第16話 召喚されました
【タローとの関係:召喚者】
俺はスマホの画面を見つめる。頭の中に、いくつもの疑問が浮かんでくる。
「どういう意味よ?」
グレイプが黒い騎士を睨む。
「タローをこの世界へ呼んだのが……あなたなの?」
黒い騎士は答えない。
「久しぶりだな」
「久しぶり……?」
俺は眉をひそめる。
「俺はお前に会った覚えなんてないぞ」
「そうだろうな」
黒い騎士は苦笑する。
「お前が私のことを覚えていないのは当然だ」
「どういうこと?」
「お前がこの世界に来たとき、私は直接お前の前に姿を現していない」
俺はスマホを握り締める。
「じゃあ、俺を召喚したのは本当にお前なのか?」
「ああ」
即答だった。
「私がお前をこの世界へ呼んだ」
「……!」
レモンとモモも驚いた表情を浮かべる。
「では、タローさんがこの世界に来た原因は……」
「私だ」
黒い騎士が答える。
「待てよ」
俺は一歩前へ出る。
「何で俺を呼んだ?」
「それを話すにはまずこの世界について知ってもらう必要がある」
「だったら全部話してくれ!」
俺が叫ぶ。
「俺は元の世界へ帰りたいんだ!」
黒い騎士はしばらく黙っていた。そして――。
「まだ帰ることはできない」
「何でだよ!」
「お前が持っている神器がこの世界と繋がっているからだ」
俺は手元の神器を見る。
「このスマホが?」
「ああ。その神器はただの道具ではない」
「だったら何なんだ?」
「世界の境界を越えるための鍵だ」
「鍵……?」
黒い騎士が頷く。
「異界の神器を持つ者が現れると世界の境界に歪みが生じる。そしてその歪みを利用して別の世界へ干渉できる」
俺は思い出す。『異界渡航記』に書かれていた言葉。——『異界の神器を持つ者と、その器となる者が現れるとき、世界の境界は揺らぐ』
「……器って、何なんだ?」
「それは――」
黒い騎士が俺たちを見る。
「この世界で神器の力を受け止める存在のことだ」
その瞬間、スマホが震えた。
『重要情報を解析します』
『異界の神器と適合する存在を検出』
『対象:レモン』
さらに画面が更新される。
【神器適合候補:レモン】
【適合率:???】
「レモンが器ってことか?」
俺が黒い騎士を見る。
「正確には、まだわからない」
「まだ?」
「神器はお前を選んだ。そしてその神器がお前と共にいる3人の中から器となる可能性を探している」
俺はレモンを見る。
「じゃあ、モモは?」
スマホが震える。
『追加解析を実行します』
【神器適合候補:モモ】
【適合率:???】
「モモも……?」
モモは自分の手を見つめる。
「あたしも器の候補ってこと?」
「そういうことだ」
「だったら、グレイプは?」
「もちろん私もよね!」
グレイプが勢いよく前へ出る。
「天才魔術師なんだから、神器くらい使えるわ!」
「いや、そういう話じゃないだろ……」
俺が呆れていると、スマホが震えた。
『解析を開始します』
【神器適合候補:グレイプ】
【適合率:0%】
「……」
「……」
「…………」
グレイプが固まった。
「ちょっと待って」
「うん」
「今の表示は間違いよね? もう1回!」
『再解析します』
【神器適合候補:グレイプ】
【適合率:0%】
「何でよーーーっ!」
グレイプの叫び声が広間に響き渡った。
「私は天才魔術師なのよ!?」
「それは関係ないんじゃないかな……」
モモが小さく笑う。
「グレイプらしいわね」
「笑わないでよ!」
少しだけ空気が和らいだ。しかし、俺はすぐに黒い騎士へ視線を戻す。
「それで?」
「何だ?」
「俺を召喚した理由だよ」
黒い騎士の表情が変わった。
「この世界には、近いうちに大きな災厄が訪れる」
「災厄?」
「まだ詳しいことは言えない。だがその災厄に対抗するには異界の神器が必要だった」
「だから俺を呼んだのか」
「ああ」
「勝手すぎるだろ!」
思わず声を荒らげる。
「俺には元の世界での生活があったんだぞ!」
「すまない」
黒い騎士が頭を下げた。
「謝って済む問題か!?」
俺は拳を握る。
「俺は勇者になるつもりなんてない。世界を救うなんて約束もしてない」
「わかっている」
「だったら――」
「それでも、お前に頼むしかなかった」
黒い騎士の声は静かだった。
「この世界にはもう時間が残されていない」
スマホが突然震えた。
『緊急クエストが発生しました』
『世界崩壊までの残り時間を計算しています』
「……世界崩壊?」
画面には、見たことのないカウント表示が現れる。
【残り時間:???】
数字は表示されない。ただ、赤い文字だけが点滅していた。
『解析不能』
「……おい」
俺は黒い騎士を見る。
「まさか、お前はこれを知ってたのか?」
「ああ」
黒い騎士は答えた。
「だから、お前を呼んだ」
その瞬間、広間の奥から大きな音が響いた。
——ゴゴゴゴゴゴ……。
「また何か来るわよ!」
グレイプが杖を構える。黒い騎士も剣を握る。
「話の続きは後だ」
「何が来るんだ?」
「このダンジョンの最深部を守る存在だ」
「それってまさか……」
スマホに新しい表示が現れる。
『強力な魔力反応を検出』
【推定危険度:測定不能】
俺は神器を構える。
「今まで以上に強い奴が出てくる……ということか?」
広間の奥で巨大な扉がゆっくりと開いていく。その向こうから、凄まじい魔力が溢れ出した。そして――。
『新たな敵を確認しました』
『対象名:???』
『注意』
『この存在は、現在のパーティでは攻略不可能です』
「……は?」
俺たちは一斉に画面を見る。
「攻略不可能って、どういうことだよ! おい!」
スマホは答えない。ただ、黒い騎士だけが静かに口を開いた。
「だからこそ、私がここにいる」
その瞬間、扉の向こうから巨大な影が姿を現した。




