9
「まずは今回の不始末のお詫びを。」
そういうと狸塚は頭を下げた。背中が曲がることなく直線で、頭を下げすぎず上げすぎず絶妙なラインで保たれている。音もなく頭を上げると懐から折り畳まれた二枚の紙を取り出し一枚を田中に差し出した。
「こちらは我々が来迎のカードキー付与にあたり総務に提出した入出権限の申請書。」
そして、もう一枚をまるで見せつけるかのようにゆっくりと差し出した。
「こちらは実際に付与されていた権限の一覧です。」
田中は二枚の紙を手に取り、視線を左右に移動させながら、確認している。たぶん、読み慣れているのだろう。右から左、左から右へと速いペースで目が移動していた。
「なぜか申請されていた内容とは異なる権限が付与されていたようでして。」
狸塚は困ったように眉を下げると肩をすくめた。田中は視線を僅かに鋭くすると、二枚の書類を纏め、狸塚の胸の位置に差し戻した。
「状況は理解しました。そのように処理をする、ということですね。」
「おっしゃる通りです。」
含みある笑みを浮かべると狸塚は鷹揚に頷いてみせた。田中の手から書類を抜き取り、折り目に沿って畳むと懐にしまう。田中の真顔が崩れている。眉間に皺が寄り、それをほぐすかのように目頭を揉んだ。田中も違う顔ができるのか、と源は一人驚愕していた。
「しかし、許可なく勝手に入室・持ち出ししたことについてはきちんと改善案を提出してください。」
「仰せのままに。」
仰々しく胸に手を当て頭を下げると、にぃっと妖しく口角を上げた。
「それと持ち出した法具について、今日、先方へお渡しする予定でした。ですのでお詫びも兼ねてあなた方でお返ししてください。」
田中の言葉に源は首を傾げた。返す?どういうことだ?源は慈鳥に視線を向けると慈鳥は横目でそれを確認すると前を向いたまま答える。
「最初に言っただろう。預託法具持出報告書、と。預託というのは預かり管理していた、というものだ。」
なるほど、持ち出したものは誰かのものなのか。納得したように源が頷くと田中は引き出しから一枚の紙を取り出すと源、慈鳥、狸塚に見えるように置いた。紙には表が描かれており、紛失リストには源が持ち出した物の名前が、その右には対になるように対霊事象管理機構保有とずらり記載されている。そして、最後だけ『カトリック道守教会』と書かれていた。
「教会、すか?」
そう声に出すと、げっという声が聞こえてきた。それは到底、その人物が出すような声ではない。聞き間違いか?と思い、隣にいる人物の顔を見ると思いっきり顔を顰めている狸塚がいた。あ、さっきのは聞き間違いではなかったんだ。
「嫌がらせですか。」
なんとか笑顔を保とうとしているが、奥歯を噛み締め口角が震えている。こちらにまで噛み締めている音が聞こえてきそうだ。
「自分の不始末を謝罪することは当然のことですので。」
田中の口角がほんの僅かに上がっていた。カードキーがどうたらは、正直言って意味が分からなかったが、その事で田中が狸塚にやり返したことが分かった。でも、教会に行くことの何が嫌なんだろうか。もう、取り繕えないのか顔面を歪めている。
「狸塚、諦めろ。」
慈鳥に肩を叩かれると喉を詰まらせたような音が聞こえ、狸塚は顔を両手で覆った。




