第41話 北へ進みます
俺たちは王都を出て、北の山岳地帯へ向かっていた。目的は5つの神器の1つを手に入れること。世界境界の崩壊まで残された時間は約71時間。ゆっくりしている暇はない。
「それで、北の山には何があるの?」
グレイプが歩きながらクロエに尋ねる。
「神器を守る遺跡がある」
「遺跡ねぇ……」
グレイプはそう呟いて考え込む。
「どんな神器なの?」
「知らない」
「知らないの!?」
「昔のことだからな」
「じゃあ、何なら知ってるのよ!」
「場所」
「それだけ!?」
グレイプが渋い顔で頭を抱える。
「いつものことだな」
俺は苦笑する。しばらく歩いていると、遠くに巨大な山が見えてきた。山頂には雪が積もっていて、雲の中まで続いているように見える。
「あれが北の山か」
「ええ」
モモが頷く。
「ここからでもかなり大きいわね」
俺はスマホを取り出す。
『目的地を確認しました』
【北部山岳地帯】
【目的地まで:約38km】
「まだ38kmもあるのか……」
「走ればいいじゃない」
「簡単に言うなよ」
レモンが何かに気づいた。
「待ってください」
「どうした?」
「向こうに何かあります」
レモンが山道の先を指差す。そこには、小さな建物があった。
「村?」
俺たちはその場所へ向かう。近づいてみると、そこには数軒の家が並んでいた。しかし、人の姿がほとんどない。
「静かね」
モモが周囲を見回す。
「誰もいないのかな?」
「いや」
クロエが答える。
「いる」
「え?」
その瞬間、家の陰から1人の老人が姿を現した。
「旅の者か?」
「はい」
レモンが答える。
「俺たちは北の山へ向かっているんです」
「北の山へ?」
老人の顔が険しくなる。
「やめておけ」
「どうして?」
「山には近づいてはいけない」
「何かあるんですか?」
レモンが尋ねる。老人はしばらく黙っていたが、やがて小さな声で話し始めた。
「山の奥には古い遺跡がある」
「やっぱり」
俺はクロエを見る。
「そこに神器があるんだな?」
「ああ」
クロエが答える。
「神器……?」
老人が驚いた顔をする。
「なぜそのことを知っている?」
「俺たちは神器を探している」
「神器を集めて何をする?」
「世界を救うためです」
レモンが答える。老人は俺たちをじっと見つめる。
「……そうか」
「何か知ってるんですか?」
モモが尋ねる。
「遺跡へ向かった者は、誰1人として戻ってきていない」
「誰1人?」
「ああ」
老人は山を見る。
「昔からあの山には伝説がある」
「どんな伝説?」
「山の奥には、古代の神器を守る守護者がいる」
グレイプの目が輝く。
「守護者!?」
「お前、嬉しそうだな……」
「だって強い魔物がいるんでしょう?」
「そこを心配しろよ」
「大丈夫よ。私には最強の魔法があるもの!」
グレイプが胸を張る。俺はスマホを見る。
【神器反応:確認】
【距離:約37km】
「やっぱり神器はこの山にある」
「なら、行くしかないわね」
モモが剣を握る。
「そうだな」
俺は頷く。
「時間もない」
老人が俺たちを見る。
「本当に行くのか?」
「ああ」
「なら、これを持っていけ」
老人が小さな袋を差し出した。
「これは?」
「山で採れる薬草だ。傷を負ったときに使える」
「ありがとうございます」
レモンが受け取る。
「気をつけてな」
「はい」
俺たちは村を出る。山道へ入った瞬間、空気が一気に冷たくなった。
「寒っ……」
俺は腕をさする。
「この先はもっと寒くなるわ」
銀髪の少女が言う。
「お前、寒くないのか?」
「私は平気よ」
「羨ましいよ」
少女は何も言わず、山の奥を見る。
「もうすぐよ」
「何が?」
「遺跡への入口」
その言葉通り、しばらく進むと巨大な岩壁が見えてきた。岩壁の中央には、不自然なほど綺麗な扉がある。
「これか……」
俺はスマホを向ける。
『古代遺跡の入口を確認』
『神器反応を確認』
【神器反応:強】
【推定距離:500m】
「中にある!」
グレイプが嬉しそうに叫ぶ。
「早く入りましょう!」
「待て」
クロエが扉の前で足を止める。
「何だ?」
「この扉は普通には開かない」
「じゃあどうする?」
クロエが扉に刻まれた紋様を見る。
「5つの紋章が必要だ」
「5つ?」
俺は扉を見る。確かに、扉には5つの円形の紋様が刻まれている。
「まさか、5つの神器が必要なのか?」
「違う」
クロエが首を横に振る。
「神器を持つ者の力が必要なんだ」
「俺だけでいいのか?」
「いや」
クロエが俺たちを見る。
「全員だ」
その瞬間、スマホが震えた。
『遺跡入口の封印を確認』
『パーティメンバー5人の認証が必要です』
【必要人数:5】
「俺たち5人なら開けられるってことだな」
「そういうことね」
モモが扉の前へ立つ。
「やりましょう」
「私も!」
グレイプが隣に並ぶ。
「早く神器を見てみたいわ!」
「私は何をすればいいですか?」
レモンも扉へ手を伸ばす。
「同じように力を流せばいい」
クロエが答える。
「じゃあ、いくぞ」
俺たちは5人同時に扉へ手を触れた。
——ピィィィン!
『パーティ認証を開始します』
【タロー:認証完了】
【レモン:認証完了】
【グレイプ:認証完了】
【モモ:認証完了】
【クロエ:認証完了】
『全員の認証が完了しました』
——ゴゴゴゴゴゴ……。
巨大な扉がゆっくりと開いていく。その奥から、冷たい風が吹き抜けてくる。
「開いた……」
俺は暗闇の先を見る。そしてスマホに新しい表示が現れた。
『神器守護者を確認』
【対象:???】
【推定危険度:S】
「……S?」
俺は思わず息を呑む。グレイプが杖を構える。
「面白くなってきたじゃない」
「よく楽しめるな」
「楽しんだ者勝ちよ♪」
俺たちは遺跡の中へ足を踏み入れた。その瞬間、背後の扉が――。
——ゴゴンッ!
大きな音を立てて閉じた。
「……」
「閉じ込められた?」
モモが振り返る。
「いや」
クロエが前を見る。
「違う」
「じゃあ何だ?」
「試されているんだ」
暗闇の奥で、巨大な何かが動いた。
——ズズズズズ……。
スマホが激しく震える。
『神器守護者が起動しました』
【戦闘開始】
俺は神器を構える。
「行こう」
残り時間は70時間。




