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73、招かねざる客(ヤスシSide)

「おい、外に貸し切りって書いてあんだろ。おめぇ字読めねぇのか。」


俺が何か言う前に、ジョーが先に低い声でドアから入ってきた間の悪い男にそう言った。

俺は、奴がさっきの紫のラメ入りスーツを着替えていたことにまずホッとした。

あの姿でここに登場されたら、ムカついて殴ってたかもしんねぇ。

だけど、当の本人はそんな俺の気持ちに気づくこともなく、上機嫌で。


「今日ディナーショーがあって、『貸し切り』って書いてあったから、絶対にノリコちゃん達だと思ったんだよなー、マジ、ビンゴだったわ。いーじゃん、いーじゃん。皆知ってる仲なんだし、友達の友達は皆友達っていうしー。固いこと言うなってー。」


「おめぇとはダチじゃねぇし。」


デカい顔の上に、図々しさも半端ねぇ戸田に、俺はピシャリと言い放った。


「だよな。」


それにジョーも便乗した。

すると、戸田が焦ったように、その言葉に対し捲し立てた。


「えええっ、そんな冷たいこというなよぉ。あっ、ハルさん!俺たち一緒にこの間買い物行きましたよね?横須賀まで、富士見のツテで。」


春川まで話を振り、しかもいつの間にか愛称で呼び出した。

だけど、大人なのか春川はニッコリと笑い返し、頷いた。

その対応に、ホッとした顔を見せる戸田。

だけど。


「そうですね。さりげなくて格好いい富士見さんの私服は、ジーンズショップのオーナーのチョイスだと聞いて、店のオーナーにアドバイスしてもらおうって行きましたよね。結局、戸田さんはオーナーに、オーバーオール以外は売らない、うちではそれ以外お前に売る品はないって言われてましたけどね。それ、楽しかったですか?」


案外毒舌なのか、笑顔を崩さず丁寧な口調で首を傾げ、春川がそう言った。

その途端、皆がふきだした。

戸田は、真っ赤な顔になって、何かを言おうと口を開きかけたが。


「あの、寒いですから。中へ入って下さい。」


ノリコが戸田の後ろに向かって、声をかけた。

すると、さっき一緒のテーブルだった毒舌美人と色白眼鏡が、申し訳なさそうな顔をのぞかせた。

ドレスからラフな服装に着替えた姿だったから、一瞬アレ?と思ったが。


「本当に、ごめんなさい!『貸し切り』って書いてあるって言ったのに、いいからいいからって聞かないでドア開けちゃって。失礼しました。戸田ちゃん!あなた、本当に図々しいのは不細工なその顔だけじゃなくて、性格も比例してるわよね!知ってたけど!」


キレのいい毒舌に、さっきの毒舌美人だと確信した。

そして。


「本当にすみません。そうですよね、図々しくドアを開けてしまって失礼しました。でも、今のオーバーオールの話、いい話ですね。今時、売れればいいっていうお店が多くて、似合いもしないものを似合うって言って売りつけるようなことばかりなのに。似合わないものは売らないっていうオーナー、素敵ですよね。確かに、戸田ちゃんに似合うジーンズってオーバーオール以外、ないですからねー。戸田ちゃん、似合わない物売りつけられなくてよかったね!良いオーナーに出会えたから、楽しかったんだね!」


天然風味満載だけど、毒舌女より結局酷ぇことを言っているという様は、さっきと同じ・・・いや、さっき以上で。

確かに色白眼鏡だ。

皆、そのあまりにもな天然発言に、一瞬唖然としたが。


「アハハハハッ・・・戸田君、素敵なお友達だね。今日は、その素敵なお友達に免じて入れてあげるよ・・・君たち、ごめんね。寒いから入ってー。」


ミチルが笑い出し、奴らを招き入れた。

戸田は憮然とした顔で、女達は申し訳なさそうな顔で、俺たちが座るカウンター席の近くのボックス席に座った。

すると、ノリコがスツールから下り、戸田の連れの女たちに向かって頭を下げた。


「あの・・・さっきのディナーショーに来てくださった方ですよね?ありがとうございました。今日は、春川さんもいらっしゃるし、私も少し・・・個人的な話がお店の人とあって、だから『貸し切り』にしてもらっていたんです。寒い中、お待たせしてごめんなさい。」


ノリコがそう言うと、女2人は慌てて。


「いやいや、こちらこそ、すごく楽しくていいショーでした!戸田ちゃんから誘われた時、ふーん・・・くらいにしか思わなかったんだけど、ごめんなさい。でも、裕子が・・・あ、この子私の親友なんですけど、風町さんがデビューした時からファンで、行くって言うから付き添いくらいの気持ちで来たんですけど。凄く良かったです!笑いもたくさんあったけど、本当に歌がうまいですね!それに、心にスッと入って来て・・・私も、今日ファンになりました。こちらこそ、ありがとうです。それと、戸田ちゃんが本当に図々しくてごめんなさい。」


戸田にはキツい口調でポンポンと容赦なかったが、ノリコには素直な気持ちできちんとした対応だった。

ノリコはその言葉に嬉しそうに微笑んで、首を横に振り大丈夫ですと柔らかく答えた。

だが、流石というか、ミチルがすかさずノリコの後に言葉を続け。


「悪いんだけど、ここで見聞きしたことは、他言しないでくれるー?それだけ約束してくれたら、今日はお兄さんがごちそうするよー。」


と、釘をさした。

勿論ですとすぐに答える女2人だったが、ここで黙っていた戸田が心配いらないと言い切った。


「美智子ちゃんも、裕子ちゃんも、そんな軽薄なコじゃないから、大丈夫。俺が保証

するよ。」


「誰よりも軽薄なおめぇの言葉じゃ、保証になるか。」


戸田の調子のいい言葉に、ジョーが鼻で笑い言い返すと、なんだとぉっと戸田がいきり立ったが。


「戸田ちゃん、うるさい。そのバーテンさんの言葉あってるじゃない。なのに、なんで怒るの?軽薄って・・・戸田ちゃんにぴったりの言葉じゃない?」


と、毒舌美人の言葉に意気消沈。


「美智子ちゃん、酷ぇ。俺、自分では軽薄なつもりねぇよ。」


「そうだよ、美智子。戸田ちゃんは軽薄じゃないよ。ちゃんと色々考えてくれてるじゃない。ただ、ちょっとアレなだけだよ。口が軽いとか、お喋りとか、すぐふざけるとか、ナンパが好きとか、品がないとか、センスもないとか。」


「・・・・・・。」


そして、色白眼鏡の言葉に戸田が撃沈した。

まぁ、招かねざる客だからよ、これくらいがいいのかもしれねえな。


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