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エドガーの回顧録  作者: 紡里


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5/9

現実

残酷な臭わせ描写があります。

 朝日が昇った。

 村の広場で小さな焚き火をさせてもらい、お湯を沸かす。

 簡単な食事を済ませ、それぞれが自分の荷物を背負う。

 村長にお礼を言って、入り口から出た。


 あの三人は起きているだろうか。少しは反省したかな。まだ寝ているとしたら、今度こそ、迷わずに置いていくぞ。

 そんな気持ちで周囲を見回すが、それらしき人影がない。

「あいつら、先に進んだのかな?」


 例年だと、数人で集団を作って街へ向かう。僕たちと気が合わなければ、別行動で先に行っても問題はないのだ。


「え、ちょっと、何あれ?」

 仲間の一人が、道から外れた草むらを指差した。


 その先に、散らばった荷物が見える。赤茶色の血痕のようなものが、地面と草についていた。

 踏まれた下草に、引きずられたような跡。それが森の方へ続いている。


 これは……モンスターにやられたのか?

 思いもしなかった光景に、僕は立ちすくんでしまった。


 アーデンはそんな僕をちらりと見てから、荷物を一つ拾い上げた。

「拾っていくか。最初に里帰りする奴が、村に持って帰ってやろうぜ」

「あ、ああ……。そうだな」

 アーデンに倣って、何人かが拾い始めた。服や食器、ナイフや薬草など新生活のための品々だ。


「あたしは嫌。触りたくもない。――天罰だよ」

 昨日、襲われかけた女の子は、村の高い塀のそばまで下がって座り込んだ。

「ごめん。僕、血を見るの駄目……」

 自警団に入りたくないから街に出ると言っていた男の子も、塀へ向かった。


 そんな。死んでしまったのか……?

 追い出した僕のせいなのか?

 僕は拾うこともできず、塀で待機する女の子を慰めることもできず、呆然としていた。


「なんだよ。あいつらが自分で選んだ結果だぞ」

 アーデンは左腕に拾った物を抱えたまま、僕に話しかけてきた。


「自警団でも、自分の実力を過大評価する奴を見捨てることがある。

 強いやつがそいつを庇って死んじまったら、村にいる戦えない奴らの命を危険に晒す。

 ――俺は、自警団で一番最初にそれを教わった」


 そう言うアーデンの眉間にはしわが寄っている。それでいいと納得しているわけではないが、必要なことだと飲み込んでいる顔だ。

 いつの間にか、こいつは大人になっていた。


 ああ、そうか。アーデンはただ強いだけじゃない。

 もう、覚悟が決まっているんだ。


「村の出身証明書がねぇな」

 アーデンがぽつりとこぼす。

「これでモンスターか野盗かわからなくなったぞ」


 僕たちの間を、風が通り抜けた。


 昨日の自分の決断の重さが、改めて肩にずしりと乗った気がする。


「ハロルの街に着いたら、門番に説明するよ」

 彼らの出身証明書を使って罪人が街に入り込んだら、村長の責任問題になりかねない。

 それは、村長の跡継ぎとしての僕の役目だろう。


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