第1話 異世界に転移しました
ある日突然、異世界に転移した。誰もが一度はそんな経験をするだろう。丁度俺も今そんな経験をしている。さっきまでいつも通りの生活をしていたはずなのに、気づいたら見知らぬ場所にいた。辺りを散策した結果、ここは異世界だとわかった。この国の名前はライトディアというそうだが、地球にそんな国はないし、何より魔法が存在しているからだ。
手元にあるのはスマホのみ。流石に異世界でスマホは使えないだろうと思ったが、なんと電源が入った。写真を撮ることもできるしネットを見ることもできる。動作に支障はない。異常も見られない。これはありがたい。現代人はスマホに頼りきりの生活にすっかり慣れている。スマホがない生活は辛い、耐えられないと感じる人は多いのではないだろうか。ただ、元の世界と連絡が繋がらない。メールも電話も繋がらない。元の世界に帰る方法もわからない。なのでとりあえずここで生活するための準備をしようと思う。
まずは職だ。近くに冒険者ギルドがあると聞いたのでそこに向かうことにする。冒険者ギルドに登録すれば冒険者と認められるとのことだ。少し歩いたらギルドに着いたので早速受付に向かった。登録を済ませ、メンバーを募集しているパーティを探す。一面に貼られた募集ポスターを見ていると、後ろから声をかけられた。
「パーティをお探しですか?」
後ろを振り向くと、金髪ツインテールの少女がいた。
「もし良ければ私のパーティに入っていただけませんか? 一応ポスターを貼ったりチラシを配ったりしているのですが、なかなか人が来なくて」
その少女は小柄で華奢だ。失礼だが戦えそうな雰囲気ではない。彼女のパーティに人が集まらなくても不思議ではない。
「むしろ入れてもらえるなら助かるよ。この世界に——あっいや、ここに来たばかりだから右も左もわからなくてね」
違う世界から来たと言っても到底信じられないだろう。
「ありがとうございます! 私はレモンといいます。よろしくお願いします」
少女は深々と頭を下げた。丁寧なお辞儀だ。
「俺はタロー。よろしく」
たった2人のパーティではレモンも心許ないだろう。メンバーを集めなければならない。
「パーティのメンバー探し、俺にも手伝わせてくれないかな。人数は多い方が困らないと思うし」
「パーティに入っていただけるだけでなく、メンバーを探してくださるとは! なんとお優しい方なのでしょう!」
「買い被りすぎだよ。パーティの一員なら当たり前さ」
こうして2人でパーティのメンバーを探すことになった。ポスターを貼れるだけ貼り、チラシを配り、パーティを探していそうな人に声をかけ。
「なかなか集まりませんね……」
「大丈夫。きっと沢山集まるよ」
そのとき、どこからか悲鳴が聞こえた。
「何の騒ぎだろう」
「皆さんが心配です。行ってみましょう!」
声の聞こえる方へ走っていくと、そこは騒然としていた。盗賊が出たようだ。数人の男たちが武器を振り回し、暴れまわっている。
「きゃあ!」
「こいつがどうなってもいいのか!」
盗賊の1人が幼い女の子を人質に取った。
「その子を放してください! 卑怯ですよ!」
レモンが盗賊に訴えるが、盗賊はニヤリと笑うだけで人質を放そうとしない。突然、スマホが光りだした。ライトがついたのではなく、スマホ全体が光っている。
「何の光だ?」
盗賊も困惑している。
「どうなってんだ……」
スマホの画面を見ると、急に光のビームのようなものが出た。
「あぶねっ」
危うく顔面にビームが直撃しそうになった。もしやこれは——。
「そこの盗賊、俺が今持っている物をよく見ろ」
「あぁ?」
盗賊の顔にスマホの画面を向ける。スマホの画面から放たれているビームは盗賊の顔面に直撃した。
「目がぁ!! 目があぁぁぁぁーー!!」
盗賊は目を覆い、のたうち回っている。みっともない姿だ。人質は無事解放された。それを見て他の盗賊たちが慌てて逃げようとする。
「逃がすものか!」
全員にスマホのビームを当て、まとめて取り押さえた。
一部始終を見ていた周囲がざわめく。
「強すぎる……!」
「只者じゃないな」
「あの板は何だ?」
「人がまるで将棋のようだ」
ゴミじゃなくて?
「凄いです! この人数をあっという間に倒してしまうなんて」
「凄いのは俺じゃなくて俺のスマホじゃないかな」
ふと視線を感じた。誰かが物陰からこちらを見ている——そんな気がした。気配のした方へ視線を向けるが、姿は見えない。
「どうかしましたか?」
レモンが不思議そうにこちらを見た。
「誰かに見られてる気がしたんだけど……気の所為かな」
「気の所為じゃないわ」
突如として現れたのは紫髪ポニーテールの少女だった。
「えっと……どちら様で?」
尋ねると、その少女はフフンと胸を張った。その動きに沿って大きなポニーテルが揺れる。
「天才魔術師グレイプよ。今はまだ無名だけど、これから活躍して名を広めるの!」
「なるほど」
向上心が高いことと自信があることはいいことだと思う。
「今の見てたわよ。なかなかやるじゃない」
「ま、まあこのスマホのおかげであって俺はほとんど何もしてないというか……」
スマホがチートというか。
「私もあなたたちのパーティに入れてもらえないかしら? パーティメンバーを探しているんでしょう? 」
「うちのパーティに入りたいと?」
これで3人目か。
「勿論大歓迎ですよ!」
レモンが嬉しそうに声を弾ませた。
「よろしくねっ」
グレイプは右目でウインクした。
「私はレモン、こちらはタローさんです。よろしくお願いします」
「よろしく、グレイプ。これで3人目だな」
そのとき、手の中でスマホが震えた。画面を見ると、見たことのないアイコンがホーム画面にあった。




