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剣聖ヴァルカンの幸せな日々 ~愛娘からの尊敬を守るため、父は限界突破します~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第三章

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無事に帰還




 だがようやく仕留めた魔猿には目もくれず、ヴァルカンは娘の方へと転がるように駆け寄っていた。そうしてぺたりとその場に座り込んだリウの両腕を両手で挟み込んでつかみ、顔を近づける。


「リ、リウ、怪我は!? 痛くないか!? ああ、こんなに傷だらけになって!」

「だ、大丈夫だよ。ただの擦り傷だから。逃げてるときにいっぱい転んだだけ。でも、ちょっと、お父さんがいま、痛くしてる、かな?」

「あ!」


 ヴァルカンが慌てて両手を放した。


「す、すまん。い、痛かったな」

「あはは。お父さんったら、大げさだよぉ」


 服はボロボロだし、顔も腕も足も腹も、傷だらけだ。

 耐えていたのだ。彼女が世界一強いと思い込んでしまっている父が戻ってくるまで。ひたすら耐えてさえいれば、どうにかしてくれると、愚かにも信じ切って。

 魔猿を倒せたことなど、ただの偶然だったというのに。それもリウの助けがあってこそのだ。


「それよりルーネスさんは?」

「無事に騎士団に引き渡せた。おまえのおかげだ」


 ヴァルカンがうつむいた。

 だめだ、このままでは。俺はもっと、もっと、強くならなければ。この子を守れるくらいに。


「すまない。俺は本当に不甲斐ない父親だ……。おまえにこのような怪我をさせてしまうとは……」

「そんなことない! すごかったよ、お父さん! わたしじゃ全然だめだった! やっぱりお父さんはヴァシスで最強の――……お父さん?」


 顔を上げたヴァルカンの表情を見て、リウがぎょっとした顔を見せた。

 ヴァルカンは情けなくもボロボロと涙を流していた。いや、涙だけではない。顔中の穴という穴から、ヴァルカン汁が溢れ出している。


「う、うわあ……」


 娘はドン引きしていた。

 それでもリウは恐る恐る手を伸ばし、ヴァルカンの頭を撫でる。


「ええっと、大丈夫。大丈夫。お父さんのおかげでわたしもルーネスさんも助かったよ。すっごく頑張ったと思う。うん。頑張ったよ。偉かったよ」


 そんなに優しい言葉をかけられたら。


「う……。お、おお、おおぉぉぉん! おおおまえが無事でよがっだあ!」

「うわあ……。大の大人が泣いちゃった。どうしよ、収拾がつかないかも。ええっと、ええっと」


 少し考えるそぶりを見せたあと、リウは苦笑いで両腕を広げる。


「はい、どうぞ。でも傷が痛いから優しくね」


 きゅん……。

 愛しさがこみ上げてきて、ヴァルカンはリウをぎゅっと抱きしめる。

 ヴァルカンの鼻の下がびろんびろんに伸びたことに、抱きしめられるリウは気づかない。

 そのとき――。


「あれ? 火だ」

「おおぉぉん……あぁ……? 火(ふぃ)?」


 リウがヴァルカンの胸を両手で押して引き剥がした。


「お父さん、火が近づいてきてる。ほら、あそこ。揺れてる。誰かがこっちに向かってきてるよ」

「ん……んぁ!? まずい、騎士団か!」


 おそらくファーガスだ。騎士たちを引き連れて魔猿の退治、あるいはアルカンの捜索に乗り出したか。

 ああ、クソ、せっかく親子水入らずのところを。

 だが、ここに来ていることをファーガスに見つかるのはまずい。叱られてしまう。


「すまん、リウ。この場は引く。ちょっと色々と理由があってな、ここでファーガスに見つかるわけにはかんのだ。おまえも、俺のことは言うんじゃないぞ」

「あはっ、一緒一緒。わたしもこんなことしてたのが教官たちにバレたらさすがに叱られちゃう」


 ……いやまったく。

 ほんとだよ……。


 しかし今回に限ってはお互い様か。

 どうやら口止めは不要のようだ。本来ならこんな危険な真似をした娘をしっかりと叱りつけておきたいところではあったのだが。


 そんなことを考えて、同時に立ち上がった。

 だがその最中、ヴァルカンの腰が止まった。視線を森の奥へと向ける。

 吸い込まれそうなほどの暗闇だ。


 なんだ……?


 瞳孔が開く。だが何も見えない。

 動くものはない。音もない。気配もだ。

 魔猿を殺したことで森の小動物が姿を見せ始めたのだろうか。


「お父さん? 腰が痛いの? もう歳なんだから無理しちゃだめだよ?」

「つい最近まで毎日対戦を挑んできてた娘の言うことかい?」

「うふぅ……」

「冗談だ。まだまだ大丈夫だぞ」


 両腕を高く突き上げて身体を伸ばす。


「そっか。よかった。ところでお父さんって、ここまで馬できてるよね?」

「当然だ。王都トルキア間の馬車便は騎士団が止めているだろうからな。馬なら森の入り口あたりで草でも食ってるだろう」

「やったね! ねえねえ、初等部が泊まってる宿場町まで、乗・せ・て?」


 上目遣いがずいぶんとうまくなった。

 目尻が垂れてしまう。


「もちろんいいぞ。しっかり私につかまっているのだぞぉ。むふ」

「わーいっ。目つきがなんかイヤらしいけど、やったねっ」

「わっはっは、お父さんだって傷つくんだぞぉ~」


 そうして討伐と捜索に乗り出した騎士団を迂回しながら森から脱出し、馬を拾ってそっとトルキア村から離れた。

 その後は宿場町レオニールでリウを下ろしてしばしの別れを告げ、ヴァルカンは翌朝、王都を素通りして自身の領地であるオルガドへと無事に帰還したのだった。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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