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食事を終えると俺たちは、調理場へ移動した。
リュカはシンクを横から見える戸棚の影にそっと潜み、俺は出入口側、調理台のある方から静かにシンクと対面するような形でしゃがみ込む。
周りはまだ客の話し声や、オヤジの料理する音など結構賑やかで、昼間の明るい時間なのも相まって、霊が出るような空気感は全くなかった。
本当に出るんだろうか…。
先程食べた食事の満腹感も相まって、眠気を我慢して、欠伸を噛み殺す。
いまいち緊張感に欠けながら、じっとシンクを眺めていると、
カタンッ…と小さな木の様な音がした。
カチャ…カチャッ…。
続く食器が動く音。
…来た!!
グッとクラヴィオは両手に力を入れ、前を見る。
そこにはユラユラと不安定に揺れる食器達がいた。
目を見開き集中する。身体のなかを血液が巡るように揺らめく力が巡る。碧灰色の瞳がグッと海の底を連想させるような深い海の色に変わった。
「光よ、巡れ。」
聞き取れるかギリギリの声で囁く。
柔らかな光がヴェールの様に薄く幕を張り、部屋中を照らした。
「……ち枚、にま…。て…ねい…。」
数を数えているのだろうか。小さくか細い声が聞こえた。客は勿論、賑やかな中料理を作っているオヤジにはきこえていないのか、気が付いている様子はない。
昔こんな怪談話があったよな…。クラヴィオはそんな事を考えながら霊の気配を感じとろうと部屋中を隈なく眺め、シンクに視線を戻す。
……?気配はない。
どうやら幽霊の類ではないらしい。
ガチャンッ…
その時だった。食器がシンクに落ちる音がして、クラヴィオは慌ててシンクに回り込もうと走った。
シンクに着くと、転がった木箱と濡れた床があるだけで、誰もいなかった。
シンクを見る。
洗剤の泡が浮いた水に浸かる汚れた食器があるだけで、特に変わった事はなかった。幸い、落ちた皿も割れてはいないようだ…。
向こうではオヤジが音に気がついたのか心配そうにこちらを見つめていた。
何だったんだ?ネズミか?
もう一度ゆっくり見回し、何かいないか確認する。
床には小さな靴の足跡のようなものが1つあるだけだった。
子供?しかし姿はないし、霊の気配もない。
オヤジさんに子供は居ないはずだ…。
首を傾げる。
仕方なくクラヴィオは同じく隠れていたリュカに話を聞きに行った。
「なぁ、リュカ…さっき。」
リュカに声をかける。リュカは何故か壁の方を向きながらプルプルと震えていた。
何か特別恐ろしいものでも見たのだろうか。
小さな頃じいちゃんから聞かされた目の腫れた女の霊を思い出す。
…うぅっ……浄化は出来る…出来るけども怖いもんは怖いんだよなぁ…。
震える子羊…もとい、守銭奴様に声をかける。
「おい、リュカ…リュカ!大丈夫か?」
動揺している為か、中々振り返らないリュカに痺れを切らし少し強めに声をかける。
「ク、クラヴィオ…。大丈夫だ。」
怖かったのを我慢していたのか、妙に強ばった真顔で答える。
我慢しているのだろうか、体に力が入り、口の端や、目元がピクピクしている。
俺は心底同情して、
「大丈夫、大丈夫!俺がついてるから。」
「お、おぅ…」
震えが増している気がする。
相当怖かったんだろう。俺はリュカの背中を優しくさすり、
「で、見たのか?言いにくくなければ話てくれ。」
「だ、大丈夫だ…。見たよ…。ここから。きっとまた出てくる。」
「わかった。」
遠くから心配そうに見てくるオヤジさんに目配せをし、軽く頷く。
オヤジさんは察してくれたのか、静かに頷き調理を開始した。
「俺は、耐えれる気がしない。離れた所でみてるよ。」
リュカは早口でそう言うと、そっとその場を離れ出入口側に移動して行った。
まだ震えが残るのか、後ろ姿の肩が揺れていた。




