第4話 メンバーが増えそうです
あの少女を追いかけようとした瞬間、スマホにクエストが表示された。まるで何かに止められたような感覚があった。
「それにしても、あの子は何者なのかしら」
グレイプが腕を組む。
「私にはあの子が突然現れたように見えたわ」
「突然現れた?」
「ええ。最初からそこにいたなら、私が気づかないはずがないもの」
「魔法で姿を隠してたってことか?」
「その可能性はあるわね」
グレイプは路地の奥を睨む。
「でも、あれほど近くにいたのに魔力の気配をほとんど感じなかった。普通の魔法じゃないと思う」
「じゃあどうやって?」
「知らないわよ」
珍しくグレイプが困った顔をした。天才魔術師を自称しているだけあって、何でも知っているのかと思っていたが、そうでもないらしい。むしろ自称だからこそ知らないことの方が多かったりして……これ以上はやめておこう。
「ところで、タローさん」
「ん?」
「先ほどの女の子が言っていたことですが……」
レモンが俺を見る。
「タローさんは、本当にこの世界の人間ではないんですか?」
「……」
俺は少し迷った。レモンとグレイプ。これからも仲間としてやっていくなら、早いうちうちに話してしまった方が後々楽かもしれない。
「……そうだよ」
2人の顔をちらりと見る。レモンは驚いた様子だったが、グレイプはそれほど驚いていない。
「じゃあ、本当に異世界人なのね」
「信じるのか?」
「そのスマホを見れば信じるしかないでしょ」
グレイプはため息をついた。
「それで、どこから来たの?」
「地球っていうところだ」
「チキュー?」
「ああ。魔法はないし、魔物もいない。ここにあるような剣や魔法より、科学や機械が発達している世界だ」
「科学?」
グレイプが興味津々といった様子で近づいてくる。
「どんなものなの?」
「説明すると長くなるぞ」
「聞かせて!」
「そんなに知りたいか?」
魔法もなければ魔物もいない世界だ。自称天才魔術師の彼女にとってはつまらなそうな世界だが。
「当然よ! 私は天才魔術師だもの。知らないことを知りたいと思うのは当然でしょう?」
グレイプは胸を張る。その隣でレモンも楽しそうに微笑んでいる。
「私もタローさんのいた世界のお話、聞いてみたいです」
「まあ、いいけど……」
こうして俺は、二人に地球について簡単に説明することになった。
車。飛行機。テレビ。インターネット。そしてスマートフォン。二人は何を話しても驚いていた。
「空を飛ぶ乗り物ですか!?」
「そう。飛行機っていうんだ」
「すごい……」
「遠くにいる人と話ができるの?」
「電話ならな」
「魔法みたいね」
「俺からすれば魔法の方が凄いけどな」
そんな話をしていると、グレイプが突然立ち止まった。
「待って」
「どうした?」
「今、何か聞こえなかった?」
俺とレモンも耳を澄ます。何も聞こえない。
「……何も聞こえないけど」
「私もです」
「そう……」
グレイプが周囲を見回す。そして杖を構えた。
「でも魔力を感じるわ」
「また?」
「ええ。しかも今度は――」
グレイプが言葉を止める。
「どうした?」
「魔力が三つある」
「三つ?」
「私たち以外に三つ」
嫌な予感がした。俺はスマホを取り出す。マップを開く。さっきの赤い点は消えていた。代わりに、今度は三つの青い点が表示されている。
「……何だこれ」
「また何か見えるの?」
グレイプが覗き込む。
「三つの点がある」
「さっきの赤い点とは違うのね?」
「ああ。今度は青い」
青い点は俺たちを囲むように配置されていた。
「もしかして、敵でしょうか?」
レモンが不安そうに尋ねる。その瞬間。スマホから電子音が鳴った。
『新しい機能が解放されました』
画面に新しいアイコンが表示される。
『パーティ管理』
アイコンをタップすると、俺たち三人の名前が表示された。
【パーティメンバー】
【タロー】
【レモン】
【グレイプ】
そして、その下に空欄が一つ。
【???】
「4人目の枠か?」
俺が呟いた瞬間、空欄の部分が点滅した。
『推奨メンバーを検出しました』
「……は?」
画面に新たな表示が出る。
【推奨メンバー】
【名前:???】
【職業:剣士】
【距離:120m】
「……これって」
「ええ」
グレイプが杖を握り直す。
「4人目の仲間が近くにいるってことじゃない?」
レモンの顔がぱっと明るくなる。
「それなら探しに行きましょう!」
「待て」
俺は画面を見つめた。距離の表示が変わっている。
【距離:110m】
100m、90m、80m。
「……近づいてきてる」
「え?」
レモンが辺りを見回す。やがて、遠くから足音が聞こえてきた。
——カツン、カツン。
石畳を踏みしめる音。徐々に大きくなっていく。そして路地の向こうから、一人の人物が姿を現した。腰には一本の剣。こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。
「……」
俺たちは黙ってその人物を見つめた。スマホの画面に表示されている。
『推奨メンバーを検出』
『対象が接近しています』
どうやら向こうからわざわざやって来てくれるらしい。ただ――。その人物の頭上には、赤い文字が浮かんでいた。
『警告』
『この人物には注意してください』
「……は?」
4人目の仲間候補。しかし、スマホは警告している。一体どういうことなんだ。




