第34話 転送しますか?
レモンが聖女だったこと、黒い騎士の名前がクロエだったこと。短い時間の間に色々なことが判明したせいで、俺の頭はまだ整理できていない。
「それにしても……レモンが聖女だったとはな」
「自分でも驚いています。今まで自分が聖女だなんて、一度も思ったことがありませんでした」
「でも、聖女なら回復魔法とか使えるんじゃない?」
グレイプが興味津々に尋ねるが、モモは訝しげな顔をしていた。
「今までステータスに表示されなかった理由も気になるわね」
「確かに」
俺はスマホを取り出す。
【名前:レモン】
【職業:聖女】
【魔力:A】
「魔力がAになってる」
「本当ですか?」
レモンが画面を見る。
「前より上がってますね」
「聖女ってかなり凄い職業なんじゃないか?」
クロエが答える。
「聖女はこの世界でも非常に珍しい存在だ」
「クロエは聖女について詳しいのか?」
「詳しいという程ではないが、ある程度は知っている」
「じゃあレモンは何ができるんだ?」
「本人が覚醒すればわかる」
俺は肩をすくめる。
「クロエって本当に説明が足りないよな。そのときになればわかるっていつもそればっかりだ」
「今必要なことは話している」
「そのときに必要最低限なことしか話さないから困るんだよ」
モモがくすっと笑う。
「まあまあ。きっとクロエは昔からあんな感じなんでしょう?」
「昔からではない」
「へえ、じゃあ最近?」
「……」
「否定しないんだな」
そんな会話をしながら歩いていると、スマホが震えた。
『異界の痕跡を検出しました』
『現在地から500m以内に存在します』
「異界の痕跡?」
俺たちは足を止める。
「これがメインクエストの目的地か?」
俺がマップを開くと、王都の中心部に赤い点が表示されていた。
【異界反応:弱】
【距離:482m】
「反応は弱いけど、割と近いな」
「行ってみましょう」
レモンが頷く。
俺たちは赤い点へ向かって歩き始めた。しばらくすると、王都の中央にある古い広場へ到着した。
「ここ?」
モモが周囲を見回す。
「何もないわよ?」
確かに広場には噴水とベンチがあるだけだった。
「おかしいな。スマホは反応してるんだけどなぁ」
『異界反応:強』
「わ、急に強くなった!?」
次の瞬間――。
——ピィィィン!
噴水の水が止まった。
「え?」
そして噴水の中央にある石像が光り始める。
——ゴゴゴゴゴ……。
「何か動いてるわ!」
グレイプが杖を構える。
「魔物!?」
「いいや」
クロエが石像を見る。
「これは魔法装置だ」
「魔法装置?」
「ああ。異界とこちらの世界を繋ぐためのものだ」
「異界関係か」
俺はスマホを向ける。
『古代装置を解析します』
【名称:異界転送装置】
【状態:休眠中】
【接続先:???】
「転送装置……? 何だそれ」
俺が呟いた瞬間、石像の前に魔法陣が現れた。
——シュインッ!
『起動条件を確認』
『異界の神器を認証しました』
『転送先を選択してください』
【地球】
【???】
【???】
「選択肢が3つあるぞ」
「地球もあるじゃない!」
グレイプが驚く。
「これを使えばタローさんは元の世界へ帰れるんでしょうか?」
レモンが俺を見る。
「うーん。どうだろうな」
俺は画面を見つめる。地球へ帰れる可能性がある。そう思うと、胸が少しだけ高鳴った。だがクロエが口を開いた。
「今は使うな」
「何でだ? 何か問題が?」
「この装置は転送だけではない」
「どういうことだ?」
「世界の境界そのものを動かす装置だ」
クロエが険しい表情になる。
「間違って使えば、異界への道を開いてしまう」
「……」
俺は画面から手を離す。
「つまり、今使うのは危険ってことか」
「そういうことだ」
そのとき、銀髪の少女が口を開いた。
「でも、もう起動してしまったわ」
「え?」
俺たちが振り返る。少女は魔法陣を見つめていた。
「この装置は、もう止められない」
——ゴゴゴゴゴゴ……。
魔法陣がさらに強く輝く。
『異界転送装置を起動しました』
『転送準備を開始します』
「おいおい……」
俺はスマホを見る。
【転送開始まで:30秒】
「30秒!?」
「どうするの!?」
グレイプが慌てて叫ぶ。
「止められないんじゃないのか?」
俺がクロエを見る。
「完全には止められない」
「じゃあどうするんだよ!」
「転送先を変更する」
「そんなことできるのか?」
クロエが頷く。
「私たち5人ならな」
俺はスマホを見る。
【パーティ連携率:100%】
「なるほど」
俺は神器を握る。
「やるしかないってわけだな」
俺たちは魔法陣の前に立った。そして――。
『転送開始まで:10秒』
「急いで!」
「任せて!」
「私もやります!」
「準備はできてるわ!」
「私も力を貸す」
5人の力が1つになる。しかし、その瞬間。魔法陣の中央に、見たことのない文字が浮かび上がった。
【転送先:???】
「……え?」
俺は画面を見つめる。
『転送先が自動選択されました』
【目的地:異界境界領域】
「ちょっと待て!」
——シュオオオオオッ!!
強烈な光が俺たちを包み込む。
「うわあああああっ!」
次の瞬間、俺たちの姿は王都から消えていた。




