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剣聖ヴァルカンの幸せな日々 ~愛娘からの尊敬を守るため、父は限界突破します~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第五章

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何かを知った娘

本日も二話更新です。




 研ぎ澄ます。集中する。

 だが、ヴァルカンのその行動を最初に破ったのはダンブニルでもロサーダでもなかった。


「お父さん!」


 リウだ。


「あとにしなさい」

「足音がひとつだけ遠ざかってるみたいだよ!」


 足音……が? ひとつだけ……?


「ああ!?」


 理解した。

 逃げたのだ。ロサーダは。この期に及んで。

 煙は安全に逃走するための手段に過ぎなかった。

 いや、いまならまだ痕跡を追えるか。人間の足同士なら追いつく自信もある。しかしこの場には――リウがいる。


「まったく、どこまでもふざけた男だ」

「やられちゃったね」


 だが――。


 ――グルウウゥゥ……。


 うなり声。すぐ眼前で影が動いた。

 背中に張りつくリウの腕に左腕を絡めて、ヴァルカンは飛び退く。ダンブニルの噛みつき攻撃だ。足を狙われた。

 やつらは見えているのか……?

 わずかに牙を掠めてしまったが、分厚いブーツが防いでくれた。


「お父さん」

「とりあえずこいつらを倒すぞ」


 周囲で小さな足音が無数に聞こえている。


「お父さんは追いかけてもいいよ」

「だぁかぁらぁ~……」


 もううんざりだ。そういうのは。前回(グラズヘイガ)で懲りた。

 そんなことをして心配しながら駆けずり回るくらいなら、もういっそ取り逃してしまった方がまだ精神的にマシとすら思える。


「そうじゃなくって! ……見てて」


 腕を解いたリウが、フッと消失した。


「リウ!?」


 名を叫んだ直後、ギャウンとダンブニルの悲鳴が聞こえた。

 その直後、リウが唐突に眼前に現れる。


「ばあ!」

「うわっ!? ――バ、バカ、とっさに斬ってしまったらどうするっ!?」

「一体倒したよー」

「……は?」


 おい、おい、なんだそれ。


「あとね、たぶんダンブニルも見えてない。こうしてわたしたちが会話をしている音を聞いて――」


 ギィンと音が鳴り響く。

 地面に切っ先を突き刺したショートソードの刃に、ダンブニルが喰らいついている。リウがその鼻面を蹴り上げると、ダンブニルは牙を放して煙の中へと消えた。


「えっと、こんなふうに」

「音のする方を攻撃しているだけ?」

「そう」


 この充満する煙の中に潜り、強固な鱗に守られているため正確な位置を狙うしかないダンブニルをあっさりと……。

 これはもはや剣の腕が立つとかそういう問題ではない。


「おまえ、まさか、見えるのか?」

「うっすらだけど、輪郭が見える。煙の乱れとかもわかるかも」


 理解できない感覚だ。エルフのような超感覚ともおそらく違うのだろうが。

 だが、リウはおそらく通常のヒト種ではない。いまはヒトと同じ時間を歩んでいるため忘れがちだが、彼女は赤ん坊から幼児期までを一日で進めた。

 言葉を信じるに足る要素にはならないだろうか。

 その上で剣術の腕はいまや〝剣聖〟にも迫る。さらにダンブニルたちの目が覆われているのだとしたら、この場で足手まといとなっているのはむしろ己の方だ。


「わかった。俺はロサーダを追う。絶対に無理はするんじゃないぞ」

「大丈夫だよ。煙があるうちならダンブニルよりもずっと、わたしの方が有利だから」


 俺の背後で金属音が爆ぜた。

 リウが背中へと飛びかかってきていたダンブニルを弾いてくれたようだ。


「痕跡を追えない場合、合流はしなくていい。トルキア村に向かえ。そちらでもおまえの力はきっと役に立つはずだ。ファーガスの力になってやってくれ」

「村の方はこっちよりよっぽど平気だと思うよ」


 足下のうなり声に、ヴァルカンはクレイモアの切っ先を地面で擦り上げながら礫ごと弾き上げた。わずかに掠めたらしいダンブニルが悲鳴を上げて転がるのがわかった。

 どうやら芯は外したようだ。起き上がり、すぐさま煙の中に消える。


「なんで?」

「お母さんがいるもん」

「……はあ? なんで!?」


 声が上擦った。


「なんかね、めっちゃ怒ってた。お父さんのこと。もうカンカン」

「う……」


 昨夜、彼女の助力を強引に断ってきたことだろうか。

 他にあるか? ある? なんだ?


「ほ、他には? なんか言ってた?」


 リウがニタリと笑いながらヴァルカンを見上げた。


「んふふ、ふたりのこと、いろいろ聞いたよ~」


 何を!? どこまで!?

 怖くて尋ねられない。

 リウとの血縁についてだけは、話していないことを祈るしかない。いや、たぶんリウの態度からしてそれは大丈夫だ。

 というかなんだ。置いてきたくらいで、そこまで怒られるようなことか。俺はただエイメリアにも平和に生きて欲しいと願っているだけなのに。

 報われん……。


「え、え~っと」


 グビと喉が鳴った。

 この分では生きて帰れたとしても、まだ一悶着ありそうだ。


「行ってくるぅ……」

「はーいっ。あとでねーっ。――あ、そうだ」

「まだ何かあるのか?」

「その件に関しては、わたしはお母さんの味方だから。えへへ」


 え~……。追跡前に不安を煽るのはやめてほしい。

 そんなことを考えながら手を振るリウをあとに残し、泣きたい気分でヴァルカンは静かに走り出したのだった。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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