大志の器
板倉大志宅
「大志!遅い時間にごめん。で
お願いがあるんだ。」
直人は、美緒との離婚問題を
大志に話した。
「週末まで、ここに泊めてくれないか?
カッコ悪い話なんだけど、1人で考えるのも辛いんだよ。あー、無理ならホテルでも
どこでも行くよ。」
「それは別に。週末と言わず好きに泊まってけよ。でも実家は?行かなくていいのか?」
「いや、まだ離婚の話…今後のこと?
美緒と話してからじゃないと、なんとも言えなくて。」
「直人の気持ちもあるだろ?離婚したいって
言われてハイそうですかって、違わないか?
離婚の理由は?聞いたのか?」
「離婚したいって向こうが言うんだから
理由なんて…問い詰める事はできたけどさ…」
「出来たけど?」
「俺、弁護士だから、問い詰めることなんて
簡単だよ。美緒もそれをわかってる。
分かってて、離婚を切り出した。
美緒はきっと、俺に思いっきり
責められた方が楽だったんだろうな。」
生活費に使って、と美緒に置いてきたクレジットカードは、直人の優しさもあった。
でも
それだけじゃなかった感情があった。
腹立ち、怒り、憤り。
悲しみ。
その気持ちを胸に仕舞い込み、
わざと少しだけ優しさを残してきた。
美緒は、その方が泣く。
直人は、深呼吸をした。
「俺。なんとなーく、わかってた。
美緒は俺に作り笑いしてたんじゃないかな、
で。俺は俺で仕事に逃げて。
美緒と向き合うのもダルかった。情けないよな。」
「情けないなぁー笑でも、いいじゃん。
情けなくて。
俺結婚したことないから、夫婦の拗れは
わからん。
でも、直人がピンチの時に真っ先に
俺んとこ来てくれたのは、嬉しいよ」
大志はそう言って笑うから、
「大志は独身だからぁー
夜中起こしてもいーかなって!」
直人も笑う。
「森田もだろーがー」
「森田も一瞬よぎったけど、あいつ
美緖に怒鳴り込みにいくだろ、たぶん笑」
「それもそうだよな!!」
大志と直人は爆笑した。
この夜から1ヶ月後、直人は美緒と離婚した。
最後くらい、かっこつけさせてくれ。
美緒に直人はそう言って、
身のまわりのものと、ギター2本だけを持って
実家に帰った。
離婚して、疲れて気が重かった。
面倒な作業は避けたかった。
家具や家電は、全て置いてきた。
車とギターだけあれば良かった。
実家には、ギターがまだ数本ある。
アンプやらエフェクターも、置きっぱなしだ
新居は探して、音楽の機材の部屋も
作ろう。
ライブもやろう。
歌詞の続きを…新しく書くのもいいな。
直人はやはり、悲しかった。
そう簡単には割り切れない。
わざと予定をつめこんだ。
考える事を増やした。
涙は、まだ出ない。
気持ちの中に重い空気を残したまま。
システム手帳を開く。
AFTERGLOW。
このページからまた、始めよう。
直人はそう思いながら、
歌詞のフレーズを書き始めた。




