第48話 いざ海底です
北方遺跡を出た俺たちは、海を目指して南へ向かっていた。次の目的地は海底神殿——名前からして普通の場所ではないことだけはわかる。
「海底ってことは、本当に海の中にあるの?」
グレイプが眉を下げる。
「スマホにはそう表示されてるな」
「どうやって行くのよ?」
「それを今から考えるんだろ」
「先に考えておきなさいよ!」
「俺に言われても困る!」
レモンが突然足を止めた。
「あの、待ってください」
「ん、どうした?」
「向こうから何か聞こえます」
「音?」
耳を澄ます。
——ザァァァ……。
遠くから波の音が聞こえてきた。
「波の音……海が近いみたいですね」
俺たちはさらに進み、しばらくすると巨大な海が見えてきた。
「本当に海だ」
モモが海を見つめる。
「でも、神殿なんて見えないわね」
俺はスマホを見る。
『目的地を確認しました』
【海底神殿】
【水深:800m】
「800m!?」
「深いわね……」
グレイプが海を覗き込む。
「これ、普通に潜ったら死ぬわよ」
「さらっと怖いこと言うなよ」
「だって事実でしょう?」
スマホが震える。
『水中活動に必要な魔法を検索します』
『使用可能な魔法を確認』
【水中呼吸】
【水圧耐性】
【水中移動】
「……」
「何?」
グレイプが俺を見る。
「スマホに魔法が表示された」
「じゃあ使えばいいじゃない」
「便利すぎないか、このスマホ。便利を通り越して都合がいい」
俺が魔法を選択する。
『パーティ全員に魔法を適用します』
——ピィィィン!
全員の身体が淡い光に包まれる。
「これで海の中でも大丈夫みたいだ」
「本当に便利ね」
モモが海へ近づく。
「じゃあ行きましょう」
「待って」
クロエが海を見つめる。
「誰かいる」
「え?」
海の向こうに、小さな船が見えた。船の上には数人の人影がいる。
「こっちへ来るわね」
グレイプが杖を構える。船が近づいてくる。
「お前たち!」
船の上から男が叫ぶ。
「ここから先へ行くな!」
「何でだ?」
俺が聞き返す。
「海底神殿は封印されている! 近づけば危険だ!」
「でも俺たちはそこへ行く必要があるんだ」
「何のために?」
「境界鍵を探してる」
男の表情が変わった。
「境界鍵……?」
「知ってるのか?」
「……」
男はしばらく黙っていたが、やがて答えた。
「知っている」
「なら教えてくれ」
「境界鍵は海底神殿の最深部にある」
「やっぱりか」
「だが、そこへ行った者は戻ってきていない」
「それでも行く」
モモが即答する。
「タローが行くなら私も行く」
「私もです」
レモンが頷く。
「もちろん私も!」
グレイプも手を上げる。
「……仕方ない」
クロエも頷いた。
「5人で行こう」
俺は海を見る。
「じゃあ、行くぞ」
俺たちは海へ飛び込んだ。
——ザバァン!
水中へ潜る。魔法のおかげで呼吸は問題ない。水圧も感じない。
「凄いですね」
レモンが驚く。
「本当に普通に動けますね」
「地上と変わらないな」
俺たちは海底へ向かって進んでいく。しばらくすると、巨大な建物が見えてきた。
「あれじゃない?」
グレイプが向こうへ指を指す。海底神殿。巨大な石造りの建物が海底に沈んでいる。その入口には、大きな紋章が刻まれていた。俺はスマホを向ける。
『境界施設を確認』
【名称:海底境界神殿】
【状態:封印解除済み】
「封印解除済み?」
俺が呟く。
「誰かが先に来たってこと?」
モモが尋ねる。
「恐らくな」
クロエが剣を握る。
「警戒しろ」
俺たちは神殿の中へ入る。内部は暗く、壁には青い光が浮かんでいる。しばらく進むと、最深部へ続く扉が見えてきた。
——ゴゴゴゴゴ……。
扉が勝手に開く。
「嫌な予感がする」
俺は神器を握る。部屋の中央には、青い結晶が浮かんでいた。
『境界鍵を確認』
【境界鍵②】
「見つけた!」
グレイプが駆け寄る。しかし――。
——ドン!
突然、巨大な衝撃音が響いた。
「な、何!?」
床に亀裂が走る。その亀裂から黒い魔力が溢れ出す。
「これは……!」
クロエが剣を構える。
「境界鍵を狙っている存在が来た」
「またあいつらか!」
俺が神器を構える。すると、部屋の奥から1人の人物が姿を現した。
「その鍵を渡してもらおう」
「お前は……北方遺跡にいた奴……!」
黒いローブの男だった。
「どうしてここに?」
「お前たちを追ってきた」
男が手を上げる。
「今度は逃がさない」
「だったらこっちも――」
俺が神器を構えた瞬間、スマホが震える。
『緊急通知』
『境界鍵②への干渉を確認』
【境界鍵:破損率70%】
「70%!?」
「急いで!」
レモンが叫ぶ。
「このままじゃ鍵が壊れます!」
「なら、あいつを止める!」
俺は走り出す。
「全員、行くぞ!」
「ええ!」
「任せて!」
「はい!」
「わかった」
5人が一斉に動き出す。
海底神殿が大きく揺れ始める。
——ゴゴゴゴゴゴ……。
そしてスマホに新たな表示が現れた。
『境界鍵②破損率:82%』
「時間がない……!」
俺は神器を握り締める。この鍵を失えば、世界境界を安定させることができなくなる。絶対に守らなければならない。俺たちの世界のために。そして――元の世界へ帰るために。俺は目の前の敵を見据えた。




