第8話 図書館に来ました
王立図書館へ向かって歩いていると、スマホのマップに表示された目的地が少しずつ近づいてくる。王都というだけあって、街並みはかなり豪華だ。石造りの建物が立ち並び、通りには様々な種族らしき人々の姿も見える。耳の長い人、獣のような耳を持つ人、頭に角が生えている人までいる。地球ではまず見られない光景だ。
「本当に色々な人がいるわね」
グレイプが周囲を見回す。
「そうだな。俺のいた世界では見られない光景だ」
レモンが俺を見る。
「タローさんの世界には魔法がないんですよね?」
「ああ」
「それなら、魔族や魔物もいないんですか?」
「そうだよ」
「へえ……」
レモンは興味深そうに周囲を眺める。
「それなら、タローさんの世界も見てみたいですね」
「俺も見せてあげたいよ」
隣を歩いていたモモが口を開いた。
「帰れるといいわね」
「そうだな」
やがて、大きな建物が見えてきた。白い石で造られた立派な建物で、正面には巨大な扉がある。
「ここが王立図書館?」
「そのようですね」
俺はスマホのマップを確認する。目的地は間違いなくここだ。
「入ってみよう」
俺たちは扉を開け、王立図書館へ入った。中は想像以上に広かった。壁一面に本棚が並び、見渡す限りの本。天井近くまで本棚が続いている。
「凄え……」
「これだけの本があれば何か見つかるかもしれないわね」
グレイプも目を輝かせている。
「まずは異世界に関する本を探しましょうか」
レモンが言う。
「そうだな。そうしようか」
スマホを見ると、王立図書館の本が検索できるようになっていた。検索欄に『異世界』と入力してみる。すると――。
『検索結果:0件』
「……」
「どうしたの?」
モモが画面を覗き込む。
「異世界について検索したんだけど、何も出てこない」
「この図書館にないってこと?」
「どうだろうなぁ」
俺は少し考え、検索ワードを変えた。
『転移』
検索結果――0件。
『召喚』
検索結果――大量。
「召喚はあるのか」
「召喚なら私も知ってるわ」
グレイプが言う。
「魔法陣を使って魔物を呼び出したり契約した精霊を呼び出したりする魔法よ」
「人間を召喚することは?」
「人間?」
グレイプが首を傾げる。
「そんな話聞いたことないわね」
俺は黙り込んだ。俺は召喚されたのではなく、転移したのだろうか。それとも、誰かに召喚されたのか。考えているとスマホが震えた。
『関連情報を検出しました』
『検索条件を変更します』
『異界』
画面に新しい検索結果が表示される。その数は――1件。
「1件だけ?」
俺は検索結果をタップする。
『異界から来た者について』
「……!」
俺が探していた情報かもしれない。
「何が書いてあるの?」
レモンが身を乗り出す。
「ちょっと待って」
俺は画面をスクロールする。しかし、文章を読もうとした瞬間――。
『アクセスが拒否されました』
「……ん?」
画面が真っ暗になった。
「どうしたの?」
グレイプが覗き込む。
「読めない」
「どうして?」
「アクセスが拒否されたって」
「このスマホが?」
「そう」
意味が分からない。さっきまで普通に情報を検索できていたのに、どうしてこの本だけ読めないんだ。すると、モモが本棚の方を見た。
「……あれじゃない?」
「え?」
モモが指差した先には、他の本とは少し違う装丁の本が置かれていた。俺たちは本棚へ近づく。そこにあったのは、黒い表紙の古びた本だった。タイトルは――『異界渡航記』。
「これだ!」
俺が本を取ろうとした瞬間、スマホが激しく震えた。
『警告』
『対象の書物は危険です』
『閲覧を推奨しません』
「危険?」
俺は手を止める。
「何か問題でもあるの?」
グレイプが尋ねる。
「この本、危険らしい」
「本が?」
するとモモが本に手を伸ばした。
「ちょっと!」
俺が止めるより先に、モモが本を手に取った。何も起きない。
「……大丈夫みたいね」
モモが本を開く。その瞬間――。
『対象を認証しました』
スマホに文字が表示された。
『閲覧権限を付与します』
「……え?」
さっきまで拒否されていた本の情報が表示される。
【書物名:異界渡航記】
【著者:不明】
【年代:不明】
【危険度:測定不能】
そして、その下に見たことのない項目が表示された。
【関連人物:タロー】
【関連人物:レモン】
【関連人物:モモ】
「……!」
俺は言葉を失った。なぜだ。どうして、この本に俺たち3人の名前が出てくる? グレイプも画面を覗き込む。
「ちょっと待って。どうして私の名前はないの?」
モモが本のページをめくる。
「これ……」
そこには、見覚えのある光景が描かれていた。黒い空間。その中央に浮かぶ、奇妙な四角い物体。そして、その横にはこう書かれている。
『異界より来たりし者は、異界の神器を携える』
「異界の神器……」
俺は自分のスマホを見る。
「まさか……」
スマホが震えた。
『重要情報を確認しました』
『メインクエストが更新されました』
『異世界の謎を解明せよ』
『新たな達成条件:異界の神器の正体を解明する』
俺はスマホを握り締めた。どうやら俺が持っているこのスマホは、ただ便利な道具というだけではないらしい。そして――この世界には、俺が来ることを知っていた誰かがいる。そんな気がしてならなかった。




