74、ヤスシの態度(ノリコSide)
私はまじまじと色白でおっとりとしたその人の顔を見てしまった。
その表情には決して悪意は感じられないのだけれど、それでも言っていることはかなり酷い。
あ、でも・・・それって全部本当の事だし、意地悪で言っているわけでもないんだよね。
普通本当に悪意がないのであれば、少しはそこらへん気を遣ってオブラートに包むようなことをするものだけど。
この人の場合、思っていること全部口にでているような気がする。
そんなことを考えながら固まっていたら。
「フフッ・・・裕子って、本当に嘘がつけないの、お世辞も言えないしね。でも、私はそんなところが好きなの。優しくて、人の良いところを素直に認められる、自慢の友人よ。」
戸田さんが美智子さんと呼んでいた女性が、私に話しかけてきた。
小柄だけど美人でしっかりした感じの人だ。
でも、その人の言っていることはその通りで。
「確かに、さっきから言われていることは、本当の事ばかりでしたね。」
私がそのとおりと頷くと、戸田さんが涙目で。
「ノリコちゃんまで、酷ぇよ。」
と言ったが皆スルーで、浜田ジョーは裕子さんと美智子さんに飲み物を聞いていた。
「だけど、戸田君、こんないかにも・・・じゃない、きちんとした女の子と友達なんて、おどろいたなー。どこで、しりあったの?」
ミッチーが興味津々と言う顔で、戸田さんに質問した。
それ、私も知りたかった・・・だけど、となりのヤスシはあんまり興味がないようで。
「どうでもよくね?そんな話。」
と、冷たい言葉を吐いて、カウンターの下で自分の膝の上に置いていた私の手を、指をからめるように握ってきた。
いや、嬉しいけど・・・皆いるし・・・いや、カウンターの下だから見えないけど。
と、1人ドギマギしていると。
「合コン、です。美智子も私も初めて行った合コンで、戸田ちゃんと会ったんです。ちょっと、そのころ美智子が荒れてて・・・騒ぐだけ騒いで酔ってしまったところを、戸田ちゃんが介抱してくれて、タクシーの手配までしてくれたんです。美智子、結構戸田ちゃんに八つ当たりのように酷い事言っていたのに、人間そういう気分の時もあるって笑い飛ばしてくれて。戸田ちゃん、こんな顔ですけど・・・皆さんが思っているほどウザいだけの人間じゃないですよ。」
と、裕子さんが戸田さんを擁護する発言をしたんだけど、それがまた・・・。
いやいや、ウザいだけの人間なんてだれも言っていないし。
そりゃぁ、ちょっとはそう思わないでもないけれど。
裕子さんの発言に、皆がゲラゲラ笑い出した。
ということは皆、ちょっとはそう思っていたってこと!?
いや、皆、酷くない?
私は少し戸田さんがかわいそうになり、話をかえるべく美智子さんに話しかけた。
「美智子さんって、凄くしっかりしているように見えますけど、そんな酔いつぶれる程荒れていたって、何か想像できないです。」
と、話題を変えてみたのだけれど、それがマズい方向に変えてしまったらしく。
「そうなの、私ねー、失恋しちゃったばかりでさー。しかも、付き合ってた彼氏なんかんじゃなくて、婚約中の彼氏に、浮気されたの!!もー最悪でさぁ。この世の幸せ全部呪ってやろうかと思ったわ。」
「えっ、美智子さんが失恋?信じられない。」
こんな綺麗な人が?失恋?
内心驚く私の反応とは正反対の態度でヤスシが、戸田と同じ穴のムジナじゃねぇかと呟いた。
すると、その声が聞こえたのか、戸田さんが立ち上がり。
その言葉に、浜田ジョーも喉の奥で笑いながら、だよなと同調した。
「なんだよっ、富士見。あんたは上手くいってっから、そんな余裕だけどな!ったく、カウンターの下で手をつないでるんじゃねぇよっ。」
と、戸田さんがヤスシを攻撃してきた。
だけど、相手はヤスシだ・・・かなわないよね。
「自分の女の手を握ってて、何が悪ぃんだよ。」
と、普通にかえされているし。
でもそこで、救世主というか穏やかな春川さんの声が割り込んできて。
「失恋ですか・・・それは、苦しかったし、悲しかったでしょう?何か人ごとのような気がしません。俺も・・・つい、さっきそんな気分になりましたから。少しわかるかもしれないですね。」
と、とても良い声でそう言った。
美智子さんはそれは嬉しそうに、わかる!?と食いついてきたし。
というか・・あれ?今、春川さん、ついさっきそのんな気分になったって言いましたよね?
それってもしかして?相手って、ヤスシのこと!?
そう思って、チラリとヤスシを見ると、ものすっごく微妙な顔で口元を引きつらせていた。
そして、スツールから下り、ヤスシは私の手を引っ張ると。
「俺ら、もうホテル帰るんでっ!いくぞ、ノリコッ!」
さっきまでの落ち着き払っていたヤスシはそういうと。
私を引っ張り、出口へと急いだ。
さっきとは打って変わった、慌てた態度で——




