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エドガーの回顧録  作者: 紡里


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村を出る

 十二歳の旅立ちは、それぞれ家族に見守られての華やかなものだった。

 村に残る幼なじみたちは、応援してくれる者もいたし、「危ない目に遭わなければいいね」と妬ましそうに言う者もいた。


 親たち、特に母親たちは、「忘れ物はないか」などと細々とした心配や注意が尽きない。

 キリがないので、号令をかけて出発することにした。


 初めて親の目を離れた子どもたちは、はっきり言ってひどかった。

 放し飼いにされた犬のようだ。しっかりしている者もいるが、まるで野生に帰ってしまったような者もいる。


 こんなことなら、一緒に行こうと提案しなければ良かった。

 馬に乗って使用人と移動すれば、たった一日の距離だ。使用人にその馬を引き連れて帰ってもらえばいいのだ。


 昼食は家から持たされた弁当があったから、問題はなかった。

 水筒の水を飲み終わってしまった奴が、気の弱い子から強奪しようとするのを阻止したくらいで……。


 野宿する場所は、道のすぐ脇の空き地だ。

 時々利用する旅人がいるので、下草が踏まれ、火を焚きやすい窪みが石で囲んである。

 夕飯の準備が一仕事だった。


「アーデン。奴らにも手伝わせてよ」

 手伝おうとせずに、棒きれを振り回したり、しゃべっているだけの奴がいるのだ。

 僕が声をかけたら、棒で叩かれそうになった。


「おーい。晩飯の支度を手伝わない奴には喰わせないぞ」

 サボっている連中も、一番強いアーデンの言うことなら、素直に聞く。水を汲みに行く者、野菜の皮を剥く者と、動き出した。


 ――この統率力は、僕も身につけなければいけないものだ。


 夜になっても、問題児たちがはしゃいでいる。

「明日も一日中歩くんだぞ」

 そう声をかけたが、効果はなかった。


「へっ、真面目な良い子ちゃんめ」

「ここで優等生をやったって、誰も褒めてくれないぞ」

 確かに大人の目がない。

 ということは、お前らを見捨てても、文句は言われないってことでもあるんだぞ。

 そう考えてしまったが、将来村長になる身として反省する。簡単に見捨てるなんて、駄目だろう。



 案の定、翌日、起きてこられない奴らがいた。

「朝食の準備を手伝わなかったけど、今日は食べさせてやる。次も同じことをやったら、食べさせないぞ」

 説教しながらも、食事を分けてやったんだ。意地悪をしたわけじゃない。

 だが、この行為で恨みを買ってしまったらしい。


「村長の息子だからって、偉そうに」

 吐き捨てるように、そう言われた。


 二日目の晩は、途中の村に泊めてもらうよう交渉した。

「今年は集団で移動するのかい?」

 顔見知りの村長が驚いた顔をする。


「はい。僕がハロルの街に行くんで、みんなに声をかけました」

「そうかい、偉いな。納屋で良ければ、屋根を貸してやろう」


「なんだよ。食事を出してくれるかと思ったのに」

 そう、文句を言う奴がいた。モンスターや獣の心配がないだけでもありがたいだろうに。


 僕は引率のようなことをしたことを後悔していた。

 こいつら、勝手すぎる。


「いやっ、やめて」

 女の子の声がした。

 納屋を出て、周囲を見渡す。日が沈んでいるので、よく見えない。


 厩の方から音がした。

「何をやっているんだ!」

 問題児たちが厩の陰で、女の子を襲おうとしていた。


「街に出る女なんて、男漁りに行くんだろ」

「真面目に働こうとしているだろ」

「けっ。修業先で、どうせやられちまうんだから、先に味見したって……」

 どうしよう。三対一で、僕は腕力では敵わない。


「あははは。モテない男は必死だな」

 アーデンがゆっくりと歩いてきた。

「エドガー。俺たちと同行してるのって、ただの親切だろ? お前が気に入らなきゃ、放り出してもいいんだぜ」

 挑発するように、アーデンが僕を見つめる。僕がどんな答えを出すのか、楽しんでいるようだ。


 今朝、朝食作りをしなかった奴らでもある。

「ルールに従えない奴は、この村の外で寝泊まりしてくれ」

 僕は女の子たちを守り切れない。今だって、アーデンが来なければ危なかった。

 もっと大人なら別の解決策も見つけられるかもしれないけれど。


「なんだよ。誰も頼んでねぇし」

 そう言って、三人の少年は反省するより、村を出ていくことを選んだ。


 村長に訳を話して、入り口を開けてもらう。

「そんな連中を村に入れないでくれよ」

 眠そうな村長に言われた。


「申し訳ありません」

 そうだ。

 逆に、うちの村によそ者を入れて女性が襲われたら、それを招いた人も責任を問われるじゃないか。

 同い年というだけで、気を許しすぎていた。


 村は高い塀で囲まれている。モンスターが来た時に村人を守るためだ。

 その外で三人だけで野宿。

 食事や起床など、少しは苦労して心を入れ替えればいいと、そう思った。


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