何かやろうぜ。
「なぁ。マジで探偵事務所、どうよ!」
森田が、少年のように目を輝かせて身を乗り出してきた。
この前ゲンサンの家で話した計画の続きを、森田はあれからずっと温めていたらしい。
高瀬は手元のグラスを回しながら、苦笑いを浮かべた。
「……せめて、冬のボーナスは貰ってからにしてくれ。俺には扶養家族がいるんだから」
そうだよなぁ
高瀬には守るべき家庭がある。
娘の凛はまだ小学生だ。
35歳の転職は、20代のそれとはワケが違う。安定した生活を捨てるリスクは、誰よりも高瀬自身が痛感しているはずだった。
「んー、まず透は今すぐこっちにおいで、って話じゃなくていいと思う。まだどうなるかもわからないしな」
直人がコーヒーをすすりながら、冷静に軌道修正を入れる。
森田も「おう! 透は無理しないでほしい。
けど、顔は見せてくれよ~。」
と同意した。
高瀬は少し寂しげに、だけど温かい目で俺たちを見た。
「でもさ、探偵事務所、いいなって本気で思うよ。この歳になって、こうやって仲間が集まって新しいことを始めるなんて……大人になればなるほど、そんな話すらできなくなるからな」
その言葉に、直人の視線が鋭くなった。
「……なぁ。大志、哲哉。お前ら、本気なのか?」
「だから、最初から本気だって」
森田が不敵に笑う。
「どうなるか分からないんだぞ。最悪、俺と一緒に共倒れする可能性だってある。本気なら、本気だからこそ、もっと慎重に考えてくれ」
直人の声には、懇願するような重みがあった。
一度、家庭を失っている直人だからこそ、「失敗」の二文字が持つ本当の怖さを知っているのだろう。
森田の意思は固かった。
「だから、本気なんだよ。――そんなことより、これ、見てくれよ」
森田が鞄から、数枚のプリントアウトされた書面をテーブルに滑らせてきた。
物件の候補や、初期費用の見積もりだろう。
さらに森田は、俺の顔を指さした。
「大志!お前、今すぐ金貯めとけよ!」
「かね…だよなぁぁぁ!俺がんばるわ。」
と、上を向いた。
まだ、始まってもいない。
35歳。人生の折り返し地点で、こんな賭けに出るのは遅すぎるのかもしれない。
だけど、やっぱりあがいてみたいんだ。音楽とは違う、もう一つの自分の居場所を、この手で掴み取ってみたい。
俺は小さく笑って、書面に手を伸ばした。
「わかった、節約するよ。ちょっと内容見せて!」
「あれ?そーいや玲二はどうした?大志なんか
知らないの?」
直人がキョトンとしている。
この前、やっと玲二が帰ってきたから
今ここにいないのが不思議だったんだろう。
「玲二?今新居探してる。
まぁ、事情があるから、慎重になってるけど
大丈夫だろ。」
「おぉ、そっか。うまく見つかるといいな。」
「そうだな。玲二が落ち着く頃には
今の話を固めたいよな!!」
そう言いながら、
森田の出した書面を改めて見つめた。




