第2話 こんなアプリは知りません
『アプリ:ステータス解析&パーティ管理がインストールされました』
勝手にインストールされているだと? 試しにアプリを開き、カメラをグレイプに向けてみる。画面上にポップアップが表示された。
【名前:グレイプ】
【職業:冒険者、魔術師】
【魔力:S】
「……マジかよ」
思わず声が漏れた。この魔力——只者ではないだろう。素質だけなら本当に天才魔術師じゃないか。というかこのスマホ、異世界を攻略するためのぶっ壊れツールに進化し始めているらしい。もしかして、パーティ全員のステータスが見られるのだろうか。試しにレモンにもカメラを向けてみる。
【名前:レモン】
【職業:???】
【??:???】
「……うん? どういうことだ……?」
文字化けだろうか。もう一度レモンにカメラを向ける。
【名前:レモン】
【職業:???】
【??:???】
さっきと同じポップアップが表示される。これは一体どういうことだろうか。もう一度試してみる。
【名前:レモン】
【職業:???】
【??:???】
やはり偶然ではない。何度やっても同じだ。バグなのかバグではないのか。そもそもこのアプリは何なのか。
「タローさん、どうかしました?」
レモンが首をかしげる。不審に思われただろうか。
「いや、何でもない。さあ、次は4人目の仲間を探しに行こう」
「そうですね。パーティを組むなら最低でも4人メンバーがほしいですよね」
グレイプが俺の持っているスマホを指した。
「さっきから気になってたんだけど、それ何なの? 見たことないわ」
「ああ、これはスマホというんだ」
「スマホ?」
グレイプはきょとんとし、レモンが思い出したようにあっと声を上げた。
「確かにさっきそう仰ってましたよね、スマホと」
再び視線を感じた。さっきの視線はグレイプのものではなかったのか。しかし周囲を見回しても姿は見えない。
「何? もしかして私の追っかけでもいるの?」
グレイプが目を輝かせる。今は無名でこれから活躍するならまだ追っかけはいないんじゃないか、と心の中でツッコんでおいた。
「いや……何でもない」
視線を感じた気がしたが、気の所為か。急に異世界に来たから疲れているのかもしれない。
それにしてもこのスマホ、謎が多い。異世界なのになぜ使えるのか、なぜビームを打てるのか、なぜインストールした覚えのないアプリがインストールされているのか。わからないことだらけだ。ただ1つ言えるのは、このスマホはこれから異世界で生活する上で役に立つということだ。
◇
俺たちは4人目の仲間を探すため、その場を後にした。
「どんな方を探しましょう? まだいないタイプの方がいいですよね」
レモンが隣を歩きながら尋ねる。
「そうだな。グレイプが魔術師だから、前衛を任せられる人がいいんじゃないか?」
「それなら剣士がいいわね!」
グレイプが腕を組んで頷く。
「私が強力な魔法で敵を倒して、前衛が敵を引きつける。完璧な作戦よ!」
「まだ戦うところを見てないから何とも言えないけどな」
ステータスは見たから魔力が高いということは知ってるけど。
「失礼ね! 私は天才魔術師よ!」
「はいはい」
「絶対信じてないでしょ!」
グレイプが頬を膨らませる。賑やかだ。ついさっきまで俺は知らない世界でたった1人だった。今では2人の少女と一緒に歩いている。異世界に来た直後は、これからどうしていけばいいのかと不安だった。だが今はそれほど不安を感じていない。スマホも使える。そして一緒に行動してくれる仲間もできた。
「それにしても、タローさんは不思議な方ですよね」
「俺が?」
「はい。異世界から来たようなことを仰っていましたし」
「……え?」
足が止まった。レモンも立ち止まる。
「そんなこと言ったっけ?」
「はい。冒険者ギルドにいたときに」
「そうだったけ」
よく思い出してみると確かに言っていた。言っていたというより言いかけていた。そもそも俺は違う世界から来たことを他人に話したつもりはなかった。
するとグレイプが首を傾げた。
「異世界から来たって、どういう意味?」
「いや……」
どう説明すればいいだろうか。俺が元いた世界には魔法なんて存在しなかった。当然、スマホだってこの世界の人間には理解できないだろうし。
「実は遠い国から来たんだ」
「遠い国?」
「ああ。かなり遠い東のところからね」
嘘ではない。地球にある国・日本、つまり遠い世界の遠い東の国だから間違ってはいない。異世界から来たとはっきり言っても信じてもらえるとは思えないのでぼかした。
「なるほどね。だから変な物を持っているのね」
グレイプが俺のスマホを覗き込む。
「変な物って言うなよ。便利なんだから」
「便利?」
「そう。例えば――」
俺はスマホのカメラを起動する。
「こうやって写真を撮れる」
——カシャッ。
「きゃっ!」
レモンが驚いて飛び退いた。
「ご、ごめんなさい! 聞いたことない音だからびっくりしちゃって!」
「いいよいいよ。気にしないで。写真を撮るときに出る音なんだ」
「写真?」
「これ」
撮ったばかりのレモンの写真を見せる。
「これは……!」
レモンが目を輝かせた。
「私が写っています!」
「そうだな。バッチリ写ってるな」
「すごいです! どうやって中に入れたんですか?」
「入れたんじゃない。これは――」
「待って!」
グレイプが俺の肩を掴んだ。
「今の魔法? それとも魔道具?」
「どっちでもないけど……」
「じゃあ一体何!?」
「スマホだって」
「だからスマホって何なのよ!」
グレイプが詰め寄ってくる。そのときだった。




