第21話 地下に行きます
ダンジョンを出た俺たちは王都へ向かって歩いていた。ダンジョンへ入ったときよりも俺の頭の中はずっと混乱している。もう1人のタロー。俺を召喚した黒い騎士。そして世界の境界と異界の神器。どれも気になることばかりだ。
「タロー、さっきからずっとスマホを見てるけど、何か表示されてるの?」
モモが隣から覗き込む。
「いや、特に何もない」
俺は画面を消す。
「ただ……あいつからまた連絡が来ないかと思って」
「もう1人のタローね」
あの声が頭から離れない。俺と同じ顔。俺と同じ声。そして俺をずっと待っていたという言葉。
「一体何者なんだ」
「それは王立図書館の地下に行けばわかる」
前を歩いていた黒い騎士が振り返らずに言う。
「本当か?」
「全てではない。だがお前が知るべきことはある」
「だったら急ごう」
俺たちは王都へ向かう速度を上げた。しばらく歩くと遠くに王都の城壁が見えてきた。
「やっと帰ってきたわね!」
グレイプが嬉しそうに叫ぶ。
「ダンジョンは楽しかったけど、やっぱり街もいいわ!」
「グレイプさんは魔物と戦うのが楽しいんですか?」
「勿論よ!」
「普通は逆だと思うけどな……」
そんな会話をしながら門を通り、俺たちは王都の中へ入った。街には多くの人が行き交っている。ダンジョンにいたときとは違い、平和な光景だ。俺は少し安心した。
「まずは王立図書館だな」
「そうね」
モモが頷く。
「場所はわかるわ」
「じゃあ案内を頼む」
モモを先頭に俺たちは王立図書館へ向かった。しばらくして巨大な建物が見えてくる。王立図書館。何度見ても凄い建物だ。
「ここに地下があるのよね?」
グレイプが建物を見上げる。
「本当にそんな場所があるのかしら」
「隠されてるって言ってたからな」
俺はスマホを見る。
『目的地を確認しました』
【王立図書館】
『地下遺跡への入口を検索します』
スマホのマップに新しい表示が現れた。
『隠し入口:1』
「見つかった」
「え?」
俺はスマホを全員に見せる。
「ここだ」
表示された場所は図書館の奥にある本棚だった。
「本棚?」
「まさか……」
グレイプが近づく。
「この本棚を動かすとか?」
「そんなベタな仕掛けあるか?」
「あるかもしれないでしょう!」
俺は本棚を調べる。しかし、どこにも動かせそうな場所はない。
「普通の本棚に見えますが……」
レモンが首を傾げる。
「スマホで見てみたら?」
モモに言われ、俺は本棚へスマホを向けた。
『隠し装置を検出しました』
『認証を開始します』
——ピッ。
スマホの画面に表示が出る。
【認証条件:異界の神器】
「近づければいいのか?」
俺が本棚へスマホを近づける。
——カチッ。
突然、本棚の奥から音がした。
——ゴゴゴゴゴ……。
「本当に動いた!」
グレイプが目を輝かせる。
「やっぱりこういう仕掛けだったのね! だから言ったでしょう?」
本棚がゆっくりと横へ動いていく。その奥には、地下へ続く階段があった。
「こんなところに階段が……」
レモンが階段を見つめる。階段の先は暗く、まるで別の場所へ繋がっているようだった。
「行こう」
俺たちは階段を下り始める。しばらく進むと、地下に巨大な扉が現れた。扉には、ダンジョンの最深部で見たものと同じ紋様が刻まれている。
「これ……ダンジョンにあった扉と同じね」
モモが呟く。
「やっぱりこの場所とダンジョンには関係があるんだな」
俺はスマホを向ける。
『重要施設を検出しました』
【名称:王立異界研究施設】
【状態:封印中】
【管理者:???】
「異界研究施設……?」
グレイプが驚く。
「王都の地下にこんなものがあったなんて……」
「昔から存在していたのか?」
黒い騎士を見る。
「ああ」
「誰が作った?」
「この世界の人間だ」
「何のために?」
「異界へ干渉するためだ」
俺は扉を見る。
「ならここで俺が召喚されたのか?」
「違う」
黒い騎士は首を横に振る。
「ここは召喚を行った場所ではない」
「じゃあ何なんだ?」
「召喚された者を――」
黒い騎士が扉へ手を伸ばす。
「観測するための場所だ」
——ゴゴゴゴゴ……。
扉が開き始めた。
「観測?」
俺が聞き返す。しかし、黒い騎士は答えない。扉の向こうには、巨大な部屋が広がっていた。壁一面に、無数の魔道具が並んでいる。そして中央には透明な水晶が置かれていた。俺が近づいた瞬間――。
——ピィィィン!
『異界の神器を確認』
『管理者権限を確認しました』
『過去の記録を再生します』
「過去の記録?」
水晶が光り始める。そして空中に映像が浮かび上がった。
「……!」
そこに映っていたのは見覚えのある場所だった。俺のいた世界——地球だ。その映像の中に、1人の男が立っている。顔は見えない。しかし、その男の隣には――。
「……俺?」
俺と同じ顔をした人物が立っていた。
「また……あいつか」
映像の中の男が口を開く。
『召喚実験を開始する』
俺は息を呑む。
『対象、タロー。異界への転移を確認』
『神器との接続を開始』
画面に次々と文字が表示される。
「待て……」
俺は映像に近づく。その瞬間、映像の中の『もう1人のタロー』がこちらを向いた。そして――笑った。
『やっと、ここまで来たんだね』
「……!」
スマホが激しく震える。
『過去記録への外部干渉を検出』
『通信を確立します』
「まさか……」
画面に文字が浮かぶ。
『通信相手:もう1人のタロー』
そして最後に1行。
『次は私のところまで来い』
映像が消える。
部屋に静寂が戻った。
「あいつ……」
俺はスマホを握り締める。知らないうちにもう1人のタローのいる場所へ近づいているらしい。




