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岩永の豪快な笑い声が響き渡る。慈鳥は俯いたまま、狸塚はうるさいと言わんばかりに手で両耳を塞いでいる。


「そうか!これが気になったか!」


布を持ち上げながら、まだ笑いが収まらない岩永に何とも言えない気持ちになり身を縮こませる。


「お前はまったく。」


小言が続きそうな慈鳥に岩永はヒラヒラと手を振った。


「いい、いい。知らないを素直に言えることは良いことだ。」


源は岩永をそっと見ると目尻が下がり、柔和な顔をして笑みを浮かべていた。


「だがな、何をしにきたかはきちんと覚えておかなきゃならん。謝罪をしにきたなら特にな。」


確かに、自分は岩永のところに遊びに来たわけではない。重要なものとは知らずに持ち出して、怒られたから謝りに来たんだ。源は小さく頷くと、その様子に顎の髭を触りながら岩永も頷いた。


「まあ、だが謝罪を聞く前に自己紹介だ。」


ぱちんと手を叩き、テーブルの上に布と共に手を置くと岩永は少し源の方へと身を乗り出した。


「俺はパウロ岩永だ。このカトリック道守教会の司祭であり、対霊事象管理機構の人間でもある。」


源は驚きと疑問を瞬発的に口に出そうとしたが慌てて手で口を押さえると言葉を飲み込んだ。さっき注意されたことをすぐに繰り返すところだった。岩永は口角を上げ、太く分厚い掌を源の頭に置くと軽く乱すように頭を撫でた。


「疑問は後で全部、答えてやる。で、お前は?」


男に頭なんて撫でられることなんて少なかったから、こういう時はどんな顔をすればいいか分からなかった。だから下を向いてしまった。この心が落ち着かない感じが悪いものではないこともわかっている。けど、なんだか上手く言えなくて、なんだかそわそわしてしまう。


「源、っす。」


蚊の鳴くような声で言うと岩永がもう一度頭を撫でた。顔を上げ、岩永の目をきちんと見る。薄い茶色の瞳が源を捉えていた。


「来迎、源っす。」


そう名字まできちんと伝えると岩永は破顔し、源を乱暴に撫でた。力が強くて源の頭は左右に揺れる。


「源か良い名前だ。で、今日は何しに来た。」


岩永の手が離れていくと源は姿勢を正して、法具管理部の田中とのやりとりを思い出した。


「申し訳ございませんでした。」


頭を下げて田中に教えてもらった言葉を口にした。すると両隣から椅子を引く音が聞こえて源は顔を上げる。慈鳥と狸塚が立ち上がっていた。


「今回は私どもの監督不足です。」


「現在、再発防止策を検討しております。まとまり次第、速やかにご報告いたします。」


頭を下げた二人に慌てるように立ち上がると源も頭を下げた。謝る時に座っていちゃだめなのか。失敗した。やってしまったと内心、反省していると椅子が軋む音がした。


「分かった。で現物は?」


顔を上げるとあの豪快に笑っていた岩永の顔はなかった。腕を組み、背もたれに寄りかかり少し眉間に皺が刻まれている。源は困惑しながらも持ってきた古紙を岩永に手渡した。


岩永はそれを受け取ると眼鏡を胸ポケットから取り出し、浅く掛けた。繊細なティーカップをテーブルの端に移動させ古紙を丁寧に広げた。手で押さえたまま、顔を近づけ目線をゆっくりと端から動かしていく。時折、顔を更に近づけ何かを呟き、文字のようなものを読み上げている様だった。


それを繰り返している間は慈鳥も狸塚も椅子に座ることはない。だから源もずっと立ち続けている。


「汚れや破損はないようだな。」


古紙を丸め直しながら岩永が言った。それを両手で大事に持ち上げると部屋を出て行った。「もう座って大丈夫っすか?」なんて聞ける雰囲気でもないし、慈鳥も狸塚も直立不動で前を向き続けている。


どのくらい待ったか、たぶん数分だろうけどなんだかすごく長く感じた。扉が開く音が聞こえると、戻ってきた岩永を見た。口角が下がり、未だあの笑顔はない。


岩永はテーブルのティーカップを置き直すと椅子に座った。


「話すことがある、座れ。」


そう言われてやっと慈鳥と狸塚が座り、源も習うように座った。




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