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「そんな奴、いると思うか?」
岩永の言葉に源は体を丸めた。人より大きな体を小さく、小さく、自分を守るように。現にここにいる。悪い奴かどうかは自分ではわからないけど、疎まれていたことは確かだった。だって、源を見る目が普通の子供を見る目ではなかったから。親がする顔ではなかったから。
嫌なことを思い出した。目頭が熱くなり、でも泣きたくなくて自分の腕に爪を立てるように掴んだ。
「いねぇよ。」
弾かれたように顔を上げると岩永の目尻には深い皺が出来ていた。
「悪人も覚えちゃいない些細なことで救われて感謝している人がいるかもしれない。亡くなったことを知ったら悲しむかもしれない。」
本当にそうなのだろうか。源も死んだら誰かに悲しんでもらえるのだろうか。良い子ではない源の死を。
岩永はしっかりと源の目を見つめていた。だから源も逸らすことなく岩永の目をいつの間にか見つめていた。
「だから世の中には沢山のルールがある。守らなければ関わる人が困る、悲しむ。だから守る。」
口調はすごく穏やかだけれど、その言葉には重みを感じる。重いけどそれは嫌な重みじゃなくて、ふわふわとしていた源を繋ぎ止めてくれるそんな重み。
「と、まあこれは俺の考えだがな。」
額に、目尻に、口元に、皺を寄せて笑う岩永に源も緩く口角があがった。今度は完全に力が抜けて背もたれに寄りかかると肩が張っていて色んな所に力が入っていたのだなと感じる。あと、お尻が痛くなっていることにも今更ながらに気がついた。
「すぐに答えは出さなくていい。だが、今回のことも含めてよく考えろよ?」
源の頭がすっぽりと収まるくらい大きな手で頭を乱暴に撫でられた。頭が取れそうで首が痛くなるような撫で方だが、嫌じゃなかった。
「うん、ちゃんと自分の言葉で説明できるようにする。」
大きく元気に返事をすると、そうか!と言って岩永が教会に響くような大きな声で笑った。張り詰めていた空気が最初の、この教会に足を踏み入れた時の柔らかいぽかぽかとした空気に戻っていく。見れなかった慈鳥と狸塚の顔を見た。
狸塚は顔を歪ませ耳を塞いでいて、慈鳥は相変わらず澄ました顔をしていた。だけど本当に、本当に僅かに笑っているように見えた。慈鳥が笑っているだけで、源は安心する。それがどうしてなのか、まだ源は言葉で表すことが出来ないけどいつか慈鳥に伝えられればいいな、と思った。
その時、源の中で岩永の言葉がピタリとハマった感覚を覚えた。ああ、自分が死んだ時に悲しんでくれる人がここにいた。そして、ふわふわとした源に最初に錘をつけてくれたのは、他の誰でもない慈鳥だ。
嬉しくて嬉しくて笑うのを堪えたけど堪えられなくて。ニヤニヤと慈鳥を見ていたら、慈鳥は気持ち悪いものを見た、というように冷たい目で見てきた。でも、それも嬉しかった。




