第39話 本当の始まりです
俺たちは異界神殿の階段を上っていた。最上階へ続く階段は長く、壁には見たことのない文字が刻まれている。
「さっきの守護者が言ってたこと……本当なのかしら」
モモが呟く。
「神器を使うほど世界の境界が弱くなるって話か?」
「ええ」
「俺も気になってる」
俺は手元の神器を見る。今まで何度も俺たちを助けてくれた。魔物を倒すときも、仲間を探すときも、元の世界へ繋がるときも、この神器があったからこそできたことだ。でもその力が世界を壊しているのなら話は変わってくる。
「タローさん」
レモンが声をかける。
「神器を使うことを怖がらなくてもいいと思います」
「どうしてだ?」
「神器が悪いものだとは限らないからです」
「……」
「力には使い方があります。タローさんなら大丈夫ですよ」
「レモン……」
「そうよ!」
グレイプが口を挟む。
「グレイプ?」
「神器の使い方なんて、使いながら考えればいいのよ!」
「お前はもう少し考えてから使ってくれ」
「何で私だけ!?」
モモがおかしそうに笑う。
「でも、グレイプの言ってることも間違ってないわね」
「でしょう?」
「たまにはいいこと言うんだな」
「たまにはって何よ!」
そんな会話をしながら進んでいると、階段の先に扉が見えてきた。
「着いたみたいだな」
俺たちは扉の前に立つ。扉には大きな紋様が刻まれていた。中央にはスマホと同じ形をした紋章がある。
「これも認証か?」
俺が神器を近づける。
——ピィィィン。
『異界の神器を確認』
『最終認証を開始します』
『パーティメンバー5人の認証が必要です』
「全員の認証が必要らしい」
俺たちは順番に扉へ手を触れる。
『タロー:認証完了』
『レモン:認証完了』
『グレイプ:認証完了』
『モモ:認証完了』
『クロエ:認証完了』
『最終認証を完了しました』
——ゴゴゴゴゴ……。
扉が開く。
「……!」
その先には、巨大な部屋が広がっていた。部屋の中央には巨大な装置が浮かんでいる。その周囲には無数の魔法陣が回転していた。
「凄いわ……!」
グレイプが目を輝かせる。
「これ、全部魔法で動いてるの?」
俺はスマホを向ける。
『対象を解析します』
【名称:世界境界制御装置】
【状態:稼働中】
【危険度:S】
「世界境界制御装置……」
クロエが装置を見つめる。
「ここが世界の境界を管理している場所か」
「じゃあ、この装置を使えば世界の境界を直せるんじゃないか?」
「可能性はある」
俺は装置へ近づく。その瞬間――。
——ピィィィン!
『管理者権限を確認しました』
『神器所有者による操作が可能です』
画面にいくつもの項目が表示される。
【世界境界の安定化】
【異界通信】
【世界間移動】
【世界融合】
「……世界融合まである」
俺はその項目を見る。
「さっきの守護者が言ってたやつか」
クロエが頷く。
「ああ。これを使えば世界と世界を繋げることができる」
「でも、そんなことをしたら……」
「世界の境界が崩壊する可能性がある」
「じゃあ使えないな」
俺は世界融合の項目から視線を外す。
「だったら、世界境界の安定化を使おう」
俺がタップしようとした瞬間だった。
「待って」
銀髪の少女の声が聞こえた。
「……!」
俺たちは一斉に振り返る。そこには、いつの間にか銀髪の少女が立っていた。
「お前……どうしてここに?」
「あなたたちを追ってきたのよ」
「どうやって?」
「それは秘密」
「それもかよ!」
俺が頭を抱える。少女は装置へ近づいていく。
「その装置を使う前に、知っておいた方がいいことがあるわ」
「何だ?」
「この装置は、世界の境界を安定させるだけのものではない」
「どういう意味?」
「世界の境界そのものを管理しているの」
少女が装置を見る。
「そして、この装置を作った者たちは――」
そして俺を見る。
「この世界だけを守ろうとしたわけではないわ」
「じゃあ、何を守ろうとしたんだ?」
少女は少し間を置き、答えた。
「全ての世界よ」
「全ての世界……?」
その瞬間、装置が突然大きく動き始めた。
——ゴゴゴゴゴゴ!!
「何!?」
スマホが激しく震える。
『緊急事態を確認』
『複数の世界から境界崩壊を検出』
【ライトディア:境界安定度 42%】
【地球:境界安定度 37%】
【第三世界:境界安定度 28%】
「地球まで……!」
俺は息を呑む。
「これ、俺たちが何とかしないと全部の世界が危ないってことか?」
クロエが剣を握る。
「そういうことだな」
レモンが杖を構える。
「なら、やることは決まりましたね」
グレイプも笑う。
「勿論!」
モモが俺を見る。
「あたしたち5人ならできるわ」
「……そうだな」
俺は神器を握る。
「世界を救うっていうのは、こういうことなのかもしれないな」
その瞬間、装置の中央に新しい表示が浮かび上がった。
『世界境界崩壊までの推定時間を計算します』
『残り――』
数字が表示される。
【72時間】
「……3日?」
俺は画面を見つめる。
「3日以内に何とかしないと……」
銀髪の少女が静かに言った。
「そういうことよ」
そして、彼女は俺たちを見る。
「ここからが、本当の旅の始まりね」




