した透人は最初に感じた違和感を解消する為に話題を変える。
「じゃあ、最初の話に戻るんだけど俺が使えるのは魔法と超能力の二つじゃないの?」
「いいえ。貴方、幽霊が見えるでしょう? 霊視も立派な能力よ」
「あーそっか。でもあれから幽霊なんて見てないんだけど」
透人が幽霊を見たのは夜の公園と廃工場での二回だけだった。
それから二週間以上経過しているが透人は町中でも学校でも幽霊を見ていなかった。
「フフ、別におかしな事ではないわ。死後も魂がこの世に留まるのはよっぽどの強い未練がある場合だけ。だから数はそれほど多くないのよ」
「ふーん、成程。でもそれだとあんまり使わないよね」
「フフ。使いこなす事ができればこんなに便利な力は無いわよ」
「幽霊が見えるだけじゃないの?」
「幽霊が見えるという事は魂を認識できるという事よ。それは生きている人間の魂も例外じゃないわ」
「生きてる人の魂が見えて何かあるの?」
便利というからには何かあるのだろうが、生きている人間の魂が見える利点が透人には思いつかなかった。
「訓練次第で魂の存在は視覚以外でも感じとる事ができるようになるわ。壁の向こうでも遠く離れていてもね。だから索敵なんかに便利なのよ」
「それは確かに便利だけど、視覚以外で感じとるってどういう感じ? 訓練ってどうすればいいの?」
「感覚は人それぞれだから説明するのは難しいわね。まあ、とりあえずは幽霊を見た時の感覚を参考にしながら自分の魂を認識するところから始めてみたら?」
「んー……じゃあとりあえずやってみるよ」
そう言ったものの透人には魂を認識するという事がよく解っていなかった。
それでも確かに目で見えなくても人の存在が分かるというのは便利である。
魔法や超能力も原理はよく解っていないところもあるが、それでも問題無く使えたのだ。
だから、とりあえずやってみようとしたのだ。
それに他の二つの能力が出来たんだからこれも出来るだろうと楽観的な自信もあった。
「あ、訓練といえばサイコキネシスも使ってれば強くなる?昨日色々試してみたけどあんまり重い物は動かせなかったんだよね」
透人は超能力の組織でもサイコキネシスを確認され、家でも家族に見つからないようにコッソリと実験していた。
その結果、片手で簡単に持てる程度の物しかサイコキネシスでは動かせないと分ったのだった。
「成長はするでしょうけど、どうなるかは分からないわよ。超能力にも個性が出るもの」
「個性?」
「そう、個性。サイコキネシスで言うと動かせる物の重さや数。動かす際の速さや正確さ。他にもいくつかの要素があるけれど、人によってどれかが優れていたりと違いが出てくるのよ。私のテレパシーも伝える方に特化しているから心を読むなんてできないし」
「あ、そうだったんだ」
確かに笑亜は今まで心を読んでいるような言葉は言ってこなかった。
透人はテレパシーが使えるなら心を読むかもしれないと思った事もあった。だが「まあ、別にいいか」と放置していたのだ。
しかし、伝える方に特化しているというのはどういう事なのだろうか。
「テレパシーのどこがどう特化してるの?」
「そうね。時期が来たら教えてあげるわ」
笑亜は微笑んでいるが雰囲気が堅い。
簡単に教えてくれそうになかった。
透人が思ったよりも重要な事なのだろうか。
仕方がないので透人は話を戻した。
「じゃあ、サイコキネシスが弱いままだとどうすればいいかな。一人の時に何かあったら困るんだけど」
「魔法を使えばいいじゃない」
笑亜はあっさりと奥の手を使うように言ってきた。
しかし、それでは危険を逃れても別の問題が発生するのではないか。
「でも"主人公"以外に他のやつがバレるのはマズイんじゃ」
「確かにあまり広めていい情報ではないわね。でもこんな言葉を聞いた事はないかしら」
「どんな言葉?」
何か解決する方法があるのかと透人は期待を込めて身を乗り出した。
笑亜は妖しげな微笑みを浮かべて言う。
「バレなきゃ何やったっていいのよ」
「……それは悪人の理屈だと思う」
「フフ、この前に言ったはずよ。私達は別に世界平和の為の組織ではないと」
「……あーそうか。俺は悪の組織の下っぱなのか」
そう言った透人は嫌そうではなくむしろ面白がっているようだった。
笑亜も妖しい雰囲気を残しているが楽しそうに笑っていた。
「フフフ。そうかもしれないわね」
「でもバレないように使うのは大変だと思うけど」
「そうでもないわよ。昨日の場合なら後ろを向いている間に不意打ちで終わらせちゃえば良かったのよ」
「俺の魔法はそんなに強くないよ」
透人は後ろから不意打ちという部分についてはスルーした。昨日もやっていたため、抵抗は無いのだろう。
その為か、この意見に反対はしなかったのだが魔法の威力を問題にしていた。
アンナと一緒に闘った時は透人の魔法一回では相手は立ち上がってきたのだ。
だから不意打ちでバレずに一撃で終わらせるなんて事は透人には出来ない。
だが、笑亜はその問題を解決する方法をあっさりと答えた。
