↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣聖ヴァルカンの幸せな日々 ~愛娘からの尊敬を守るため、父は限界突破します~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/50

誤解なんです




 様々なところから視線を感じる。

 それはそうだ。普段着にしている丈長のチュニックに革ベルトは、ヴァシス王国では貴族の服装だ。そこに上級貴族が舞踏会で装着するような目元を覆う仮面をつけ、安い剣を腰に差して王都の人混みを闊歩しているのだから。


 ヴァルカンが歩けば人々は道を譲る。

 道行く母親は我が子を隠すように手を引いて、慌てて立ち去っていく。

 誰も彼がこの国の英雄であると気づかない。

 みな脳裏に浮かぶは、ヴァレッツ工房の店主が疑った通り「強盗」あるいは「変態貴族」だ。


 この出で立ちのまま王都を闊歩するのには理由があった。

 正体を隠している以上、レヴニーの討伐に加わるにはそれなりの理由が必要となる。〝剣聖〟の姿であれば強引にそこに交ざることは難しくはないが、そいうわけにもいかないのが現状だ。


 ならば民間の協力者として討伐隊に加わる他ない。だがそれは簡単な話ではない。騎士団は戦争でもない限り、基本的に民間と共闘することはないからだ。

 騎士、すなわち貴族は民のためにある。貴族の義務《ノブレス・オブリージュ》だ。税として一定数を民から納められる立場にいる以上、彼らのため命を張る義務がある。


 だが今回の場合、発端が狩人(ハンターズ)ギルドからの要請だ。当然、ギルドとしても騎士団に投げっぱなしというわけにもいかず、いくらかは帯同しているはず。

 そこに交じるためには、まずは自身もまた狩人(ハンターズ)ギルドに加入する必要が出てくる。


 そう。ヴァルカンは狩人(ハンターズ)ギルドへと向かっていた。

 そうして堂々と、且つバレないようにレヴニーどもを仕留めていけばいい。うまくいけばそれ自体が修行にもなる。

 魔獣というものは基本的に人間よりも強靱な肉体を持つものだ。加えて命のかかる実戦ともなれば、良き訓練になるだろう。


 王都北東地区――。

 小さな区画ではあるが、ここらへんはギルドと呼ばれる民間団体の建物が並んでいる。狩人(ハンターズ)ギルドや開拓者(フロンティア)ギルドはもちろんのこと、商人や農業、貿易など、様々な職種が存在している。


 そのうちの一軒。

 ひときわ大きな木造の建物の前に立ち、ヴァルカンは看板を見上げた。


「ここが狩人(ハンターズ)ギルドか。すんなり加入させてもらえるとよいのだが」


 もどかしい。ヴァルカン・アンダーウッドのままの姿であれば、引く手数多であろうに。

 そんなことを考えながらスイングドアを押す。キィと蝶番が軋む音がした。


 一歩、踏み入れて。

 見回す。丸テーブルがいくつかあって、そこに荒くれ者たちが酒場のように食事を取っている。立てられた可動式のボードには依頼書らしき紙がいくつも貼られており、多くの狩人たちはそれを真剣に見ている。

 ほとんどが男性だが、わずかに女性の狩人もいるようだ。


「……」


 へえ、こんなふうになってたんだ。

 騎士団とはずいぶん雰囲気が違う。テーブルで食事中の男らは談笑しているし、立て掛けられた武器も様々だ。

 剣や槍、弓に弩はもちろん、規格外の大斧(バトルアックス)や槍のように長い持ち手のついた斧槍(ハルバード)なんかもある。エイメリアが見たら「振ってみたい」などと言い出しそうな棘鉄球(モーニングスター)は、殺傷力が高そうだ。

 戦時中は色々相手にしてきたけれど、ゆっくりと眺められる空間でここまで揃うと壮観だ。


 奥の方にはカウンターがあり、眼鏡をかけた若い女性が座っていた。

 その女性と目線が合う。


「あら、いらっしゃいませ。ご依頼でしょ……う……か……?」


 笑顔で話し始めた女性が徐々に表情を変え、途中で固まった。

 当然だ。帯剣し、不自然に顔を隠した男が、無言で踏み込んできたのだから。

 一瞬で敵意のこもった表情になり、女性が顎を上げて冷徹につぶやく。


「それとも、強盗でしょうか?」

「あ、いや、違う。俺は――」


 受付嬢がどかりとカウンターに片足を乗せて、口角を耳まで裂くほどに上げながら凄惨な笑みを浮かべた。

 そうしてヴァルカンの言葉を遮って。


「ここがどこだかわかっていない身の程知らずの悪党って、たま~にいるんですよ。挨拶を交わす際には仮面は取り忘れない方がいいわよ。初対面では特にね」


 彼女が余裕のある声でそうつぶやいた瞬間、テーブルに座っていた荒くれ者たちが立ち上がり、自身の武器に手を伸ばす。

 壁の張り紙を見ていた剣士も、魔女(ウィッチ)らしき女も。よく見れば受付嬢の腰にも、二振りの短刀が装着されている。

 先ほどまで上機嫌に談笑していた男らが、一斉にヴァルカンを睨んだ。


「おい、兄さんよ。おまえが礼儀を弁えた一般人ってなら、仮面は取るべきだぜ」

「すまない。これは訳あって取れないんだ」

「だろうなあ?」


 大斧の大男が片腕で刃を振るう。轟と虚空を先ながら迫った巨大な刃は、しかしヴァルカンの首筋に届く寸前でピタリと止められた。皮膚一枚、裂いてはいない。

 大した豪腕だと、素直に感心する。

 大男がもう一度口を開いた。


「なんなら顔面ごと削ぎ落としてやったっていいんだぜ。これが最後の忠告だ。さっさと仮面を取れ。狩人(ハンターズ)ギルドは怪しげなやつからの依頼は請けねえ」


 避けられなかったわけではない。

 殺気がなかった。脅しだ。だからあえて避けなかった。そもそも、ファーガスの鋭い剣に比べれば重量がでかい分、いくら豪腕だとしてもずいぶん遅い。こんなものは対人用の武器ではない。狩人なのだから仕方がないけれど。

 ヴァルカンは巨大な刃を手で押しのけながら、意図して笑顔を浮かべる。


「礼を欠いたのは謝るよ。だが、すまんが素顔を見られるわけにはいかんのだ」

「そうかい」


 ククと大男が笑う。


「なら牢屋かあの世で後悔しな」


 大斧が両腕で背後まで引かれ、勢いよく放たれた。すさまじい暴風を纏いながら、刃を寝かせた大斧の断面がヴァルカンの上半身へと薙ぎ払われる。

 誰もがヴァルカンが吹っ飛ばされて壁に叩きつけられると思った。本人だけを除いて。

 ヴァルカンは地を這うほどに身を低くしてそれをかいくぐり、距離を詰めた。


「それは少し困るな」


 視線が交叉する。

 困ったようなヴァルカンの視線と、驚愕に目を見開いた大男の視線が。


「ハッ、言ってろッ!」


 その背後から鞘に入ったままの剣が振り下ろされる――が、視線すら向けずにヴァルカンは自身の剣で払い除け、走り出した。

 死角からの一撃で終わらせるつもりだった剣士もまた、大斧の大男同様に驚愕した。目を見開いて戸惑ったのだ。

 この二者のみが瞬時に悟る。


 ――この男はただ者ではない、と。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
変態貴族が キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! www
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。