第14話 地下へ進みます
巨大な扉の向こうには、地下へと続く長い階段があった。階段の先は真っ暗で、どこまで続いているのかまるでわからない。
「……この先に何があるの?」
グレイプが不安そうに階段を覗き込む。
「スマホのマップにも表示されてないな」
俺は画面を確認する。目的地は相変わらず『???』のままだ。
「推奨探索難易度も測定不能だし……」
「それだけ危険ってことですね」
レモンが杖を握り締める。
「でも、行くんでしょう?」
モモが俺を見る。
「ここまで来たんだ。今さら引き返すのもな」
俺が一歩踏み出した、そのときだった。
「待って」
銀髪の少女が声をかけてきた。
「この先へ進むなら、覚悟しておいたほうがいいわ」
「何があるんだ?」
「あなたが探している答えの一部がある」
「俺が元の世界へ帰る方法も?」
「それは……」
少女が少しだけ目を伏せる。
「あなた次第ね」
「何か知ってるなら教えてくれよ」
「今は教えられないわ」
「どうして?」
「あなたがまだ、その力を使いこなせていないから」
少女の視線が俺のスマホへ向く。
「その神器は、あなたが思っている以上に危険なものよ」
「危険……?」
「ええ」
少女は微笑む。
「でも、あなたなら大丈夫でしょう」
「根拠は?」
「私がそう思ったから」
「それ根拠になってないだろ」
少女はクスッと笑った。
「それじゃあ、またね」
「え?」
次の瞬間、少女の身体が淡い光に包まれた。
「ちょっと待て!」
俺が手を伸ばす。しかし、少女の姿は光の中へ消えていった。
「……消えた」
「本当に何者なのかしら」
グレイプが腕を組む。
「少なくとも普通の人間ではなさそうですね」
レモンが呟く。
「モモはどう思う?」
「あたし?」
モモは少女が消えた場所を見る。
「敵ではないと思うわ」
「どうして?」
「敵なら、わざわざあたしたちをここまで案内する必要がないもの」
「確かに」
俺はスマホを見る。すると、画面に新しい通知が表示された。
『特殊イベントを確認しました』
『銀髪の少女との接触を記録します』
『人物情報を更新しました』
【名前:???】
【種族:???】
【危険度:測定不能】
【所属:???】
「……結局何もわからないじゃん」
「でも、危険度は測定不能なのね」
グレイプが画面を覗き込む。
「さっきのダンジョンのボスと同じじゃない」
「それより上かもしれないな」
俺はスマホをポケットへしまった。
「とにかく、行こう」
4人で階段を下りていく。
階段は思った以上に長かった。しばらく歩いていると、ダンジョンの魔石とは違う青白い光が壁に浮かび始めた。
「何だこれ?」
「魔石……ではないわね」
グレイプが近づいて確認する。
「魔力を感じるけど、こんなの見たことないわ」
俺がスマホを向ける。
『対象を解析します』
【名称:異界鉱石】
【分類:特殊物質】
【魔力:測定不能】
【用途:不明】
「異界鉱石?」
「異界って……」
レモンが驚いた顔をする。
「俺たちが探している異界と同じ言葉だな」
壁には青白い鉱石が無数に埋め込まれている。もしかすると、この場所は普通のダンジョンじゃないのかもしれない。
「ちょっと待って」
モモが足を止めた。
「何か聞こえる」
「また足音?」
俺たちが耳を澄ます。
——カン……カン……。
何かを叩くような音が聞こえてくる。
「誰かいるのか?」
俺が声をかける。返事はない。しかし、音は少しずつ近づいてくる。
——カン……カン……。
「来るわよ」
モモが剣を抜く。
「戦闘準備!」
グレイプも杖を構えた。
「レモンは俺の後ろに」
「はい!」
暗闇から何かが姿を現した。
「……人?」
それは人間のような姿をしていた。しかし、全身が黒い鎧に覆われている。顔も見えない。そして、その手には巨大な剣が握られていた。俺はスマホを向ける。
『対象を解析します』
『解析を開始――』
画面が一瞬だけ点滅した。
『エラー』
『対象の解析に失敗しました』
「……解析できない?」
黒い騎士が剣を構える。
「こいつ……」
嫌な予感がする。次の瞬間、スマホが激しく震えた。
『警告』
『未知の存在を確認しました』
『対象の危険度を測定できません』
『戦闘を推奨しません』
「戦うなって言われても……もう来ちゃってるよ」
黒い騎士が一歩踏み出す。
——ズン。
その瞬間、空気が震えた。
「……これは強いわね」
モモが呟く。
「ええ。さっきのオーガとは比べものにならないでしょうね」
グレイプの額に汗が浮かぶ。
「どうする、タロー?」
スマホを見る。すると、今まで表示されたことのない項目が画面に浮かび上がった。
『パーティスキル《異界の絆》を使用できます』
『使用しますか?』
【YES】
【NO】
「……来たな」
俺は画面を見つめる。
「これが、さっき解放されたパーティスキルか」
「使うのですか?」
レモンが尋ねる。
「ああ」
俺は【YES】をタップした。その瞬間――。4人の身体から光が溢れ出した。
『パーティスキル《異界の絆》を発動します』
『パーティメンバーの能力を統合します』
『特殊効果を付与します』
【全能力:上昇】
【魔力:上昇】
【身体能力:上昇】
【???:解放】
「最後の何だよ!?」
俺が叫んだ直後、黒い騎士が消えた。
「え?」
次の瞬間、目の前に巨大な剣が迫っていた。
——ガキィィィン!
「うわっ!」
俺は反射的にスマホを掲げた。
すると、スマホから強烈な光が放たれ、黒い騎士の剣を弾き飛ばした。
「……今の、俺がやったのか?」
スマホの画面に新しい文字が表示される。
『神器防衛機能を確認しました』
『新機能を解放します』
『機能解放:神器武装』
「神器武装……?」
俺が呟いた瞬間、スマホが眩い光を放つ。そして、その光はゆっくりと形を変えていった。
「……嘘だろ」
俺の手の中に現れたのは――。スマホによく似た黒い板。しかし、その形は明らかに武器だった。




