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剣聖ヴァルカンの幸せな日々 ~愛娘からの尊敬を守るため、父は限界突破します~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第五章

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逃げていいよ

本日も二話更新です。




 怒りすら滲ませながら、二振りのナイフが輝く軌跡を残してヴァルカンへと振られた。その両方を埒外の反射と剣捌きで防ぎ、ヴァルカンは後退する。

 速い――!

 だがすぐに踏み込まれ懐に入られた。

 両者の中央で火花とともに金属音が爆ぜた。


「――ッ」

「へへ」


 後退したロサーダが、悪辣な笑みを浮かべる。


「俺の責任だと? 戦争を止めるのは当然だ。みなその目的のために戦った。それは敵も味方も変わりなくだ」

「ああそうとも。そうだろうよ。だが、タイミングが悪い。あれは最悪だ」


 困惑する。何が言いたいのかまったく理解できない。

 ナイフを弾き、躱す。


「俺たちのシナリオでは要塞都市イェルガを陥落(おと)されたヴァシスがさらに帝国に攻め込まれ、王都にまで迫った時点で、俺たちの手でロンガースを討つ予定だったんだ。それを横からしゃしゃり出てきたおまえが一足先にかっ攫った。予定が狂ったのさ」

「それに何の意味がある? 遅かれ速かれ――」

「違う」


 少し離れた位置で、ロサーダが空を見上げてため息をついた。


「帝国にはイクスという機関がある。いや、あった」

「イクス……?」


 初耳だ。それも過去形か。


「どういう……」


     ※


 お父さんが走り去っていく。

 煙幕の向こう側。少し大きな犬の影。ダンブニルだ。首を左右に振ったり、地面を嗅いだりしている。

 わたしを探知しようとしている。匂いで。お父さんと同じ匂いだからか、お父さんが去った方角を向いた。

 だから。


「追わせないよーだ」


 わざと声を出しながら、地面を蹴った。

 ダンブニルがこっちを振り向く。でももう遅い。わたしは剣の刃を口内へと突き入れた。ごぼりと血を吐くダンブニルから引き抜き、背後から迫った足音へと、身をひねりながら振り下ろす。

 ゴン、と音が鳴った。

 硬い鱗の手応え。重い肉体に、全身が押されて仰け反る。


「わっ!?」


 背中から転がって立ち上がると、わたしはすぐに煙幕の濃い場所へと逃げ込んだ。

 両手が痺れてる。


「イタタ……。まともに受けてたらもたないや」


 やっぱり目か口くらいしか剣は通らない。お父さんみたいに大きな剣(クレイモア)を使えたら、硬い鱗ごと叩き潰せるのだろうけれど。

 足下へと噛みついてきたダンブニルの頭部を踏み台にして跳ぶ。空中で横から襲いかかってきたやつは身体をひねって躱し、着地と同時に振り返りながら、先ほど踏みつけたダンブニルの横っ面を薙ぎ払った。


 ――ギャン!


 犬のような悲鳴を上げて転がったそれへと、ショートソードを逆手に持ち替えながら駆け寄り、眼球へと向けて突き下ろす。

 今度は悲鳴もない。足で頭部を踏みつけて剣を引き抜く。

 煙幕のおかげでさっきまでよりはずっと楽。これならお父さんがいなくたって何とかなりそう。

 ニィと笑う。


「えっへっへ。だんだんわかってきたぞ~」


 牙を剣で受け流し、全力で叩きつける。当然、効かない。小型魔獣でも鱗は硬く、筋肉量は人間を凌駕している。

 でも。

 噛みつき。その瞬間には弱点が二カ所もついている顔を、わざわざ自分から真正面に向けてくれる。目と口を狙ってくださいと言わんばかりに。


 ――ガアアアァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッ!!


 飛びかかりに合わせて口の高さに剣を突く。力はいらない。彼らは勝手に口を開く。だって唯一の武器である牙が、弱点である口の中にしかないのだから。


「やっ!」


 ずぐり、と刃が内臓を裂いた。

 あとは受け流して地面に落とし、蹴りながら剣を引き抜くだけ。


 煙幕が晴れる前に倒しきりたい。

 白金の髪を振って広げながら避け、さらに別のダンブニルの追撃を躱す。三体目の噛みつきに合わせて剣を突き、仕留める。

 煙幕が徐々に薄くなっていく。もうダンブニルからもこちらが見えてきているだろう。うっすらと。


 今度は自ら地を蹴った。

 それまで受けて返すだけだったわたしの急激な方針転換に、さらに攻撃を仕掛けようと前脚を伸ばしていたダンブニルの八つの目が見開かれた。その中央の眼球へと、わたしはショートソードの刃をねじ込む。

 想定通り。背後からきた別の一体を剣で強引に薙ぎ払い、その背後にいた一体の口内へと全速力で駆けながら剣を突き出す。


 すべての煙幕が完全に晴れたとき、ダンブニルはもう残り二体となっていた。

 彼らの尾は丸まり、後ろ脚を震わせている。

 わたしを見据える八つの目には、確かな怯えがあった。


 だから。

 わたしは剣に付着した血や臓物を彼らを目がけて振って払い、鞘にショートソードを納める。


「逃げていいよ。ペットを置いて逃げるような人なんかに従わなくていいと思う」


 魔獣に言葉は通じない。人に育てられたのだとしても、理解できるのは単純な命令だけ。そんなのわかってる。

 でも。

 二体分、十六の目が揺れる。頭が少し下がり、彼らは後ずさりをした。そうして小さく鼻を鳴らすと、わたしに背中――尻尾を向けて森の奥へと全速力で逃げ去っていった。


「よし。お父さんのところへ行こっと」


 痕跡の辿り方は、お父さんから学んだ。学校でも教えてもらったし、わたしにはお母さん譲りの目がある。暗い森はおばけがいそうでちょっぴり不安になるけれど。

 魔獣はいいけど幽霊はヤダなあ……。

 わたしは走り出す。お父さんが去った方角へと向けて。


「うう……早く合流しよ……」


 えっへっへ、頑張ったなって、褒めてくれるかなー。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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