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エドガーの回顧録  作者: 紡里


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隠したいスキル

「なんかイヤらしい」

 姉にそう言われた。

「何がだよ?」

 見当はつくけれど、素直に認めたくはない。


女衒(ぜげん)って、女の人を売るんでしょ」

 年頃の少女の潔癖さで、容易に人の心を抉ってくる。


 スキルをもらうお祝いの席だ。

 祖母がしかめっ面で姉を諭す。

「そんな言い方をするもんじゃない。与えられたスキルを活かすも殺すも本人次第だ」


「だから、本質がイヤらしいってことでしょ」

 姉はぷいっと祖母から顔を逸らした。


「お前が女で良かったよ。そんな了見の狭いことを言う者に村長なんか任せられないからね」

 祖母は歯に衣着せぬ言い方で、姉を叱責した。


 姉は顔を真っ赤にした。言われたくないことを、これでもかと詰め込んだ祖母の暴言。

 音を立てて立ち上がり、姉は自室へ走って行った。


「お袋。そういうことを言うなよ」

「あの跳ねっ返りを矯正しないと、嫁にも出せないよ」


 あれを傷つけるつもりではなく、教育しているつもりだというのだから、恐れ入る。

 僕のお祝いの席はぎこちない雰囲気のまま。いつもより豪華だけれど、味わうどころではない空気で終わった。


 僕は寝る支度をして、ベッドに仰向けに寝転んだ。

 この村では、子どもに一人部屋があるのは裕福な証だ。それどころか、家によっては夫婦も子どもも同じ部屋で寝ている。


 恵まれた分、還元しないと……それが村長になるための心構えだと祖父に教えられた。

 古い考えの祖父は、僕には厳しくとも優しかった。

 けれど、姉に対しては「女は学を得る必要はない」と教育を与えなかったんだ。理性的な振る舞いを覚えず、感情のまま行動してしまうのは、そのせいもあるんじゃないかな。


 僕も公平にする大切さを習う前は、村長の息子ということで持ち上げられて、それを当たり前だと思っていた。

 その言動は駄目だと非難する前に、どうすればいいかを教えるべきなんだ。

 そうは言っても、僕の意見なんか聞き流されてしまうだろうけど。


 寝返りを打つと、ベッドがきしりと音を立てる。



 翌日、納税の立ち会いに行った。

 まだ十歳だが文字を書けるので、誰が何をいくつ持って来たかを帳面に書き付けていく。


「坊ちゃん。スキルは何でしたか?」


 遠慮もなく訊いてくる農夫に、うんざりした。

「秘密です。スキルは長所になりますが、裏返せば欠点を晒すことになりますから」

 笑顔で言い切った。難しい言葉で煙に巻こう。


「え~、村長になったとき、わしらにも影響が出るじゃないですか」

 子どもだと侮っているのか、しつこい。


「……父もスキルを秘匿していると思いますが?」

 ああ、かっこ悪い。親の威光を盾にしてしまった。


「お父ちゃん、恥ずかしいからやめてよ」

 三つ編みの少女が、絡んできた男の袖を引っ張った。


「あ……」

 僕は思わず声を漏らした。助かったと思ってしまったのだ。


「坊ちゃん。ご迷惑をおかけしてごめんなさい」

 少女はぺこりと頭を下げ、父親を引っ張っていった。


 気が強いのでも、こういう感じならいいよな。つい姉と比べてしまった。ごめん。


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