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靴を脱ぎ、中に入るとそこは日本だと忘れてしまうくらい海外、いや絵本の中の世界だった。天井がなく剥き出しになっている梁は時代を物語っているのか濃い茶色をしている。木材で統一しているのか梁と似た色の木の棚が並び、そこには様々な調理器具や食器が積み上げられて収まっているがそれがまた海外っぽかった。部屋の中央には何人で使うのか一枚板の大きいテーブルがあり、椅子がテーブルの側面に三脚ずつ、それとは別にスツールが隅に何脚か重ねられていた。
外観でも思ったが中に入ってますます思った。やっぱりここは良い。陽の光が天窓から降り注いでいるから明るいのではない、この空間が陽だまりに包まれている、そんな感じ。初めての場所なのに温かくて懐かしくて、それでいて優しい。
こんな場所があるなんて知らなかった。教会は全部こんな感じなのだろうか。
「椅子が多いだろ?子供達がよく遊びにくるんだ。」
キッチンで湯を沸かしている岩永が笑いながら言った。ああ、だからこんなに優しい空間なのか。子供達が守られている、そんな気で溢れている。
「突っ立ってないで座れ座れ。手伝いはいらんから。」
そう促されると慈鳥、源、狸塚の並びで座った。あまりな空間に肩の力が抜けてものすごくリラックス出来る。皿やカップを用意しているのだろうか、背後からカチャカチャと聞こえてくるがそれさえも心地よい音に聞こえてくる。
「おうおう、下座なんかに座っちまって。」
岩永がテーブルにトレーを置くと繊細な空のティーカップが四客、砂時計。それになぜか温められ湯気が上がっているガラスのポットと布が被さった何か。ティーカップをトレーからテーブルに移動させている。繊細なティーカップの持ち手にゴツゴツとした太い指、なんだか違和感が半端ない。
「おっちゃん。」
「ちょっと待て。」
手で制されそう言われると、前のめりだったが背を正した。岩永は真剣な眼差しでトレーの上の砂時計を見つめていた。同じように砂時計に視線を向ける。
自分の手のひらの半分もない小さな砂時計の砂が音もなく落ちていく。砂はピンク色をしていて、やっぱり岩永とはちょっとかけ離れている。
最後の一粒まで落ちると岩永は被さっていた布を持ち上げた。中から出てきたのはティーポットだった。真っ白で特に飾り気のないソレを手に取るとガラスのポットに注いでいく。音を立ててキラキラと光を浴びている琥珀色をじっと眺めた。ティーポットが空になる最後の一滴まで注ぐとガラスのポットからティーカップへと注いでいく。均等に注ぎ終えると人数分ちょうどピッタリだった。
ティーカップをそれぞれの前に置くと、慈鳥はありがとうございます、と礼を言い、狸塚は頭を下げるのみだった。やっと腰掛けた岩永に改めて声を掛ける。
「おっちゃん。」
「なんだ。」
さっきと違って目が優しい。ティーカップに被せてあった布を指差した。
「その布って何?」
ガチャンと食器が鳴った。音の鳴った隣を見ると慈鳥がティーカップの持ち手を掴んだままテーブルに肘を付き体を震わせている。
えっ、と思った瞬間、慈鳥の鋭い目がこちらに向いた。
「お前、ここに何しに来たか忘れていないか。」
慈鳥の何かを抑えるような声に、あ、と小さく声を漏らした。謝りに来たの忘れてた。




