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車の振動が止んだ。狸塚の独り言を子守唄にいつの間にか眠っていたらしい。ぼうっとする頭が動くにはちょっと時間がかかりそうだな、と思っていたが、鼻を掠める古紙の独特な匂いで一気に覚醒した。慌てて腕に抱いていた丸まった古紙を軽く持ち上げて確認する。シワも破れもない。寝ている時に抱き枕代わりにしていない、安堵で体が脱力した。
「なに百面相しているんですか。」
突然の狸塚の声に悲鳴を上げたが、すぐに口を塞がれた。
「うるさいですよ、他のお客様の迷惑です。」
お客様?横目で車の外を見ると車がずらりと並んでおり、チラチラとこちらをみる人が何人もいる。
「ここ、どこっすか。」
狸塚の手を剥がすと戸惑いながら行き交う人や車を眺める。
「デパートです。」
「デパート?」
狸塚はシートベルトを外すと、ロックを外した。
「嫌だからって逃亡はダメっすよ!」
狸塚の腕を両手でしっかりと掴むと首を横に振った。ここで狸塚を逃してしまえば狸塚は戻ってこない、そう確信があった。
そんな考えが見透かされていたのか狸塚が源の手に自分の手を添えた。
「そんな子供のようなことはしませんよ。」
ここに来るまであんなに駄々をこね、現実逃避しようとしていたのは誰なのか、慈鳥にまで怒られていたのに。疑ってしまう。
「あのね、君と違って大人なんですから嫌でもやらなければならないことはきちんとやりますよ。」
「ほんとに?」
「本当ですよ。」
未だ疑う気持ちがまだほんの少しあるものの手の力を抜いた。
「だったら、なんでデパートに?」
機構を出る時に、他の誰かからデパートに寄るような用事は言いつかってないし、もちろん田中からも。やっぱり逃げる気なんじゃないんだろうか。
「謝罪に何もなし、じゃまずいからですよ。」
「裏取引。」
「誠意の問題です。」
なんだ、違うのか。狸塚なら賄賂とか渡して事を有耶無耶にしそうなのに。つまらない。そう思ってたら鼻を摘まれた。
「君が失礼なことを考えている時はわかりますからね。」
指に思いっきり力が入っているのか鼻先が痛い。わざとなのか、勢いよく離される変な声が出た。きっとトナカイみたいに赤くなってると思いながら鼻を押さえた。
「ほら、早く行きますよ。遅くなってしまいます。」
運転席のドアを開け外に出る狸塚に、慌てて源も外に出る。
「慈鳥さんはいいんですか!」
狸塚とまあまあ大きな声で話をしていたのに慈鳥は嗜めるどころか、口をつぐんでいた。よくよく見てみると腕を組みガラス窓に頭を預けて目を閉じている。
「誰かさんの指導で疲れているんですよ、休ませてあげましょう。」
「狸塚さんこそっ。」
失礼っすよ、そう文句を言おうとしたが言葉が出てこなかった。狸塚の、慈鳥を見る目がまるで観察しているような、それも冷たさを帯びている、そう感じてしまったから。何もない、怖くないはずなのに息を飲み込んでしまった。
「ほら、早く行きますよ。」
先ほどの様子が嘘のようにいつもの、胡散臭い詐欺師みたいな顔をして歩きだした。源は拳を握ると先行く狸塚を追いかけた。




