第23話 表裏一体でしょうか
スマホの画面に表示された文字を俺は何度も見返していた。
【召喚理由:もう1人のタローを止めるため】
「俺があいつを止めるために召喚された? なぜ?」
自分のことなのに意味がわからない。
「どういうこと?」
モモが画面を覗き込む。黒い騎士は黙ったまま、画面を見つめている。
「お前なら何かわかるんじゃないのか?」
「……いや」
黒い騎士は首を横に振る。
「私も知らなかった」
「知らなかった?」
「ああ。私が知っていたのは、お前をこの世界へ呼ぶ必要があるということだけだ」
俺は眉をひそめる。
「俺を召喚した本当の目的は誰にも知らされてなかったってことか?」
「恐らくな」
そのとき、スマホが震えた。
『召喚記録の追加情報を開示します』
新しい文字が画面に表示される。
【召喚対象:タロー】
【召喚元:地球】
【召喚先:ライトディア】
【召喚理由:もう1人のタローを止めるため】
【神器:異界の神器】
【適合者:タロー】
「神器……」
俺は手元のスマホを見る。
「俺があいつを止めるためにこの神器を持ってきたってことか?」
「そう考えるのが自然ね」
グレイプが腕を組む。
「でもだったらどうしてあいつはタローと同じ姿をしているの?」
「それは……」
俺にも答えられない。そのとき、部屋の奥から小さな音が聞こえた。
——カチッ。
「何?」
モモが剣を構える。
「誰かいるのか?」
俺たちは音のした方を見る。すると、壁に埋め込まれていた装置が突然光り始めた。
『新たな記録を検出』
『召喚実験・第1段階』
「召喚実験?」
映像が空中に浮かび上がる。そこには巨大な魔法陣が描かれた部屋が映っていた。
『異界から対象を召喚します』
『対象:タロー』
俺は息を呑む。
「これ……俺の召喚実験だ」
映像の中で、魔法陣が光る。そして――。
『召喚成功』
次の瞬間、映像の中に俺が現れた。
「……」
言葉が出なかった。
「本当にタローさんですね……」
レモンが小さな声で呟く。だが映像はそこで終わらなかった。
『第2段階へ移行します』
「第2段階?」
映像の中で別の魔法陣が起動する。その中央に現れたのは――。
「あいつは……」
もう1人のタローだった。
「最初から2人召喚するつもりだったのか?」
黒い騎士が映像を睨む。
「違う」
「え?」
「これは召喚ではない」
黒い騎士が指を差す。
「もう1人のタローは、異界から呼ばれた存在じゃない」
「じゃあ何なんだ?」
映像の中で、研究者らしき人物が何かを操作している。
『実験体の生成に成功』
『対象の外見、記憶、能力を再現』
「……再現?」
俺は目を見開く。
「待て。まさか……」
もう1人のタローが映像の中で目を開ける。
『個体名:タロー・コピー』
「コピー……?」
グレイプが呟く。
「つまりあいつはタローの偽物ってこと?」
俺は映像を見つめる。
「俺の……コピー……?」
だがその直後。
『第3段階を開始します』
画面が切り替わる。
『異界の神器を接続』
「神器を?」
映像の中のコピーが俺の持つ神器と同じ形の黒い板を握る。
『適合率:98%』
「なっ、98%だって……?」
俺は自分のスマホを見る。
【神器適合率:50%】
「俺よりもずっと高いじゃないか。遥かに高い」
黒い騎士の表情が険しくなる。
「だからお前を召喚したのか……」
「どういうことだ?」
「お前と同じ存在が神器に適合してしまった」
黒い騎士が続ける。
「だから本物のお前を別の世界から呼び出し対抗させようとした」
「……」
俺は拳を握る。
「そんな……そんな理由で俺を呼んだのかよ」
その瞬間、映像が乱れ始めた。
『警告』
『実験体が制御領域を突破』
『緊急停止を実行します』
映像の中のコピーがこちらを向く。
『私は偽物ではない』
「……!」
まるでこちらの様子が見えているかのようだった。
『私はタローだ』
映像が完全に消える。
「……」
誰も言葉を発しない。そのとき、スマホが震えた。
『外部通信を検出』
画面に文字が表示される。
【通信元:もう1人のタロー】
『私は偽物ではない』
『私こそが本当のタローだ』
「何だよ、それ……」
俺はスマホを握り締める。
『王立異界研究施設の最深部へ来い』
『そこでお前に本当の記憶を返す』
「本当の記憶?」
俺が呟いた瞬間、通信が切れた。そしてスマホに新しいクエストが表示される。
『メインクエストを更新します』
『もう1人のタローの真実を確認せよ』
【目的地:王立異界研究施設・最深部】
【推奨パーティ人数:5】
「やっぱり行くしかないか」
俺は神器を握る。
「せっかくここまで来たんだ。あいつが何者なのか、この目で直接確かめてやる。待ってろよもう1人の俺!」
黒い騎士が頷く。
「だが気をつけろ」
「気をつけろって……何に気をつければいいんだ?」
「最深部にはこの施設が隠していた最後の実験記録がある」
「ああ……なるほど。それを見れば全部わかるってわけか?」
「恐らくな」
俺たちは部屋の奥へ進む。その先には、巨大な階段が続いていた。俺は一度だけ振り返る。そこにはもう何も映っていない水晶が静かに置かれていた。




