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「熊っ!」
咄嗟に出た言葉に慌てて口を塞ぐ。自分もかなり大きい方だがそれより大きい。縦じゃなくて横に。どっしりした体に髭もじゃの顔。熊にしか見えない。
「熊か、熊!よく近所の子供にも言われるなっ!」
豪快に笑う熊に呆気に取られた。肩を組まれている狸塚は顔を歪め耳を塞いでいる。ああ、狸塚が行きたくないと駄々を捏ねていた原因はこの人か、と納得した。
しかし、この人の何が嫌なのだろうか。顔はぱっと見怖いが声を上げて破顔し笑っている姿は気のいいおっちゃんで、嫌な感じはしない。むしろ好感が持てる。
「源、失礼だろうが。」
慈鳥の言葉にはっとなり頭を下げた。熊はさすがになかった。
「おっちゃん、ごめんなさい。」
「おっちゃんも失礼だ。」
頭を下げながら慈鳥を見ると、そうなの?と首を傾げた。
「いい、いい。お前から見たらおっちゃんだからな!三郎も含めて!」
「あなたと私、二十以上違うんですけど。あと名前を呼ばないでください。」
狸塚にのしかかっていた丸太のような腕を跳ね除けた。しかし、おっちゃんは強い。狸塚の背中をばんばんと叩く。
「十代にしたら、三十代なんてジジイだよ。」
「さらっとジジイ呼ばわりしないでください!」
珍しい、狸塚が声を荒げている。これは、あれだ。なんて言ったか、そう。
「犬と猿。」
しん、と静寂が訪れた。鳥の囀りが聞こえる。
「犬と猿っ!犬猿の仲か!」
おっちゃんの笑い声が一段と響く。変なこと言ったかと二人を見ると慈鳥は顔を顰め、狸塚は悪態をついていた。
「仲と言われるのも遺憾です。」
「なんだよ、冷てーな三郎!」
「名前を呼ぶなと言っているでしょうが!」
うん、面白い。これがコントかと頷いていると慈鳥が大きく一回手を叩いた。
「岩永さん、狸塚をあまり揶揄わないでください。狸塚も熱くなりすぎだ。」
狸塚がなんとも言えない顔をしながら、小さくすみませんと謝るも岩永は源に笑顔を向けた。
「怖いなぁ、慈鳥は。」
「怖くないっすよ、慈鳥さんは。」
そう答えるとさっきとは違うなんだか不思議な間が出来た。また、変なこと言ったか?そう思ったが、岩永は優しく笑った。
「そうか、怖くないか。」
源の肩を優しく、ぽんぽんと叩くと岩永は裏口の扉に近づき鍵を開けた。
「立ち話が長くなっちまったなぁ、ほれ!入れ入れ!上手い紅茶淹れてやる!」
豪快に笑いながら中へ入っていく岩永の大きな背中を困惑しながら見つめていると、慈鳥が腕を軽く叩いた。
「行くぞ。」
慈鳥の顔はどことなく笑っているような気がした。




