祭りの提灯売り
どのくらい走っただろうか…進めど進めど女の子は見えず、息を切らしながらも徐々にスピードが落ち、遂には膝に手をついて止まる。
こんなに体力なかったっけか…
自身の体力の無さに嫌気がさしてくる。
「宜しければいかがですか?」
「…え?」
駿が顔を上げると、目の前にひょっとこの面がこちらを見ていた。
薄気味の悪い男は、面の陽気さに反した低く静かな声で話しかけてくる。
「えっと…」
「突然すいません、いやなに、私はこの祭りで提灯を配っていまして、お一つどうです?雰囲気も出ることですし」
どうぞどうぞと男は駿に提灯を持たせる。
渡される際にチラリと見えた男の手は、明かりに照らされてか肌色は白くスルリとした、まるで女性の手のようであり、声や面も相まってツギハギの人形を思わせる違和感を感じさせた。
そんな男の押しの強さというか鬱陶しさに負け、駿は提灯を受け取ってしまう。見た目と同様言動も怪しい男だが、渡された提灯はいたって普通の提灯であり、持ち手の棒先から垂れる丸い提灯は夜風と共に微かに揺れる。先程の女の子と同じような形であり、唯一異なるのは灯りが点いていないことだろう
しかし、上から覗き下を見てもライトや蝋燭といった光るものが見当たらない
「あの、これどうやって光らせれば?」
「いいえ、光っていますよ」
男の声が先ほどよりもくぐもって聞こえる。
「でも中に何も…」
駿が聞こうとするが、目の前に男の姿は既に無くなっていた。
「…はぁ」
不良品じゃないだろうなと疑いつつ、せっかくだからとそのまま持っていることにした。
不気味さを拭いきれないまま、駿は通りを進んでいく。
提灯を受け取ってからいくらか歩いただろうか。屋台も人も少なくなり、辺りのスピーカーから流れる祭囃子が尚のことよく響いて聞こえる。
カラツン…カラツン…
ふと駿の左耳に、先ほどと同じ下駄の音が耳に入る。
あの音…!!
音のする方へと顔を向けると、屋台と屋台の間、ちらりと人影が路地裏の奥へと進むのが見えた。
駿はその姿を追い、祭り道を横切ると、その路地裏へ恐る恐る入っていく。
薄暗く、祭りの明かりすら入り込まない道、上から覗く月がかろうじて足元を照らす。手に持つ提灯が光っていればどれほど良かったかと、あの男を恨めしく思った。そのおかげか、纏わりついていた恐怖心は少し薄らいだ。
どうやら、そこまで長くはなかったようで、ほんの10メートルくらいだろうか、駿は路地裏を抜ける。
視界が開けると、目の前には古い石橋が掛けられ、橋の終わりには鳥居があり、下には広い川が流れていた。
こんなところあったのか…
祭りの音は聞こえるものの、川の流れる音に上書きされ、遠くから聞こえるようだ
駿が川に掛かる橋を見ると、橋の袂、端の方に僅かに灯った提灯を持つ浴衣姿が目に入った。




