第42話 守護者が起動しました
神殿の奥から、巨大な影がゆっくりと姿を現した。
——ズズズズズ……。
その身体は巨大だった。人の形に近いようにも見えるが、全身を黒い魔力が覆っていて、その姿をはっきり確認することができない。スマホが激しく震える。
『強力な存在を確認』
【名称:???】
【危険度:S】
【状態:覚醒】
「こんなのと戦うのか?」
「どう見ても普通の魔物じゃないわね」
グレイプが杖を構える。
「でも、戦うしかないんでしょう?」
「そうみたいだな……」
レモンが神殿の奥を見る。
「何か……悲しい感じがします」
「悲しい?」
「はい」
レモンは胸に手を当てる。
「あの存在から、怒りだけじゃなくて……悲しみを感じます」
「魔物の気持ちがわかるのか?」
「わかるわけではありません。ただ、そう感じるんです」
俺はもう一度、巨大な存在を見る。確かにこちらを攻撃しようとしているようには見えない。ただ、何かを守るようにその場に立っている。
クロエが剣を抜く。
「警戒しろ」
「クロエはあいつを知ってるのか?」
「知らない」
クロエは静かに答える。
「だが、あれはこの神殿を守るために作られた存在だろう」
「守るため?」
「ああ」
クロエが周囲を見る。
「ここにあるものを外へ出さないためにな」
「じゃあ、あいつが守ってるのは……」
俺はスマホを見る。すると、新しい表示が現れた。
『神殿最深部への進入条件を確認』
『守護者の認証が必要です』
「認証?」
グレイプが首を傾げる。
「倒すんじゃなくて、認めてもらう必要があるってこと?」
「だったら話し合いができるのか?」
俺が巨大な存在へ近づこうとすると、クロエが腕を伸ばして止める。
「待て」
「何だ?」
「不用意に近づくな」
その瞬間だった。巨大な存在がこちらへ顔を向ける。
——ゴォォォォ……。
黒い魔力が広間全体に広がった。
「うわっ!」
「タロー!」
モモが俺の前へ出る。
「大丈夫!」
俺は神器を構える。すると、スマホに表示が出た。
『守護者による認証を開始します』
「認証って……まさか戦うのか?」
『試練を開始します』
「やっぱりな!」
次の瞬間、巨大な存在が腕を振り上げる。
——ズガァァン!
地面が大きく揺れた。
「来るわよ!」
グレイプが叫ぶ。
「炎よ!」
——ボォォォッ!
炎の壁が俺たちの前に現れる。巨大な腕が炎の壁へ叩きつけられる。
——ドォォォン!
「止めたわ!」
グレイプが嬉しそうに笑う。
「さすが私!」
「まだ終わってないぞ!」
巨大な存在が再び腕を振る。
「私が行く!」
モモが地面を蹴る。
——シュッ!
一瞬で懐へ入り込み、剣を振り抜く。
——ガキィン!
「硬っ!」
モモが弾き飛ばされる。
「モモ!」
「大丈夫!」
レモンが杖を掲げる。
「治癒します!」
淡い光がモモを包み込む。
「ありがとう、レモン!」
「どういたしまして」
俺はスマホを見る。
【守護者:HP100%】
「攻撃が効いてない……!?」
クロエが前へ出る。
「ならば私が試す」
クロエの剣に黒い魔力が集まる。
「はあっ!」
——ズガァン!
斬撃が守護者へ直撃する。
しかし――。
【守護者:HP99%】
「1%って……硬すぎるだろ!」
「タロー!」
グレイプが叫ぶ。
「攻撃するだけじゃ駄目なんじゃない?」
「どういうことだ?」
「さっき認証って表示されてたでしょう!」
「あ……」
俺はスマホを見る。
すると、新しい項目が表示されていた。
『守護者の認証条件』
『神器所持者の意思を確認します』
『質問を開始します』
【問:神器を何のために使う?】
「……」
俺は画面を見つめる。
「何のためにって……」
頭に浮かんだのは、ここまで一緒に旅をしてきた仲間たちだった。元の世界へ帰ること。世界の謎を知ること。災厄を止めること。そして――。
「誰かを守るためだ」
俺は答える。
「この神器の力で、誰かを傷つけるんじゃない。俺の仲間も、この世界にいる人たちも守るために使いたい」
守護者が動きを止める。
「……?」
スマホが震えた。
『回答を確認しました』
『条件を満たしました』
『守護者の認証に成功』
巨大な存在から黒い魔力が消えていく。
——シュゥゥゥ……。
そこに残ったのは、巨大な石像だった。
「終わった……?」
モモが剣を下ろす。
「そのようだな」
クロエも剣をしまう。
すると、神殿の奥にあった巨大な扉が開いた。
——ゴゴゴゴゴ……。
『最深部への進入を許可します』
『重要記録を確認できます』
「重要記録……」
俺は扉の向こうを見る。そこには巨大な装置と、中央に浮かぶ1つの水晶があった。そして、その水晶には――。
【異界の神器:製造記録】
という文字が表示されていた。
「神器の製造記録……?」
俺はゆっくりと歩き出す。その瞬間、背後から声が聞こえた。
「ここまで来たのね」
「……!」
振り返る。そこには、いつの間にか銀髪の少女が立っていた。
「お前……!」
少女は静かに微笑む。
「ここから先は、あなたたちだけでは知ることのできない真実があるわ」
「だったら教えてくれ」
俺が尋ねる。
「この神器は一体何のために作られたんだ?」
銀髪の少女は水晶を見る。
「世界を救うためよ」
「世界を救うため?」
「ええ」
少女は答える。
「ただし――」
少女の表情が少しだけ曇る。
「この神器には、最初から重大な欠陥があったの」
「欠陥……?」
俺は水晶へ近づく。そしてスマホが震えた。
『重大情報を検出』
【異界の神器:欠陥あり】
『詳細情報を開示します』
画面に表示された文字を見て、俺は息を呑んだ。
【欠陥:使用者の世界を――】
そこで画面が暗転した。




