第43話 急ぎます
スマホの画面が暗いまま動かない。
「あれ……おかしいな。どうしたんだ?」
俺は何度か画面をタップする。しかし、何も表示されない。
「さっきまで普通に動いてたのに」
「故障したんじゃない?」
グレイプが覗き込む。
「こんな大事なところで故障するか?」
「じゃあ、神器が疲れたのよ」
「神器って疲れるのか?」
「知らないわ」
「知らないか……」
俺が落胆すると、銀髪の少女が水晶へ近づいた。
「神器の欠陥について知りたいのでしょう?」
「ああ」
「なら、この先に進みましょう」
少女が水晶へ手を伸ばす。
——ピィィィン。
水晶が光り始める。
『古代記録を再生します』
空中に映像が浮かび上がった。そこには、巨大な研究施設が映っていた。俺たちが今いる場所よりも遥かに大きい。
『異界の神器、最終調整を開始』
『目的は世界境界の安定化』
研究者たちが装置を操作している。
『神器は異界との接続を可能とする』
『ただし、使用には代償が発生する』
「代償?」
俺は映像を見つめる。研究者の1人が、何かを説明している。
『神器を使用すると、使用者と世界の境界が接続される』
『接続が長時間続いた場合――』
映像が一瞬乱れる。
『使用者の存在が、世界から切り離される可能性がある』
「……」
俺たちは黙り込む。
「それって……」
モモが俺を見る。
「タローが消えるかもしれないってこと?」
「可能性があるってことだろ?」
クロエが頷く。
「ああ」
「じゃあ、俺が神器を使い続けたら……」
「世界との繋がりを失う可能性がある」
俺はスマホを見る。今まで何度も使ってきた。もし、このまま使い続ければ――。
「それを知っていて、俺を使わせていたのか?」
俺はクロエを見る。
「私は知らなかった」
「本当に?」
「ああ」
クロエは真剣な表情で答える。
「私も今知った」
俺は何も言えなくなる。するとレモンが俺の隣へ来た。
「でも、まだ方法はあるんですよね?」
「……」
銀髪の少女が答える。
「あるわ」
「本当か?」
「ええ」
少女が水晶を指差す。
「この研究施設には、神器の欠陥を修正するための装置も残されている」
俺はスマホを見る。画面が再び光った。
『修復装置を検出しました』
【名称:神器補助装置】
【状態:休眠中】
「これを使えば神器の欠陥を直せるのか?」
「完全には無理よ」
「じゃあどうするんだ?」
「神器そのものを変える必要があるわ」
「変える?」
「ええ」
少女は俺を見る。
「神器は1つだけではないでしょう?」
俺は地図を見る。
【神器反応:4】
「他の4つの神器……」
「そう」
「それを集めれば何とかなるのか?」
「5つの神器を1つにすることで、欠陥を補える可能性がある」
グレイプが目を輝かせる。
「5つの神器を合体させるの!?」
「そんな簡単な話じゃないと思うけどな……」
「でも面白そうじゃない!」
「そこじゃないだろ」
モモが地図を見る。
「じゃあ、残り4つを集めればいいのね」
「ああ」
クロエが頷く。
「だが時間がない」
スマホを見る。
【世界境界安定度:34%】
【残り時間:65時間】
「まだ65時間ある」
「そう思うか?」
クロエが首を横に振る。
「神器を集めるだけではない。世界境界が崩壊すれば、神器を集めても意味がない」
「だったら急ごう」
俺は立ち上がる。
「最初の神器はどこにある?」
スマホに地図が表示される。
【神器反応:北部山岳地帯】
「まずはここだな」
「待って」
銀髪の少女が俺を呼び止める。
「あなたたちだけでは危険よ」
「どういう意味?」
「北の神器を守っているのは、さっきの守護者より強い存在だから」
「……」
グレイプが杖を握る。
「それなら私たちも強くなればいいじゃない」
「簡単に言ってくれるなよ……」
その瞬間、スマホが震えた。
『新機能を解放します』
『神器共有システム』
『パーティメンバー全員の神器適合能力を確認します』
【タロー:50%】
【レモン:???】
【グレイプ:0%】
【モモ:???】
【クロエ:???】
「また私だけ0%!?」
グレイプが叫ぶ。
「何でよ!」
「まあ……頑張れ」
「慰めになってないわよ!」
レモンはきょとんとしている。
「でも、私の適合率が表示されていませんね」
「確かに」
俺が画面を見る。
『聖女の神器適合能力を解析中』
『解析不能』
【適合率:???】
「聖女だからか?」
クロエがレモンを見る。
「恐らくな」
「私に神器が使えるんでしょうか?」
「その可能性は高い」
レモンが自分の手を見る。
「が、頑張ります!」
「頼む」
俺たちは北へ向かう準備を始めた。しかし、そのときだった。
——ピィィィン!
『異界からの干渉を検出』
「またか?」
俺はスマホを見る。
【通信元:???】
画面に1つの文字が表示された。
『急いで』
「誰だ?」
銀髪の少女が画面を見る。
「これは……」
「知ってるのか?」
「ええ」
少女は少しだけ表情を変える。
「この通信は、あなたたちを助けようとしているものよ」
「誰が送ってるんだ?」
少女は答えなかった。ただ、北の山を見つめる。
「もう時間がないわ」
俺は神器を握り締める。
「急ごう」
俺たちは北の山岳地帯へ向かって歩き始めた。残された時間は65時間。集めるべき神器は4つ。




