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「まず、それを聞くのが駄目だな。」
間髪入れずにそう言い切った岩永に、源は戸惑った。まさか駄目だと言われるとは思わなかったからだ。
「でも、田中さんが分からないことは聞けって。」
「田中って、妙ちゃんか?」
岩永の言葉に慈鳥が小さく頷く。妙ちゃん?源が知らないことが出てくる。誰だと尋ねようとしたが、数秒前に聞くのが駄目だと言われたので、どうすればいいか分からずに、慈鳥や狸塚を見た。
戸惑っている源に岩永は悪い悪い、と頭をかいて笑った。
「妙ちゃんは法具管理部の人間だ、会っただろ。」
岩永の言葉に今朝の田中の姿と『妙ちゃん』の名前が繋がった。合点がいって、ああ、と声が漏れた。
「俺が言いたかったことは、ちゃんと自分の頭でも考えろってことだ。」
テーブルに肘をつけ、僅かに重心が前になった岩永に源は軽く背中を反らした。テーブルはなかなか幅があるが岩永が大きいため、少しだけでもこちらに体が近づくと圧を感じる。
「なんも考えずに人が言ったことばっかを信じてっとそいつにとって都合の良い人間になるんだよ。」
「それの何がダメなんすか?」
「ほれ、それだ。」
源はうっと言葉を詰まらせて黙った。それを見た岩永は椅子の背もたれに体を預けて腕を組んだ。
「色んな奴の考えを聞くことは、良いことだと思うぞ?」
俺はな?と岩永は軽く首を傾けた。源の頭の中は糸が絡み合うようにこんがらがる。聞くのはダメ、聞いたほうがいい、どっちなのか分からない。
「ただ、自分の思考を放棄するなって話だ。」
「しこう?」
岩永は頷いて見せると指をこめかに置き、二度軽く叩いた。
「考えるってことだ。今回は何が駄目だったのか、次からはどうしたらいいのかをな。」
源は膝の上で握っていた自分の拳を見た。汗はいつの間にか引いていて乾いていた。手の感触を確かめるように指を動かす。今回のダメだったこと。そう心の中で呟くと源は顔を上げた。
「怒られていっぱい悪いことをしたのがダメだった。」
「悪いことってのは?」
「決まりを破ったこと。」
「じゃあ、どうして破っちゃいけないんだ?」
「怒られるから。」
「じゃあ、なんで怒られるんだ?」
「決まりを破ったから。」
あれ、と源はまたしても頭が混乱した。進んだと思ったのにいつの間にか同じところに戻ってきたような感覚。なんだか迷子に似ている。
岩永はニヤリと笑い、両隣からは同じタイミングでため息が聞こえてきた。
「それだと堂々巡りになるよな。だから、もっと深く考えてみろ。」
顔は笑みを携えてはいるが、目は真剣で真っ直ぐと源を見つめてくる。源は逸らしちゃいけない、と思った。きっと、今まで『なんだか』とか『なんとなく』とか思ってたその先が分かりそうだと思ったから。
「例え話をしようか。」
岩永はまるで今から物語でも話すような、軽い語り口で切り出した。




