第25話 絆の力です
巨大な衝撃波が研究施設を駆け抜ける。
——ズガァァァン!!
「うおおおおおっ!」
俺は神器を構えたまま吹き飛ばされないように踏ん張る。
「タロー!」
モモが叫ぶ。
「大丈夫だ!」
俺は立ち上がる。目の前ではもう1人のタローが神器を構えている。身体から溢れ出す魔力はさっきまでとは比べ物にならない。
「やっぱり強いな……」
「当然だろう」
もう1人のタローが笑う。
「私はお前自身なのだからな」
「いいや、それは違うな」
俺は神器を握り締める。
「お前は俺じゃない」
「なに?」
「お前が俺の記憶を持っていても、俺と同じ顔をしていても――」
俺は後ろを見る。レモン、グレイプ、モモ、そして黒い騎士。
「俺がここで出会ったものまで、お前と同じじゃない」
「…………」
「俺はこの世界に来てから、こいつらと一緒に戦ってきた」
スマホが震える。
『パーティスキル《異界の絆》を確認』
『全メンバーの意思を確認しました』
【パーティ人数:5】
【連携率:100%】
「俺は1人じゃない!」
俺が叫ぶ。
「だからお前には負けない!」
もう1人のタローが神器を構える。
「ならばその絆とやら、見せてもらおう!」
「行くぞ!」
俺たちは同時に走り出した。
——ガキィィィン!
神器同士が激しくぶつかる。
「はあっ!」
もう1人のタローが剣を振る。
「遅い!」
俺は攻撃を避ける。
「今です!」
レモンが杖を掲げる。
「光弾!」
——シュシュシュシュッ!
無数の光弾が飛んでいく。
「そんなもの!」
もう1人のタローが神器で弾く。
「私には効かない!」
「なら、これはどう!?」
グレイプが杖を振る。
「風よ、薙ぎ倒せ! 嵐の風!」
——ドォォォン!
強風が吹く。
「今よ!」
モモが飛び込む。
「はあああっ!」
——ズバァッ!
モモの剣がもう1人のタローの肩を切り裂いた。
「ぐっ!」
「まだだ!」
黒い騎士が一気に距離を詰める。
「はあっ!」
——ガキィン!
神器を弾き飛ばす。
「今だ、タロー!」
「ああ!」
俺は走る。もう1人のタローが神器を拾おうとする。
「させるか!」
俺は神器を振り抜く。
——ズガァァァン!!
「ぐああああっ!」
もう1人のタローが吹き飛ばされる。
【対象HP:21%】
「あと少し!」
俺はさらに踏み込もうとする。しかし、その瞬間――。
『警告』
『世界境界安定度:5%』
「……5%!?」
研究施設全体が大きく揺れ始めた。
——ゴゴゴゴゴゴゴ……。
「まずい!」
黒い騎士が叫ぶ。
「このままでは世界の境界が完全に崩れる!」
「だったらあいつを倒せば止まるんだろ!?」
「違う!」
「え?」
黒い騎士が俺を見る。
「もう1人のタローを倒しても、開いた境界は閉じない!」
「じゃあどうするんだよ!」
「神器を使うしかない!」
俺は自分の神器を見る。
「どうやって?」
「お前と彼の神器は同じものだ。2つの神器を共鳴させれば、開いた境界を閉じられる」
「そんなことをしたら……」
もう1人のタローが立ち上がる。
「私が消える」
「……!」
「そういうことだ」
彼は静かに笑う。
「だったら……」
俺は神器を下ろす。
「お前を倒す必要なんてない」
「なに?」
「一緒に境界を閉じる」
もう1人のタローが目を見開く。
「私を助けるつもりか?」
「助けられるかどうかはわからない」
俺は笑う。
「でも試してみる価値はあるだろ」
グレイプが杖を握る。
「そうね」
レモンも頷く。
「私たちならできます」
モモが剣を構える。
「あたしたち5人ならね」
黒い騎士も頷く。
「ならばやるぞ」
俺はもう1人のタローへ手を伸ばす。
「お前も力を貸してくれ」
もう1人のタローはしばらく俺の手を見る。
「……本当に、お前は変な奴だな」
「よく言われる」
彼は俺の手を取った。その瞬間――。
——キィィィィン!
2つの神器が強く輝き始める。
『異界の神器、共鳴を開始』
『パーティスキル《異界の絆》を接続』
【神器共鳴率:10%】
【30%】
【60%】
【100%】
「いけえええええっ!」
俺たちの周囲に巨大な魔法陣が広がる。黒い亀裂が次々と閉じていく。
「境界が戻ってる!」
グレイプが叫ぶ。
【世界境界安定度:20%】
【50%】
【80%】
【100%】
『世界境界の安定を確認』
『緊急クエストを達成しました』
『世界崩壊を回避しました』
「終わったのか……?」
俺が呟く。静かになった研究施設の中で、もう1人のタローが自分の身体を見る。
「私は……消えていない」
「よかった……」
俺はその場に座り込む。
「疲れた……」
「最後まで大変だったわね」
モモが笑う。
「でもこれで帰れるんじゃない?」
「そうだな」
俺はスマホを見る。
『異界通信機能を確認』
【接続先:地球】
『帰還条件を確認しました』
【異界の神器:適合済み】
【世界境界:安定】
【帰還準備:可能】
「帰れるのか……」
その言葉を口にした瞬間、胸の奥が熱くなった。ずっと探していた。元の世界へ帰る方法を。それが今目の前にある。
「タローさん……」
レモンが俺を見る。
「どうするんですか?」
俺はしばらくスマホの画面を見つめる。
「今は帰らない」
「え?」
グレイプが驚く。
「どうして?」
「まだこの世界にはやることがある」
俺はもう1人のタローを見る。
「それにこいつのことも放っておけない」
「……タロー」
もう1人のタローが小さく笑う。
「やはりお前を呼んで正解だった」
「お前が勝手に呼んだんだろ」
「それは……すまなかった」
「今さらかよ」
俺は笑う。そのとき、スマホが震えた。
『メインクエストを更新します』
『異界の真実を追え』
俺は画面を見る。
「何だこれ?」
しかし、画面はすぐに切り替わった。
『新たな情報を検出しました』
【未登録世界:???】
【接続反応:確認】
「まだ何かあるのかよ」
黒い騎士が険しい表情でスマホを見る。
「どうやら終わったわけではないらしいな」
「そうらしいな」
俺はスマホを握り締める。元の世界へ帰る方法。異界の神器。もう1人のタロー。そしてまだ存在する未知の世界。俺の異世界での物語はまだ終わらない。むしろ――ここからが本当の始まりだった。




