エルフさんにしてみれば2
いくら上層部からねじ込まれたといっても、入団したてのリーベルトとヴァルカンにはまだ実戦経験がない。
要するに、従騎士として人々を守る任務に何度も従事してきたわたしたちとは違う。剣の腕が立つだけで、あてにはならない。それどころか連携の取れない足手まといだ。
そう思っていた。
それに、同じく未熟であっても、わたしを目当てに志願した下心を持つ男たちは、わたしにいいところを見せるため死に物狂いで戦ってくれる。
彼らはとても使える駒だ。
でもこのふたりは違う。
旅の間中、ふたりはいつも、わたしとわたしの取り巻きたちとは離れたところにいた。馴染む気すらないようだった。
だから、わたしの小隊には必要のない人材だと、そう考えていた。
小隊は漁村集落であるセビアへと向けて移動する。
けれども、わたしたちが丸二日をかけてようやくセビアに到着したときには、すべてが終わっていた。
要するに、略奪は完遂されてしまっていたのだ。虐殺という変えようのない事実を付随させて。
そう。
わたしたちは間に合わなかった。任務は最初から失敗だった。
小隊が守るべきものはもう、ここには残ってなどいなかったのだ。
あるのはただ、地面に染み込んだおびただしい量の血と、食い散らかされた人骨と、壊れた生活雑貨。崩れた家屋に、乱れた足跡ばかり。
異臭だけが漂う。音のない集落。
戦場。様々な経験を積んできたわたしが、唯一まだ未踏だった領域。セビアはまるで戦場跡のようだった。
あまりに凄惨な現場に足が震えた。騎士団に入ったことを悔いるほどに。惨劇を目にしたことで現実を知った。愕然とするしかなかった。
異臭に誰かが吐いた。その場で足を震わせ崩れる者もいた。誰一人救えなかった。任務は失敗。それが結論だ。
そして、そのことがわたしたちを弱くした。
小隊の後方を、潜んでいたオーグルたちが急襲したのだ。
鎧の上から掌でつかみ、そのまま鋼鉄のガントレットごと握力だけで握りつぶす。肉と鉄がひとつになって破裂し、赤い悲鳴が上がった。
まるで玩具のように、その従騎士は投げ捨てられた。
十数体のオーグルが、セビアにはまだ潜んでいたのだ。
迎え撃った。わたしはメイスを抜いて精霊の力を借り、オーグルの頭部を撲った。鈍い骨と肉の爆ぜる音が響く。けれども、倒れない。想定を凌駕する強靱な肉体。
刃でなければダメだ。そう悟った。
未熟だった。魔獣に対する知識が足りていなかった。
誰かに剣を求めたけれど、わたしの従騎士小隊は恐慌状態となって、散り散りになっていた。
悲鳴を上げ、出鱈目に剣を振りながら敵に背を向け逃げている。
腰を抜かし、近づくオーグルに震えながら切っ先だけを向けている。
崩れた建物の瓦礫に身を潜め、頭を抱えて震えている。
立て直すべく、わたしは声を上げる。けれどもはや、誰も聞いてはいなかった。
いや、オーグルだけが聞いていた。だからわたしに襲いかかってきた。
オーグルの毛むくじゃらの拳をメイスで受け止め切れず、わたしは自ら後方に跳ねて力を逃す。吹っ飛ばされながら確認した周囲は、もうめちゃくちゃだった。
惨劇と急襲、虚を突くそのふたつの要素が、訓練を重ねてきたわたしたちの精神を弱くした。それまで積み重ねてきた経験だって、確実に勝てるものばかりだったことに気づかされた。
次々と従騎士たちが倒れていく。けれどもオーグルは倒れて呻く従騎士には目もくれず、あえて逃げようとする者の背中を追った。
つかみ、叩きつけ、鎧ごと砕く。
ひとりたりとも逃がさない。そういう悪意が伝わってくる。捕食者と被食者。小隊はますます恐慌状態に陥っていく。
もはや剣を捨て、泣き叫びながら逃げ出す者までいた。
ひとりが腕を噛まれ、引き千切られた。他の従騎士らは彼を見捨てて逃げた。救おうとする者などいなかった。
わたしは走り、メイスにありったけの力を込めてそのオーグルを撲った。腕を喰われた騎士は地面に投げ出された。
今度は確かな手応え。
なのに、頭部を頭蓋ごと不気味にへこませ血を流しながらも、オーグルは振り返る。
ああ、だめだ。やはり打撃武器では。
誰ももう、わたしなど見てもいない。ともに戦うどころか、助けようなどと考える余裕さえない。ならばせめて、ひとりでも多く。
わたしがこの場から逃がさなければ。
オーグルの怒りの咆吼。全身に痺れが走るような轟音に、恐怖で硬直した。
振り抜かれた豪腕をメイスで防ぎ、また吹っ飛ばされる。背中から地面を転がり、前後左右どころか上下すらわからないくらいに。
気づけば民家の塀に打ち付けられ、息が詰まり、動けなくなっていた。ぼんやりと歪んだ視界で、オーグルの一方的な戦闘を眺める。
戦闘ではない。これから始まるのは虐殺だ。わたしの小隊が壊されていく。ようやくつかんだわたしの居場所が壊されていく。
ぼんやりとした視界の中を、オーグルが迫ってくる。
立たなければ死ぬ……。
塀で背中を擦り上げるようにして立ち上がる。膝が震えた。
豪腕が振り下ろされた瞬間、わたしは転がって避けた。とにかく無我夢中で距離を取った。ひとつの邪念が生まれる。
このまま隊を見捨てて逃げてしまえばいい。彼らはそうしようとしたのだから。精霊の力を使えば振り切ることくらいはできる。
わたしだけなら助かる……。
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