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もうすっかりと陽は傾き、オレンジ色が世界を染め上げていた。教会の裏手の畑も桑の木も、オレンジ色と濃くなりつつある影のコントラストがとても美しい。箱庭のような、終末世界のような、そんな温かさと侘しさが広がっているような気がした。
正面へと足を進めると先を行っていた源と狸塚が車の前で騒いでいる。源もそうだが狸塚も飄々とし大人なように振る舞うが、まだまだ若輩とも言える。金銭が絡めば別だが。源を嬉々として揶揄っている姿は兄弟のようだ。
源は不思議なやつだ。大人になって失ったと思っていた純粋さや無垢さを簡単に引き出してしまう。彼の側にいれば自分も子供に戻ったような感覚を覚えてしまう。そんな、不思議な力が。
「あれが、例の問題児だったとはねぇ。」
いつの間にか隣に来ていた岩永が腰に手を当てながら土産をもらいはしゃいでいる源を見つめていた。狸塚は今すぐにでも土産であるパウンドケーキを食べてしまいそうな源の首根っこを掴んでいる。
「ええ、今回はご迷惑をお掛けいたしました。」
岩永に軽く頭を下げると柔らかく笑った岩永に頭を撫でられた。
「さっき、ちゃんと謝っただろうが。ほんと慈鳥は真面目だなぁ。」
岩永の笑い声や仕草が養父に似ているためか安心する。こういった気持ちになるのも源に影響されているのだろうか。そんなことを思いながら源に視線がいく。岩永もそれに気がついたのか、慈鳥の頭から手を下ろすと源を見つめた。細まった目は夕日が眩しいのか、それとも。
「大丈夫なのか?」
岩永の言葉はどちらなのだろうか。源のことか、それとも慈鳥のことか。岩永を見ても口を真一文字に結ばれ口の端に力が入り、眉間に皺が寄るばかりで、心配している以外の感情が読み取れない。
「わかりません。」
大丈夫か大丈夫じゃないか、今現在では判断が難しい。まだまだ、どう転ぶか分からない。あの純粋で無垢な人格は武器である。世界を知りたくて、社会を知りたくて、たくさんの知識を吸収していく。今まで与えられなかった知識を、経験を。
だが、関わる人間が変わればそれは一気に覆される。悪いことを悪いと思わず、ただただ人の言いなりになる道具になり下がる。
今回、岩永がストッパーになった。突っ走ろうと暴走列車になりうる源に考えるということを学ばせた。これは自分には出来なかったことだろう。
源は恵まれている。いや、源の能力なのかもしれない。無数に繋がる縁の中で、自分を正しく導いてくれる縁を無意識に手繰り寄せている。礼儀、道徳、知識、経験。これらは私の中で最善とも言える人物に教わっている。そうなるように、いやそうあるべきであるように導かれている。
それでは、私は何を与えてやれるのであろうか。この限られた僅かな時間の中でまだ雛鳥のようなあの子に何を渡せばよいのだろうか。
思考が同じところを行ったり来たりするが、夕日に照らされた源が目に入った。土産が入った袋を掲げてくるくると回っている楽しそうな源の満面の笑顔が。
それで力が抜けた。自分がいなくなっても導いてくれる人はいる。あの笑顔をそのままに導いてくれる人が。だから、それまではあの子が安心して休める場所を作ってやろう。いつか大きく羽ばたいていくために力を蓄えられる場所を。
「でも、問題はありません。」
こちらに向かって大きく手を振る源に少し呆れるも手を振り返してやれば、嬉しそうにさらに大きく振り返してくる。
たくさん力を蓄えろ。それまで守ってやるから。




