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異世界に転移したのでスマホで無双します〜このスマホはチートです〜  作者: 青上黒影
第一章

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第5話 剣士かもしれません

 やがて、遠くから足音が聞こえてきた。


 ——カツン。カツン。

 石畳を踏みしめる音が、少しずつ近づいてくる。


 俺たちは路地の向こうを見つめた。やがて、一人の少女が姿を現した。長いピンク髪が風に揺れている。腰には一本の剣を携えていた。見た目だけなら、冒険者というより街を歩いている普通の女の子に見える。だが歩き方には妙な落ち着きがあった。少女は俺たちの前で足を止める。


「……あの子が4人目の候補でしょうか?」


 レモンが小声で尋ねる。


「多分」


 俺はスマホの画面を確認する。


『推奨メンバーを検出』


『対象が接近しています』


『警告:この人物には注意してください』


 さっきから表示は変わらない。


「ねえ、タロー」


 グレイプが俺の隣に立つ。


「さっきからスマホを見てるけど、何が表示されているの?」


「……警告が出てる」


「警告?」


「この人には注意しろって」


 グレイプの表情が険しくなる。


「なら、警戒した方がいいわね」


「でも、推奨メンバーとも表示されてるんだ」


「どういうこと?」


「俺にもわからない」


 本当にわからない。仲間にしろと言っているのか、近づくなと言っているのか。スマホ自身が矛盾したことを言っているように思える。少女はそんな俺たちの様子を不思議そうに眺めていた。そして、俺の手元に視線を向ける。


「それ、何? その板みたいな物」


「これのことか?」


 俺はスマホを少し持ち上げる。


「スマホっていうんだけど」


「スマホ?」


 少女は聞き慣れない言葉を繰り返した。


「スマートフォンの略」


「ふぅん、変な名前」


 この世界の人間からすれば、スマートフォンという名前も珍しいだろう。少女は少しの間スマホを見つめていたが、やがて顔を上げた。


「面白い物を持ってるのね」


「そうかな……そうかも」


 面白いか面白くないかで言えば面白いと思う。異世界の住人からすれば物珍しさもあるので余計に面白いと感じるだろう。


 そのとき、スマホが震えた。


 ——ブブッ。


 画面を見る。


【対象の情報を取得します】


 自動的にカメラが起動した。画面には目の前の少女が映っている。その上にポップアップが表示された。


【名前:???】

【職業:剣士】

【魔力:D】

【剣術:A】

【状態:???】


「……」


 やっぱりだ。名前が分からない。それだけではない。状態も「???」になっている。俺はレモンを見る。レモンも同じだった。職業すら分からないレモン。そして名前と状態だけが分からない目の前の少女。偶然とは思えない。


「どうかしました?」


 レモンが首を傾げる。


「いや……何でもない」


 俺は慌ててスマホの画面を閉じた。しかし、その動きを少女は見逃さなかった。


「今、あたしのこと見てたでしょ」


「え?」


「そのスマホ? ってので」


「……」


 どう答えるべきだ。勝手にステータスを見ていたなんて言いにくい。迷っているとグレイプが口を挟んだ。


「あなた冒険者なの?」


「そうよ」


「剣士?」


「ええ」


 少女は腰の剣に手を添える。


「一応剣士をやってるわ」


 その瞬間、グレイプが少しだけ目を細めた。


「一応?」


「剣を振るのは好きだけど、冒険者として活動し始めたばかりなの」


「なるほど」


 グレイプが頷く。


「それならちょうどいいかもしれないわね」


「何が?」


「私たち、4人目の仲間を探しているの」


「あら」


 少女が目を丸くした。


「そうなの?」


「前衛を任せられる剣士を探してたんだ」


「だったらあたしが入れば万事解決ね」


「……随分あっさりだな」


「嫌なの?」


「いや、そういうわけじゃないけど」


 むしろ願ってもない話だ。ただ、スマホは警告している。それが気になる。


「あの、タローさん」


 レモンが俺の袖を引っ張る。


「この方ならきっと大丈夫ですよ」


「何で?」


「なんとなくですが……悪い人には見えないので」


「なんとなくか」


「はい」


 レモンは笑顔で頷く。その直感をどこまで信用していいのかは分からない。少なくともレモンは少女を警戒していないようだった。少女はそんなレモンを見て少し驚いたような顔をする。


「あなた……」


「えっと……私がどうかしましたか?」


「……何でもないわ」


 少女は視線を逸らした。その瞬間、俺のスマホがまた震えた。


『パーティ加入候補を確認しました』


『加入条件を満たしています』


『パーティに加入させますか?』


 画面には二つの選択肢が表示されている。


『はい』


『いいえ』


「……」


 ここまで来たら、答えは決まっている。俺は『はい』をタップした。


 ——ピコン。


『パーティ加入を確認しました』


【メンバー数:4】

【タロー】

【レモン】

【グレイプ】

【???】


 少女の名前だけが表示されない。


「……やっぱり名前はわからないのか」


 俺はスマホをポケットにしまい、少女に向き直った。


「名前を聞いてもいいか?」


「名前?」


「流石に仲間の名前が分からないのは困るなぁ……と」


「あー……確かにそうね」


 少女は少し考えるように黙った。そして、笑顔を浮かべる。


「あたしは――」


 少女が口を開きかけた、そのときだった。スマホが激しく震えた。


 ブブブブブッ!


「うわっ!」


 画面を見る。さっきまで何もなかった場所に、新しい表示が出ていた。


『警告』


『パーティメンバーに異常を検知しました』


【レモン:解析不能】

【???:解析不能】

【グレイプ:正常】


 俺は画面を凝視する。


「……二人?」


 解析不能なのは、レモンと目の前の少女。俺自身については何も表示されていない。つまり、このスマホは俺を正常とも異常とも判断していない。


「どういうことだよ……」


 レモンは不思議そうに俺を見ている。グレイプは訝しげな顔をしている。そして、目の前の少女だけが――。意味ありげな笑みを浮かべていた。


「どうしたの?」


「……いや」


 俺はスマホを握り締める。このスマホは謎だ。なぜ異世界でも使えるのか。なぜビームを撃てるのか。なぜ勝手にアプリが増えるのか。そして、なぜ俺の知らない人間のことまで調べられるのか。だが最近は別の疑問も増えてきた。この世界そのものがどうにもおかしい。解析できないレモン。名前すら表示されないピンク髪の剣士。スマホを知っていた銀髪の少女。そして、俺が異世界から来たことを知っている何者か。謎が多すぎる。俺はこの世界について知りたい。そしてこのスマホについても。


「……まあいいか」


 俺はため息をついた。


 こうして、俺たちのパーティは4人になった。ただし——4人目の少女の名前はまだ分からないままだった。名無しの権兵衛……じゃなくて名無しの権子ちゃんかな。

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