第22話 研究施設でした
俺は消えた映像を見つめたまま動けなかった。もう1人のタロー。あいつは俺がここへ来ることを知っていた。それだけじゃない。まるで俺がここまで来ることを最初から待っていたようだった。
「タロー、大丈夫?」
モモが心配そうに声をかける。
「ああ、大丈夫だ」
俺はスマホを見る。
『通信相手:もう1人のタロー』
しかし、もう通信は繋がっていない。
「それにしても、ここは何なの?」
グレイプが周囲を見回す。
「壁一面に変な魔道具があるけど……」
「何だこれ……」
俺は近くの魔道具へスマホを向ける。
『対象を解析します』
【名称:異界観測装置】
【状態:停止中】
【用途:異界の観測】
「異界を観測するための装置らしい」
「ここではずっと異界を見ていたということでしょうか?」
レモンが尋ねる。
「そうみたいだな」
俺は部屋の奥へ進む。そこには、さらに大きな装置が置かれていた。中央には巨大な円形の水晶があり、その周囲には無数の魔石が埋め込まれている。俺が近づいた瞬間――。
——ピィィィン!
『異界観測装置を検出』
『管理者権限を確認しました』
『起動しますか?』
『YES』
『NO』
「またYESとNOか」
「もちろんYESでしょ!」
グレイプが即答する。
「ちょっと待て。本当にそれでいいのか?」
「だって気になるじゃない!」
「まあ……確かに」
俺は『YES』をタップした。
——ゴゴゴゴゴゴ……。
装置が動き始める。
「おお……」
魔石が次々と光り、水晶の中に映像が浮かび上がった。そこに映っていたのは地球だった。映像には俺がいた世界の街が映っている。だが、さっきとは違う。そこには大量の黒い亀裂が空中に浮かんでいた。
「何だ……あれ?」
俺が呟く。黒い亀裂から何かがこちらの世界へ入り込もうとしている。
「魔力の反応があります!」
レモンが叫ぶ。スマホが震える。
『世界の境界に異常を確認』
【境界安定度:31%】
【崩壊危険度:A】
「境界が……崩れかけてる?」
黒い騎士が険しい表情になる。
「ああ」
「知ってたのか?」
「以前からな」
「だったらどうして教えてくれなかった?」
「話してもお前にはどうすることもできなかったからだ」
「それでも――」
俺が言い返そうとしたとき、装置の映像が切り替わった。そこに映っていたのは、1人の男だった。
「……!」
俺は息を呑む。またあいつだ。もう1人のタローが映像の中に立っている。
『観測記録、最終段階へ移行』
俺と同じ声だった。
「何なんだよ……」
映像の中のタローがこちらを見る。
『こちら側からの干渉は成功した』
「こちら側?」
俺は画面に近づく。
『次は、そちら側へ行く』
その瞬間、映像の後ろに巨大な黒い影が現れた。
「何だ、あれ……」
影の姿を確認する前に、映像が途切れた。
『警告』
『異界観測装置への外部干渉を検出』
『緊急停止します』
——ブツン。
部屋が暗くなる。
「……」
「何だったの?」
グレイプが小さな声で言う。すると黒い騎士が口を開いた。
「今の映像に映っていたものは恐らく……災厄の一部だ」
「災厄?」
「ああ」
黒い騎士が俺を見る。
「この世界へ近づいている存在だ」
「ならもう1人のタローはその災厄と関係してるのか?」
「……そうだ」
「やっぱりな」
俺は拳を握る。
「だったらあいつを探さないと」
「待って」
モモが口を挟む。
「まだ調べられる場所があるわ」
「どこだ?」
モモが部屋の奥を指差す。
「あそこ」
そこには小さな扉があった。俺はスマホを向ける。
『隠し部屋を検出』
【名称:召喚記録保管室】
「召喚記録……?」
俺は扉を見る。
「行きましょう」
レモンが頷く。俺は扉に手を伸ばす。
——カチッ。
扉が開いた。
中には大量の記録媒体が並んでいた。
「凄い数ね……」
グレイプが目を輝かせる。
「これ全部調べるの?」
「そうだな」
俺はスマホを取り出す。
「スマホに調べてもらおう」
『召喚記録を検索します』
『対象名を入力してください』
【タロー】
俺は自分の名前を入力する。
『検索中……』
『該当記録を発見しました』
「……!」
画面に、1つの記録が表示される。
【召喚対象:タロー】
【召喚元:地球】
【召喚先:ライトディア】
【召喚者:???】
【召喚理由:???】
「ん? 召喚者が表示されてないな……。何でだろう」
そしてその下に新しい項目が表示された。
『召喚記録の封印を解除するには、召喚者本人の認証が必要です』
「召喚者本人の……?」
俺は黒い騎士を見る。
「お前じゃないのか?」
「違う」
黒い騎士は首を横に振る。
「私が行ったのは召喚後の誘導だけだ」
「それなら本当に俺を召喚したのは誰なんだ?」
黒い騎士は答えない。そのとき、スマホが震えた。
『召喚記録への不正アクセスを検出』
『外部から認証要求を受信しました』
「外部?」
画面に文字が浮かぶ。
【認証者:もう1人のタロー】
「何なんだよあいつ……」
そして、次の瞬間――。
『召喚記録を開示します』
画面にたった1行の文字が表示された。
【召喚理由:もう1人のタローを止めるため】
「は……?」
俺は言葉を失った。




