第9話 ダンジョンに行きます
王立図書館で見つけた『異界渡航記』——そこには俺の名前だけでなく、レモンとモモの名前まで記されていた。しかも、この本には俺のスマホによく似た物が『異界の神器』として描かれている。一体誰が何のためにこの本を書いたのだろうか。
「とりあえず続きを読んでみよう」
俺が本を覗き込むと、モモがページをめくった。次のページには、異世界からやって来た者について詳しく書かれている。
『異界より来たりし者は、この世界の理から外れた力を持つ』
「この世界の理から外れた力……」
俺はスマホを見る。俺の場合はこのスマホのことだろうか。
「タローさんのこと……でしょうか」
「他にも何か書いてあるみたいだ」
俺はページの下に書かれている文章を指差した。
『異界の神器を持つ者と、その器となる者が現れるとき、世界の境界は揺らぐ』
「器?」
グレイプが首を傾げる。
「何かの入れ物ってこと?」
「多分」
モモが別のページを開いた。
「こっちにも何か書いてあるわ」
そこには、この世界の地図らしきものが描かれていた。王都を中心に、いくつもの国や地域が記されている。その中でも特に気になる場所が1つあった。
「ここは?」
「禁域よ」
グレイプが答えた。
「禁域?」
「ええ。誰も近づいてはいけない場所。昔からそう言われているわ」
「何があるんだ?」
「知らない。詳しいことは教えられていないもの」
俺は本の地図を見る。すると、スマホが震えた。
『新しい目的地を検出しました』
『???』
『推奨探索難易度:測定不能』
目的地として表示された場所は、今見ている地図の禁域と一致していた。
「スマホがこの場所へ行けって言ってる」
「禁域に?」
グレイプが驚く。
「危険すぎるわよ」
「でもこの本とスマホが関係しているなら、何か手掛かりがあるかもしれない」
「私は行ってもいいわ」
モモが言った。
「ちょっと、あなた本気?」
「ええ」
モモは本を閉じた。
「タローが元の世界へ帰る方法を探しているなら、調べる価値はあるでしょう?」
「モモさん……」
レモンも頷いた。
「私も行きます」
「レモンまで?」
「仲間ですから」
レモンは笑顔を見せる。グレイプは腕を組んでしばらく考えた後、ため息をついた。
「……わかったわ。私も行く」
「いいのか?」
「ここまで来たら最後まで付き合うわよ。それに禁域に行けなんて言われたら逆に気になるじゃない」
俺たちは禁域へ向かうことになった。しかし図書館を出ようとしたところで、1人の老人に声をかけられた。
「お待ちなさい」
「はい、何か?」
振り返ると白い髭を生やした老人が立っていた。レモンによると図書館の司書らしい。
「その本はどこで見つけたのじゃ?」
「そこの本棚にありました」
俺が答えると、老人は驚いたように目を見開いた。
「ほう……あの本棚から?」
「はい」
「おかしい」
老人は小さく呟いた。
「あの本は誰にも読めないはずじゃが」
「えっ」
「最後に読めた者がいたのはもう50年以上も前のことじゃ」
俺たちは顔を見合わせた。
「じゃあなぜ俺たちは読めるんですか?」
「わしに聞かれてものう」
老人は俺を見る。
「ただ……」
老人の視線が俺のスマホへ向けられた。
「その道具を持っているからじゃろうな」
「これを……スマホを知ってるんですか?」
「いいや、知らん」
老人は首を横に振る。
「古い記録に残されておった。この目で直接見たことはない」
「記録……ですか」
老人は少し黙った後、口を開いた。
「空から光が落ち、その光の中から異界の神器が現れた、と」
俺はスマホを握る。俺がこの世界へ来たときも何か光に包まれたのだろうか。
「その記録はどこにあったんですか?」
「数年前まではその記録もこの図書館にあったのじゃが……今は行方知れずじゃ。もう誰も見ておらん」
老人はそれ以上何も言わなかった。俺たちは図書館を出る。
「何だか凄いことになってきたわね……」
グレイプが呟く。
「そうだな」
「でもこれで目的は決まったわね」
モモが前を向く。
「禁域へ行って、異界の神器を探す」
「……それしかないか」
その瞬間、スマホが震えた。
『メインクエストが更新されました』
『異界の神器を探せ』
『目的地:禁域』
『推奨パーティ人数:4』
『注意:パーティメンバーの一部に解析不能な存在を確認』
俺は画面を見つめる。パーティメンバーの一部。つまりレモンとモモのことだ。俺は2人を見る。レモンはいつもの笑顔。モモも何事もなかったように歩いている。だが2人の秘密は少しずつ明らかになり始めている。そして、その秘密は俺のスマホや、この世界の謎とも繋がっているのかもしれない。俺たちは禁域へ向かって歩みを進めた。そこに何が待っているのか。俺にはまだわからない。ただ、スマホの画面に表示された最後の文字だけが妙に気になっていた。
『禁域到達時、新機能を解放します』
「……新機能って何だよ」
俺の呟きに、スマホは答えてくれなかった。
「ちょっと待って」
グレイプが立ち止まった。
「いきなり禁域に行くの?」
確かに。
「私たちパーティを組んでからまだ一度も任務をこなしてないわ。戦闘だってタローが盗賊と当たり屋をスマホで倒したくらいの経験しかないわ」
スマホで倒す——改めて言葉にすると変だな。実際変だけど。
「つまり経験が足りないってことね」
モモが呟く。
「まずはダンジョンで経験を積む……とか?」
「それがいいと思います」
レモンも同意する。
「そもそも前にダンジョン行こうって私言ったし」
グレイプが頬を膨らませた。
とりあえずダンジョンへ行こう。スマホに頼れば何とかなるさ。