「だったら堂々と使えばいいじゃない。もし、そうなったとしてもサイコキネシスだと思わせればいいのよ。わざわざ敵に自分の情報を教える必要は無いんだから」
「それもそうか」
何か物を魔法で吹っ飛ばして相手にぶつければサイコキネシスに見えるかもしれない。
魔法という存在を知らない以上、それらしい理由があればそう思う筈だ。不信感があったとしても他の超能力だと疑うだけかもしれない。
そうなれば堂々と使っても魔法の存在はバレない。
「他にもバレないように使う方法なんていくらでもあるわよ。何かが起こる前に考えておきなさい。イレギュラーがどんな存在なのか解っているでしょう?」
*
透人は理事長室を出ると教室に向かった。そして教室に一人残っていた生徒に話しかける。
「何かイライラしてない?」
「あぁ!? ……何だ透人か。呼び出しは終わったのか?」
「うん」
「じゃあ帰るか」
透人は帰りに紅輝に家に誘われていた。それで紅輝は教室で透人を待っていたのだ。
ちなみに、紅輝には「先生のところに呼び出しされてるから遅れる」と伝えていた。笑亜と話していただけだが、場所は理事長室だったのだから完全な嘘ではない。
紅輝の家への道すがら透人は気になった事について話を振ってみた。
「で、何でイライラしてたの?」
「……御上の野郎だよ」
紅輝は見るからに不機嫌そうな表情になった。
「御上君がどうかしたの?」
「あの野郎が『建築現場で暴れたのか』って聞いてきたんだよ」
「ああ、昨日の事がバレたって事?」
「普段は人がいない場所に証拠隠滅で集まってたのが怪しまれたんだ。そこを監視されて超能力を使うところを見られたらしい」
超能力者達が昨日の事件の後片づけをしていたが、全てが終わる前に見つかってしまったようだ。
周りに気をつけてはいたのだろうが、先程聞いた霊視で見つかったのなら仕方ないのかもしれない。
しかし、清慈郎なら一度遭遇していて、その後問題は無かったのだから今回も大丈夫だろう。
「それで御上君に言ったの?」
「まあ、適当にな。一応悪霊とは関係無いか確認しにきただけみたいだったからよ。それより確認した後で目立つ真似はするなだの、もっと上手く隠せだの、散々ムカつく話をしてきたんだよ」
「それでイライラしてたと」
透人は納得しかけたが紅輝の話はまだ終わっていなかった。
「いや、それだけじゃない。おまけに帰り際、あの野郎女子に囲まれてたんだ! 全員無視したんだぞ! 何のアピールだ! モテるやつの余裕か!」
「ああ、そっちメインか」
そうして紅輝の清慈郎への愚痴がしばらく続いていた。その間の透人は興味が無さそうに適当に相槌をうっていただけだった。
「っと、着いたぞ」
愚痴が終わって話題を変え、その話が盛り上がってきた頃、紅輝がある建物の前で足を止めた。
その建物には「らーめんかぐち」とかかれた看板がかけられていた。しかし、扉には「本日は誠に勝手ながら臨時休業とさせていただきます」と書かれた張り紙があった。
「今日親父は昨日の事件の関係で仕事してんだよ。この辺の超能力者ん中じゃ偉い立場なんでな」
「そうなんだ」
紅輝は鍵を開けて店内に入っていく。透人もそれに続いて入るった。
中にはまず、テーブルがいくつかあり、その奥にカウンターが見える。よくあるラーメン屋といった感じだ。
紅輝は一つのテーブルを指差しながら言った。
「そこで待ってろ」
「ん? 何するの?」
「ああ。新しい仲間の歓迎会つうか儀式? みたいなもんだ」
紅輝は厨房に向かうとご飯や卵等、様々なものが乗ったバットを持って戻ってきた。それをテーブルに置くとまた厨房に行き、今度は中華鍋を持ってきた。
そのまま紅輝はテーブルの横でその中華鍋に油をしき、なじんだところで溶き卵を投入した。するとジューという音を立てて卵が焼けていくのが分かった。
しかし、中華鍋の下にはコンロどころか何も無い。それなのに紅輝が持っている中華鍋には熱が加わっている。
と、いう事はつまり。
「パイロキネシスで料理してんの?」
「ああ。これ、元々は親父が火力の調節とか持続時間をのばす為の修行で始めたらしいんだよ。ただ、その内仲間内で評判になって店を出す事にしたんだと」
「んー。そういう使い道もあるんだね」
透人は興味がある様子で紅輝の料理風景を眺めていた。
その間も紅輝はパイロキネシスを使って材料を炒めていく。
「っと、よし完成」
そうして完成したのは炒飯だった。
紅輝は皿に炒飯を盛りつけて透人の前に置く。そして透人の顔に注意しながら食べるのを待った。
料理した者として評価が気になるのだろう。
紅輝の視線を感じる中、透人は炒飯を微妙な顔をしながら食べた。
「どうした? マズかったか?」
「いや、美味しいけど。ただ、本当にバレなきゃ何やってもいいんだ、って思って」
「オイ、人聞きの悪い事言うなよ」
紅輝は自分の分も皿に盛りつけると透人の向かいに座って食べ始める。
透人は炒飯を食べながら紅輝と雑談していたが、頭の片隅では力の使い方について考えていた。




