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剣聖ヴァルカンの幸せな日々 ~愛娘からの尊敬を守るため、父は限界突破します~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第二章

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甘え下手な英雄




 店主がヴァルカンを見下ろしてつぶやく。


「あんたの顔……どっかで……。……まさかな……」

「あ~、えっと」


 頭を掻きながら答えあぐねていると、店主が目を見開いた。


「おい、おい、おい、嘘だろ……。あんた、あのアンダーウッド子爵か!? お、俺、傭兵として参戦してたから終戦の日にあんたの凱旋を見たんだ! 間違いねえ!」


 バレた。やはり生業が剣に関係している者の前では、すぐにバレてしまう。あの生還時の姿を見られていたのなら、他人のそら似で返すのは不可能だ。

 髪でも伸ばすべきか。いや、髭さえ立派に伸びてくれれば、このようなことはなくなるというのに。うっすい顎髭が憎らしい。かつて頭髪なき英雄は頭皮にエリクサーを塗ることで髪を生やしたという謎の伝承が残っているが、己も顎にそれを使うべきか。まあ、そんな万能薬は実際には存在しないだろうけれど。

 ヴァルカンは唇の前に指を立て、他の客からは見えないように手で顔を隠した。


「しーっ、頼むから静かにしてくれぇ……」


 察してくれたのだろう。

 店主がコクコクと何度もうなずく。


「わ、わかった」


 そうして声を落とし、ヴァルカンの耳元で囁いた。


「だが、待ってくれ。うちは庶民のための武具屋で、主な客層は狩人(ハンターズ)ギルドや開拓者(フロンティア)ギルド、それに大工用のノコギリや家庭用包丁の主婦なんかが客層だぜ。あんたみたいな〝剣聖〟様に売れるような逸品は取り扱っちゃいねえよ。悪いこた言わねえ、騎士団と正式に提携してる大手の武具屋に行った方がいい」


 自分の店なのに、さらには悪党のような見た目なのに、ずいぶんと正直な店主だ。黙って金儲けに走ればいいものを、などと考えてしまう。


「いや、色々事情があってだなあ。それでは足がついてだめなのだ」


 要するに、騎士団に売買履歴を知られてしまっては意味がないのだ。ファーガスに叱られてしまう。そうすれば教えを乞うことすらできなくなる。

 なんとも情けない〝剣聖〟である。


「ん? ……足がついて……?」

「頼む、ヘルムを売ってくれ。顔さえ隠れればいいんだ。いや、上半分まで隠せるだけでもいい。あと、なるべく安くて見窄らしく見える剣も欲しい。貴族っぽい装飾など以ての外だ」


 店主が困惑する。

 この英雄お貴族様は何を仰っておられるのか、と。


「い、一応だが、バイザーつきのハーフならある」

「いいね! 錆びてたらなおいい!」

「だがあんなもんは下級兵士や金のねえ傭兵用だ。立派な騎士、それも最高峰の〝剣聖〟にゃ似合わねえよぅ?」

「だからその方が都合がいいんだって。とにかく顔を隠したいんだ」


 訝しげな目で店主が問うた。

 そうして言いそうに何度か言葉を呑み、顔を背けて横目で囁く。


「………………ご、強盗でも、されるご予定が……? さっきも……足がつくとかなんとか……」


 強盗!? 俺が!?


「そのようなことをするか! 幸いにも金には困っとらんわ! ……耳を貸してくれ」

「え?」


 強面の耳に口を近づけて、ヴァルカンは囁く。


「……身分を隠して騎士団の任務を裏から手伝うだけだ……」

「なんでまた? んなもん堂々とやりゃあいいじゃねえですか」

「……団にはメンツがあるんだよ……っ」

「あ、あー。なるほど。そうですかい。そりゃあ確かに面倒くせえや」


 耳から離れて、半笑いで口を開く。

 意地悪く、唇をねじ曲げて。


「店主。この件を他言すれば、あなたは団から目をつけられる……かも」

「んぇ!? う、うち、うちは、その、さ、探られて困ることなんざねえですし! お、納めるもんも、パキっと納めてまさァ!」


 目が泳いだ。厳つい顔面で天井を見上げて、店主はため息をつく。

 表情がくるくる変わる忙しい男だ。


「わかった。わかりやしたよ。じゃあもう好きに選んでくれ。そこの壁にいくつか並んでるだろ。それと剣だが、装飾じゃあねえですが、うちの店の宣伝用にロゴ入りで打ったもんなら安くしとくよ。ああ、斬れ味だけは保証するぜ。宣伝用がなまくらじゃアレだからな。その代わりあんた、店の宣伝をしてくれよな」

「ぬ……。わかった。それでいい。助かるよ」


 今度はニィと笑う。

 そうしてカウンターの内側に掛けてあったロゴ入りのロングソードをヴァルカンに手渡した。ヴァレッツ工房。そう掘られている。

 店主の姓がヴァレッツなのだろうか。


「ほらよ。ハーフヘルムの値段は一律だから、しめて二千ヴァルシスいただきますぜ」


 懐に入ったヴァルカンの手が、ぴたりと止まる。

 そうしてすがるような目で店主を見上げた。


「や、嘘だろ!? さっき金はあるっつってたでしょうが! こっちはこれでもあんただからこそ勉強してんだぜ!?」

「店主ぅ……」

「き、気色の悪ィ上目遣いはやめてくだせえや! 見ちゃいられませんぜ!」


 だがヴァルカンは引かない。なにせいますぐに必要で、いますぐは手持ちがない。

 思い出せ。リウが何かを欲するとき、自身に見せるあの姿、あの潤んだ瞳を。あれならば、どのような堅物でもイチコロだ。


「ほら、端数も切ったし、さすがに〝剣聖〟様が相手でもこれ以下はまかりませんぜ!」

「……そこをなんとか、お願ぁ~い……」

「マジですかい、この英雄……」


 ヘルムはとてもオシャレな舞踏用の仮面になった。


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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