広がる世界
十二歳になり、僕はカルディーネ領の領都へ行くことになった。
領主様のところで一年ほど、書類の書き方や貴族との付き合い方を学ぶのだ。三年に一度、十二歳から十四歳までの村長の子どもたちが集められる。
父は、ここで作った人脈が村長になってから役に立つと力説する。
「領主様の言うことをしっかりと聞くんだ。そして、お前の振る舞いは、村の代表として見られていることを忘れるな」
祖母は、自分たちの時代にはこんな勉強会はなかったと話す。
「どれだけ役に立つかわからんが、行くからにはしっかりと学ぶんじゃぞ。怠けたりしたら、承知せんからな」
そして、祖父はそんな勉強をしなくても立派に村長を務めたと、いつもの繰り言が始まるのだ。
姉はこの勉強会に出してもらえなかったことを、今でも恨んでいる。
「あんたばっかり、ずるいよ。あんなにお願いして、家の手伝いもしたのに、女だからって何さ」
その気持ちはわかるが、僕に八つ当たりをするのはやめてほしい。
僕がやらされていたように、姉も徴税の手伝いをしていた。だけど、下品なオジサンたちをあしらえなくて、やめてしまったんだよな。
そこは女の子の方が不利で、可哀想だと思う。だけど、そこで村長は無理だと判断されてしまった。
あの辺りから、姉はどんどんひねくれていった。
世話好きの、明るい女の子だったのに。
「あんたなんか、領都で変な女に引っかかるんじゃない? うちに連れて帰ってきたり、しないでよね」
……これは、一応、心配してくれているのだろうか。
僕たちのカミナ村から少し離れたところに、ハロルという街がある。子どもの足なら三泊四日の距離だ。
親元から離れて働くなら、十二歳でその街へ出る。
アーデンたちも、その街で冒険者ギルドに登録する予定だ。
「やっと思う存分、腕を振るえるぜ。自警団だと子どもは後ろにいろって、活躍させてもらえないしさ」
とやる気満々だ。
彼は十歳で戦闘スキルをもらってから、村の自警団に参加して実力を磨いてきた。
他にも戦闘スキルをもらった子たちは、背が伸びて筋肉もついていく。見るからに違いが出てきて、スキルのすごさを実感した。
「俺は魔物をばっさばっさと斬り倒す、強い冒険者になるんだ!」
アーデンがそう言えば、他の子たちも大きな声を出す。
「俺は盾で、何でも防いでやる」
「僕は足の速さで勝負だ」
それでいうと、僕の女衒はどうなんだろう?
人を見ていて気がつくことが少し増えたくらいだ。「あ、困ってそう」とか、「今の嘘じゃないかな」とか。それがスキルの恩恵なのか、経験が増えて気がつくようになったのか、わからない。
平凡な、波風の立たない人生が目に見えるようだ。
僕はハロルの街へ行き、そこから出ている乗合馬車で領都へ向かうことになっている。
アーデンたちと目的地が同じため、日にちを合わせて彼らとハロルの街を目指すことにした。
子どもたちだけで三日間の旅だ。
どんな思い出ができるか、僕は密かに楽しみだった。
服や火打ち石、筆記用具などを準備しながら、これも自分にとっては立派な「冒険」だと考えていたのだ。




