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剣聖ヴァルカンの幸せな日々 ~愛娘からの尊敬を守るため、父は限界突破します~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第一章

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そびえ立つ嘘の塔




 ルシャードが執務机に両肘を置いて顎を乗せた。


「んで、結局そいつは誰の子よ?」


 ……えっ!?


「わた、私の子と、先ほど申し上げましたが?」

「アホ。どこの女に生ませたのかって聞いてんだ」

「ウマセ……!? 私が……っ!? 女性に……っ!?」


 ルシャードが呆れたように眉をひそめる。


「女がいねえとガキはできねえだろうが。んなことも知らねえのかよ、おっさん。それとも何か? ヴァルカン。てめえはひとりで分裂して増えんのか? あ?」


 先生になったり、おっさん呼ばわりされたり。


「そ、そんくらい知っとるわっ!!」

「ははははっ、冗談だよ、冗談。いい歳こいて真っ赤になってんじゃねえよ」


 ほっとしたのもつかの間。

 黄金の瞳が鋭く輝く。獲物を逃がすまいとして。


「んで? 結局誰の子だって? ――おい、おまえ、名は?」

「う?」

「名前だよ、な・ま・え」


 それまで利口に聞いていたリウが自身を指さした。

 ルシャードがうなずく。


「リウ」

「リウか。田舎くせえがいい名だ。ヴァルカンはおまえの父親か?」

「?」


 リウが首を傾げると、ルシャードが左右の眉の高さを変えた。

 ヴァルカンが慌てて身を入れる。


「で、殿下! リウはその~、い、色々ありまして記憶を失っているのです! 言葉すら不自由になってしまっております!」

「はあ? ――そうなんか?」

「ソーナンカ?」


 突然のオウム返しに、ルシャードが苦笑した。リウはうまく言えたからか、得意げな表情をして薄い胸を張っている。


「どうやら本当のようだな。こいつから母親のことを聞き出すのは難しそうだ」


 黄金の瞳がリウから再びヴァルカンへと戻される。


「いい加減白状しろや。こいつは命令だぞ、命令」

「ぬ、う……」

「娼婦か? 行きずりか? 真面目ぶってんくせに、まあまあ遊んでんじゃねえかよ。見直したぜ」


 どの部分を見直しているのかと。そう言いたくなるのをぐっと堪える。


「そ、そのようなこと決して! 家名に反しますゆえ!」

「あいかわらず頭の堅え野郎だ。家名なんざ伏せてりゃいいだろうが」


 まったく、この青年は。

 ヴァルカンは顔をしかめた。

 どうやら逃げられそうにない。どうせもう嘘に嘘を重ねて嘘塔のようになっているのだ。ならばもうせいぜい都合の良いように、もう一段建設して上乗せすればいい。バレたら侮辱罪で処されそうだが。


「実はその子の母親は女性騎士で、そして残念ながら彼女は此度の激戦で犠牲に――」


 そう言った矢先に、作戦室のドアが開かれる。

 振り返ると、そこにはアンダーウッド小隊の副官エイメリアが立っていた。

 腰まで伸びた金色の髪からは、他者より多少長い耳の先がわずかに飛び出している。瞳は空のように美しく、肌は透けるように白い。


「失礼します、殿下」

「おお。エイメリアか。ヴァルカンとは違って十年経ってもおまえは変わらず綺麗だな。騎士なんぞにしとくにゃもったいねえ。王妃の座にゃ興味ねえかよ?」

「ふふ、お上手になられましたね、殿下」


 エイメリアが口元に手を当てて優雅に微笑んだ。ヴァルカンが苦い顔をしているのをちゃんと見ていたにもかかわらずだ。


「人間はおまえらエルフと違って日々成長するからな」


 エイメリアが微笑みながら皮肉をつぶやく。


「あら。エルフだって長い時間をかけて少しずつ成長しますよ。それにわたしは半分人間ですから」

「そうか。そうだったな。失言だ。許せよ」

「いいえ。それに、人間だって中には成長されない方もいらっしゃいますけど」


 ヴァルカンが苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てた。


「無駄に歳食ってて悪かったなっ」

「まあ、自覚があったなんて!」


 エイメリアとルシャードが同時に笑う。

 外見は美しい。だが実のところ、ヴァルカンはエイメリアをどう扱ってよいものかわからないというのが正直なところだった。

 齢四十にして、未だに女性が何を考えているのかわからないのだ。とりわけ彼女は、さらに。唐突にとんでもないことを言い出したり、しでかしたりするものだから。


「んで、今日はどうした? いまヴァルカンを追い詰めて楽しんでるところだ」

「そのことに関してご報告がありましたので」

「ほう。言ってみろ」

「リウは十年前にわたしが生んだ、ヴァルカンの子です」


 まさにこんなふうにだ。またわけのわからない世迷イ言……ヲ?

 言葉を脳が理解するまでに数秒を要した。

 そして。

 ぶん、と首をエイメリアの方へと回す。


 ――何言い出したっ!?


 じわりと、全身から汗が浮き出る。


「なるほどな。てめえの部下に手ぇ出したことを知られちゃあ、さすがに指揮官としては示しもつかんわなァ、ヴァルカン先生よ。それで秘密にしてたってことか」

「え!? ぅッ!?」


 辻褄が合ってしまった。

 そうか、と気づく。エイメリアはヴァルカンを救うため、嘘をついているのだ、と。


 エイメリアとは騎士団に入団して以来、ずっと同じ隊でやってきた。

 細腕にもかかわらず愛用のメイスを振るい敵を鎧ごと叩き潰す様は、戦女神そのものであると他の隊からは称される。その上でエルフらしく魔法にも精通していて、機転も利くときた。

 有能な味方だ。爵位こそ騎士爵ながら、いまではヴァルカンの副官という立場になっている。付かず離れず、いつも共にある。

 しかし、このヴァルカン・アンダーウッドという男は、元来生真面目な性分である。


「わたしたちに内緒で戦争についてきてしまったときに争いに巻き込まれてしまって、リウは記憶を失ってしまったのです」

「そいつぁ……。おい、ヴァルカン。なんでさっさと言わねえんだよ」


 だからこそ。そう、だからこそ。

 自身の隊の女性に手を出すことなど一度たりともなかった。意識をして恋愛対象からも外していた。当然、彼女と身体を重ねたことなどない。たとえ作戦の都合上、寝所をともにしようともだ。

 頭が混乱した。


 それが何? いまになって何? どういうこと? なんでそんな根も葉もないこと言うの!? いったい何が目的だ!?


「あ、そ、その、それは……」

「俺とてめえの仲だろうが。んな遊びくれえ黙っててやるっつーの。これでも一応尊敬してんだぜ、先生よ」

「きょ、恐縮です」


 ドグ、ドグ、脈打つ心臓が痛い。

 呼吸が荒くなってきた。

 意味がわからない。副官の考えてることが何一つとして理解できない。だが、刻一刻と取り返しのつかない事態になっていっていることだけは確かだ。

 ヴァルカンは天井を見上げ、考えることを諦めた。


 ――いいや、もうすべて受け容れよう。


 大人三名の真ん中に立ち、リウは興味深そうにそれぞれの顔を見上げるのだった。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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