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対霊事象管理本部のとある一室。


狸塚はノートパソコンの前で盛大なため息をついた。今日は本当に疲れた。近年、稀にみる酷い疲れを感じている。それもこれも岩永恒一のせいだ。


カトリック道守教会の祭司であり、対霊事象管理本部所属の祓い屋。悪魔祓い、封印術のエキスパート。あの年齢ではなかなか珍しい柔軟で人当たりも良く、締める部分と緩める部分をきちんと分かっている人格者。


別に僻んでいるわけではない。この世の中には役割がある。岩永には岩永の、そして狸塚には狸塚の。見せる顔は相手によって変わるが、それは意図しているもの。善人でいようとは微塵も思わない。だから、苦しむことはない。狸塚は自分のこの性格を気に入っているから変えるつもりは毛頭ない。


けれども、どうしても岩永とは合わないのだ。何が合わないのかは、なんとも形容し難い。とにかく、反発し合う。いや、反発しているのは狸塚だけなのだが。気に食わない、というよりも関わりたくない、の一言に尽きる。


煌々と部屋を照らす照明を眺めるように上を向く。今日、教会で岩永が源に向けた言葉を思い出した。


『関わる人が困る、悲しむ。だから、守る。』


自然と笑みが溢れた。


綺麗事だ。困る、悲しむ人間がいない奴など、この世にごまんといる。むしろ、死んで良かったと笑ってる奴の方が多いかもしれない。悲しんでいる奴が1割で、残り全員が喜んでしまえば、もうそいつが生きていた価値はないに等しい。それがこの世の中だ。暴論かもしれないが、狸塚はそう考えている。


だが、それでもあの言葉が源に向けられたのは良かったと思ってもいる。慈鳥にも、もちろん狸塚にも掛けられない言葉だから。


源はまだ世間を知らない。全てを決められ、抑圧された世界から飛び出てきたよちよち歩きの雛鳥。他人からの悪意を知らない雛鳥。


何も考えずにただ楽を覚えてしまえば、そういう悪意に簡単に染められてしまうのは分かっていた。でも、そうなってしまったら『封印』してしまえばいい、と初めのうちは思っていた。


でも、今はそれが惜しいと思う。源は人に影響を与える人間だ。それが良いものか、悪いものかは分からない。でも、確実に人の根源を容赦なく揺さぶってくる。


狸塚はそれが気に入っている。いや、違う。気に入っているのはそういった人に影響を与えるところじゃない。


源の真っ白でなんでも受け入れてしまう、受け止めてしまう大きさなのかもしれない。人間の質を気に入っているのかもしれない。


喉を鳴らすように笑い声が漏れてしまった。こんな事を考えている時点で、源に揺さぶられているのかもしれない。


顔を両手で覆い、息を吐く。気持ちをゆっくりと落ち着かせる。


ノートパソコンに向き合うと、キーボードに触れる。キーボードを叩く音と、空調の稼働している音、それだけしかない世界で狸塚は一人、画面の向こう側にいる者たちと機密を共有し続ける。


なるべく源と慈鳥が、長く居られるように。それが慈鳥の願いでもあり、認めたくはないが狸塚の願いにもなりつつある。


『対象者Xについての経過観察について』


今日も狸塚は報告書を書き続ける。




謝罪行脚-規程と規律-完

馬地蔵へと続く


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